放課後、私と蒼は手を繋いで学校を後にした。
隣に蒼がいると思うだけで胸がドキドキしてくる。
「週末、華凛どこ行きたい?」
「そうだなぁ……。普通はどこに行くのかな?わたし、付き合うのって初めてだから全然分からなくて」
「映画館、遊園地、水族館、ショッピング……とか?」
「どれもいいね!あっ、最近始まった映画観たいのあったんだよね。でも、水族館もいいなぁ……」
「それ以外だったら、ボーリングとかカラオとか。二人っきりでゆっくりするなら漫画喫茶もあるけど」
「……なんか……ずいぶん詳しいんだね?前の彼女と……行ったの?」
「いや、そういうんじゃないけど一般的にはそういうところ行くのかなって」
「そっか……」
わたしは誰かと付き合うのは初めてだけど、きっと蒼は初めてじゃないんだろうな。
そう思うとどうしても胸が痛くなる。
もっと早く蒼と出会いたかったなって思っちゃう。
見たこともない元カノにヤキモチ妬いていじけるなんて……。
「……って、ごめん。なんか勝手にヤキモチ妬いちゃった」
「いいよ。華凛のヤキモチなら嬉しいし」
「嬉しい?」
「それだけ俺のこと好きってことでしょ?」
「そうだけど……」
「大丈夫だって。今、俺は華凛のことしか見てないから」
蒼の言葉に胸がキュンっとする。
「……うん」
「それに、俺も華凛と同じだし」
「どういうこと?」
「付き合ってからも華凛は俺のものだって言いふらさないと不安になるってこと。どうしてくれんの?」
「っ……」
「俺、自分のこと独占欲強いとかヤキモチ妬きとか思ったことないんだけど華凛のこととなるとダメだ」
困ったように笑う蒼。
「他の男と華凛が笑顔でしゃべってんの見るのも嫌だし。なんか今になって渡部の気持ちが分かった気がする」
「直の気持ち……?」
「そう。可愛い彼女がいると大変だって分かった」
サラッと可愛いと言うなんてズルい……。
「い、いいよ」
「ん?」
わずかに首を傾げてわたしの顔を覗き込む蒼の表情に胸がトクンっと鳴る。
「言いふらしてもいいよ。だって私は蒼のものだから」
目が合うと、蒼はほんの少しだけ驚いたように目を見開いた。
そして次の瞬間、パッとわたしから目を反らした。
「なんか蒼……顔……赤いよ?」
「やめろって、マジ見ないで」
「蒼?もしかして……照れてるの?」
その言葉と同時にわたしの唇にあたたかい何かが触れた。
わたしの唇に触れているのが蒼の唇だと気付いた瞬間、今度は私の顔がぼっと赤くなった。
「き、き、キス……。こんなところで……、誰かに見られたら恥ずかしいよ……!」
「さっきの仕返し」
「い、イジワル……!」
「俺のものだって言いふらしていいんでしょ?」
「そ、それとこれとは……」
そこまで言ってハッとする。
わたしたちのことを見て真っ赤な顔をしている生徒たちが複数いた。
「蒼、見られちゃったよ!!早く行こう……!」
あまりの恥ずかしさに蒼の腕を掴んで歩き出す。
「焦ってんの?」
「焦るに決まってるよ……!外でキスなんて……そんな大胆な……!」
「可愛いこといった華凛が悪い」
「へ?」
「俺の理性がきかなくなるようなこと言ったらまたするからね」
蒼はそう言うと、歩きながらわたしの唇にキスをした。
ほんの一瞬のことだった。
「……っ」
「好きだよ、華凛」
蒼がわたしの手に指を絡める。
全身に幸せという感情が込み上げてくる。
わたし、これ以上ないほど蒼が好き。大好きだ。
「わたしの方が好きだよ」
「いや、俺の方が100倍好きだから」
「じゃあ、私は1000倍!!」
「ははっ、負けず嫌いか」
幸せを噛みしめながら微笑むと蒼もポーカーフェイスを崩す。
ずっと蒼のぬくもりを感じていられるように、わたしはつないでいる手にぎゅっと力を込めて握り締めた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。