日が暮れ、学校を後にする。
雨宮くんが家まで送ってくれることになり、わたしと雨宮くんは揃って歩いた。
「ねぇ、雨宮くん。い、いつからその……?」
「ん?なに?」
「だから……」
「俺達もう付き合ってるんだし、隠しっこなし。言いたいこともあるなら全部言って欲しい」
「……だよね。あのさ……いつから私を好きになってくれたのかなぁ……って」
「あー……いつから、って言われると難しい」
「だよねぇ……」
わたしだって雨宮くんをいつから好きなのかって聞かれてもうまく答えられる自信がない。
だけど、多分わたしはあの日……
雨宮くんが転校してきて教室の中で自己紹介をしたとき……教壇の上で目が合った瞬間には恋に落ちていたのかもしれない。
一目惚れなんてわたしの人生で起こるはずがないって思っていたのに。
「でも、多分、おばあさんのことを駅まで案内しようとしてた姿見た時かな」
「へ?駅?案内?何の話……?」
「始業式の日、おばあさんに駅の場所聞かれなかった?」
「聞かれたけど……」
確かに始業式の日、『駅まではどうやったらいけるのかしら?』と見知らぬおばあさんに聞かれて駅まで一緒にいったけど。
「えっ、でもどうしてそれを雨宮くんが?」
「俺も数分前に聞かれたんだ。駅の場所を教えて欲しいって。スマホで調べたりもしたんだけど、転校してきたばかりで最寄りの駅の名前も分かんなかったから。で、違う人に聞いておばあさんに伝える為に戻ったら花山がいた」
「そ、そ、そうだったんだ!」
まさかあの場所に雨宮くんがいたなんて想像もしていなかった。
「ニコニコ会話しながらおばあさんの荷物持って歩く花山見た時、可愛いし優しいしこんな子いるんだなって。そしたら、その子が同じクラスで。しかも隣の席」
「すごい偶然だね」
「それからずっと花山のことが気になってて。でも、絶対付き合ってる男いるだろって思ってたらいないし、しかも付き合ったことないとか言われるし。突然でかい声で俺の名前呼ぶし、焦ると固まるしなんか掴みどころないし。ホント、ツボった」
「え……、それ褒められる?けなされてる?」
「褒めてるんだよ」
「……わたしのコミュ症も嫌じゃない……?」
「当たり前。俺は今の花山がいい。コミュ症とかそんなのどうだっていいし、むしろそのままでいてくれると助かる」
「こんなわたしで……いいの?」
「うん。でも、俺だけに見せてよ。花山のこと知ってるのは俺だけがいい。渡部には見せてない顔も俺にだけは見せて」
「っ……」
雨宮くんはそっとわたしの頬に触れた。
「可愛すぎ。家に帰したくなくなる」
「雨宮くん、だ、だめだよ。そういうの反則!」
「そういうのって?」
「あ、雨宮くんみたいにクールな人がそういう甘いセリフを言うとドキドキしちゃうよ!」
「大丈夫。花山にしか言わないから」
「そ、そうしてもらえるのはありがたいんだけど……」
だって、わたし以外の女の子にそんなことを言ったらみんないちころだ。
わたしだって骨くだけそうになるのを必死の思いで踏みとどまっているというのに。
「俺、こんなこと思うの初めてなんだけど」
「うん?」
「花山のこと絶対に離したくない。ずっと自分のものにしておきたい」
「あ、雨宮くん……」
「自分がこんなに独占欲と嫉妬心が強いとか思わなかった。渡部にも嫉妬したし」
「そ、それならわたしだってそうだよ……!こんな風に誰かのこと好きになるの初めてだし」
こんな気持ちになったのも、全部全部雨宮くんが初めて。
前に言われたよね。『花山の初めて、全部俺にちょうだい』って。
わたしの初めて、全部雨宮くんにもらってほしいよ。
「家まで送ってくれてありがとう。また明日ね」
「じゃあね、華凛」
「華凛……?今、な、名前で呼んだ??」
「もう付き合ってんだし、名字で呼び合うのも変だから。俺のことは蒼でいいよ」
雨宮くん……じゃなくて蒼はそう言うと今度こそわたしに背中を向けて歩き出す。
大きなその背中が小さくなっていくにつれ、心細くなる。
恋をすると……こんな気持ちになるんだ……。
それにしても――。わたしと蒼が……両思い?彼氏彼女?
わたしはそのまま玄関に飛び込み、階段を駆け上がると自分の部屋の扉を開けてベッドにダイブした。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。