第11話

ハプニング
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2022/07/23 00:58
雨宮くんとも直とも特に関係が進展することなく、気付けば6月に突入していた。

雨宮くんは今日も相変わらず女子達に囲まれてキャーキャー言われているし、直は以前よりも距離を縮めてこようとする。

休み時間も昼休みも時間があるとわたしの席にやってきて雨宮くんとの間に立ちふさがりわたしたちが接触しないようにガードしているみたい。

でも、わたしは直のそんな行動をとがめることができない。

自分の気持ちは間違いなく雨宮くんにあるのに、直を突き放すことはできない。

わたしはこれから先、一体どうしたらいいんだろう。

悶々とした気持ちを抱えたまま家に帰るとお母さんに直の家に回覧板を届けて欲しいと頼まれた。

渋々家を出て直の家に行くと、おばさんに引き止められ家に上がることになってしまった。

直の家に入るのは久しぶりだし、なんだか緊張してしまう。

「お、お邪魔します……」

玄関には男物のスニーカーが置かれている。直は家にいるようだ。

突然きてきっと驚かせちゃうよね……。

手洗ってくるように言われて洗面所へ向かう。


昔はよく直の家に遊びに来た。洗面所で手を洗ってリビングでお菓子を食べて直の部屋で一緒にゲームをする。

遅くなってしまった日は夕飯までごちそうになって一緒にお風呂に入って同じベッドで眠りについた。

逆に直がうちへやってきてお泊りしたこともある。

わたしは長い時間直とともに過ごしたんだと実感する。

廊下の突き当りの右側にある洗面所へ向かう。

「……っっ!!!」

そして、扉をスライドさせた瞬間わたしは凍り付いた。

目の前には上半身裸で髪をタオルで拭く直がいた。

「な、直!?」

「華凛?なんでうちにいんの?」

「な、な、直こそなんで!?どうして裸なの!?は、早く隠して!!」

目のやり場に困っているくせに直の上半身から目が離せない。

腕も胸もお腹も昔とは全然違う。

筋肉質な腕、それに割れた腹筋。胸板も厚いしわたしとは全然違う体つきをしていた。

そもそもこうやって直の体をマジマジと見たのは初めてかもしれない。

不思議。直なのに、直じゃないみたい。

「な、直も男の子だったんだね……!」

「ハァ?当たり前だろ。俺のことなんだと思ってたんだよ」

「それは……。ていうか、なんで直はお風呂場に!?」


思わず一歩後ずさると、直が呆れたように言う。

「いや、なんでって言われても困るし。汗かいてたからシャワー浴びてただけ」

「ふ、ふーん。そうなんだ!」

「何だよ。その反応もしかして照れてんの?」

「て、照れてなんていないよ!た、ただ目のやり場に困るなぁって」

「だよなぁ。昔は一緒に背中洗いあった仲だしな」

「そ、そうだっけ!?もう忘れちゃったよ!」

「目、泳ぎすぎ。耳まで真っ赤だぞ?」

「だ、だってビックリして……それで……」

「可愛いな、華凛は」

「……なっ、か、からかうのやめてよね!」

平静を装おうとしているのに声が上ずってしまう。

「つーか、なんでうちにいんの?」

ようやく着替えを終えた直。わたしはホッと胸を撫で下ろす。

「お母さんに頼まれて回覧板持ってきたら、プリンを食べようっておばさんに誘われちゃって」

「そっか……。母さんに誘われたから……か」

露骨に声を落とす直。

「ていうか、ごめんね。勝手に開けて」

急いで洗面台で手を洗ってからクルリと直に背中を向けると、直の腕が後ろから伸びてきた。

その手はわたしの体を包み込んだ。

「な、直!?」

「華凛」

ギュッと抱きしめられて、耳元で直の声がする。

鼻に届いたシャンプーのにおいにドキッとした。

「俺、余裕なさすぎるよな……。雨宮に華凛のこととられたくなくて。それで――」

「直、あとで話そう」

「あぁ」

直が腕を離した。

わたしはそのまま振り返ることなく、洗面所を後にした。

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