第12話

愛情と同情
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2022/07/23 01:01
「プリン、美味しかった~!」

リビングでおばさんと3人でプリンを食べたあと、わたしは直の部屋にやってきた。

8畳ほどの部屋の中にベッドと机とテレビがあるだけのシンプルな部屋。

クローゼットの中には直の好きなブランドの洋服がこれでもかというぐらい詰め込まれている。

この部屋には何度も来たことがあるのになんだかソワソワと落ち着かない気持ちになる。

「適当に座って」

「うん」

「あのね、直。私、直に言わなくちゃいけないことがあるの」

私は真っすぐ直の目を見た。

答えは決まった。直に言おう。私はやっぱり雨宮くんが好きだと。

「私は――」

「聞きたくない」

直が私の言葉を遮る。

「俺だけのものになってよ、華凛。雨宮のことなんて見るなよ。アイツのこと考えんな」

わたしは確かに直が大切だけど、わたしの心の中にいるのは雨宮くんだ。

直は優しいし、わたしの気持ちを分かってくれるし、直が彼氏ならきっとわたしはこれから先も幸せに暮らしていけるに違いない。

でも、私は雨宮くんじゃなきゃダメなんだ。

「俺、華凛を雨宮にも他の男にも……絶対に渡したくない。頼むから、俺と付き合ってよ。俺を好きになってくれよ」

黙っているわたしの手首を掴んで優しく引っ張る直。

わたしは床に座り込み、直と向かい合う格好になった。

直の目がほんのわずかに潤んでいることに気付いて胸が張り裂けそうになる。

結局、私はこの日も直に気持ちを伝えることができなかった。



翌日、授業を受けている間もどこか上の空だった。

雨宮くんと直のことがグルグルと頭の中を回っている。

雨宮くんに対する自分の気持ちを優先させれば直を傷付けることになる。

直が傷付く姿を見るのは嫌だ。でも、自分の気持ちに嘘をつき、更に直に嘘をついて付き合うのも違う。

直を好きになれたらいいのに。そうすれば、すべてがうまくいく。

分かっていても理想と現実は違う。

直のことは大切に思ってる。どうして直のことを……わたしは異性として好きになれないんだろう。

どうして――。

昼休み、屋上で瑠香とお弁当を食べる。

「華凛、どうしたの?アンタ、いつにもまして変だけど。雨宮くんと直のことでまだ悩んでんの?」

「え、どうしてわかったの?」

「分かるに決まってんじゃん。華凛ってほんと分かりやすいし。で、今度はなに?」

瑠香にわたしは昨日の出来事を話した。

「華凛が好きなのは雨宮くんなんでしょ?だったら、答えはもう出てるじゃん」

「それはそうなんだけど、そうしたら直が――」

わたしが言いかけた瞬間、瑠香が「あのさ」とわたしの言葉を切った。

その表情にはどこか怒りが感じられた。

「結局それって華凛はどっちにもいい顔したいってことでしょ?」

「え……?」

「雨宮くんのことは好きだけど、直も幼なじみとして好きってことじゃん。欲張りすぎでしょ」

瑠香はまくしたてるように言う。

「愛情と同情はイコールじゃないよ。直のこと好きじゃないならハッキリ言いなよ」

「でも……」

「この際だからはっきり言わせてもらう。華凛のその曖昧な態度と不必要な優しさが逆に直を傷付けてるのに気付いてよ」

瑠香がグッと奥歯を噛んだ。そして、小さく息を吸い込むと一気に言葉とともに吐き出した。

「言ってなかったけどあたし、ずっと前から直が好きなの」

「え……?」

一瞬、思考がフリーズする。

コホンっと咳払いしてから、瑠香が続けた。

「直が華凛のことを好きなのも知ってた。でも、あたしは直が幸せならそれでよかったし、華凛とうまくいくことも願ってた。でも、今は正直……華凛とうまくいってほしくないと思っちゃうよ」

「瑠香……」

「直のこと好きじゃないならちゃんと伝えなよ。自分の気持ちに嘘ついて同情から直と付き合うのだけはやめて!!」

瑠香は今にも泣きだしそうな表情を浮かべて立ち上がると、そのまま屋上を飛び出していった。

一人残されたわたしは、天を仰いだ。

わたしは一体今まで何を見ていたんだろう。

直が自分のことを好きなことにも、瑠香が直のことを好きなことにも気付かずにいたなんて。

自分自身の不甲斐なさに泣きそうになる。

わたしは知らず知らずのうちにたくさんの人を傷付けていたんだと実感する。

膝を抱え込んでハァと大きなため息をつく。

心の中のモヤモヤが一層大きくなってしまったみたい。

「どうしたらいいんだろう……」

目の前が滲む。

呟いた自分の声が震えていることに気付いた時、ようやく涙を流していることに気がついた。

瑠香はいつから直が好きだったんだろう。直はいつからわたしを好きでいてくれていたんだろう。

どうして気付かなかったんだろう。

過去を変えることも戻ることもできないのに、二人の気持ちに気付けなかったのかという後悔の念が沸き上がって収まることはなかった。

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