あなたSide
________________________
雨が降った。
ただそれだけ。
傘もなく濡れて帰ってた
得に気にすることもなく、
涼しいからいっかってくらいだったのに
そらは仰天した顔をこっちに向けて、
無言で私の腕をつかんで連れていかれた
発した私の声さえ、耳に届いていないように
ただ雨の音が響いて
二人ともびしょ濡れ。
少し長く伸びたそらの襟足からは、雫が垂れてて
ってこっそり思った。
私は過去に、君の虜だったことをよみがえらせる原因となる横顔
カチャカチャと鍵をあけ、部屋に誘導してくれる。
いやだ、
そらの匂いで溢れかえって、
もう過ぎたことなのに、手を伸ばしてしまいそう
なんだか無愛想になったそらは、
とTシャツを差し出してくる
遠慮したって、引き下がらない頑固なとこは変わってなくてさ、
背中を押されながら風呂場に歩かされる
お言葉に甘えて、シャワーを浴びたけど
そらから借りたTシャツは、なんだか
そらとは違う匂いがして。
あまくて。
おかしみたいで。
背中らへんにある、
この紅い染みは何だろうって
せめて、
最後だけ
―ぎゅっ
そらを抱きしめてから
と、耳元で呟いて
また雨に濡れて、街を走っていく
この紅い染みが、
滲むに滲むまで、
ただひたすら、
雨に打たれていた。
From.Strawberry moon🌃
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!