第19話

下着店にて、変態おじさんの乱
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2019/08/09 09:44

遊佐くんの唇がゆっくりと離れていく。

混乱したままの私を放って、彼は怒った顔で試着室のカーテンを勢いよく開けた。
遊佐
遊佐
アイツ、好き勝手言いやがって!
心美
心美
え、ちょっ!
突然開けられた試着室にさっちょんとヒカルくんはびくりと肩を揺らした。
私は慌ててみっともない鼻血を拭った。

その時、さっちょんの背後に黒い影が忍び寄る。
??
はあ、はあ…
ねえ、おじさんに脱ぎたてホヤホヤの
パンティーくれないかなあ?
真っピンクのパンティーを頭に被った変態おじさんが、荒い息でさっちょんへと手を伸ばす。
ヒカル
ヒカル
紗季ちゃん!!
ヒカルくんがとっさにさっちょんを庇い、彼がおじさんに拘束されてしまう。
変態おじさん
実はおじさん、美青年もアリだから
ほら今ここで脱いでよぉ……
ヒカル
ヒカル
ひ!!
ヒカルくんの身体を撫でる、気持ちの悪い手。

こ、こんなのどうしたらいいの?!


その時――
遊佐
遊佐
ヒカルしゃがめ!!
くそ、……何してんだおっさん!


ゴッ!!



遊佐くんは変態おじさんの顔面に、回し蹴りをくらわせた。
ヒカル
ヒカル
……お前、今ヒカルって
ヒカルくんは驚いた顔で固まる。

しかしおじさんはめげずに、あろうことか遊佐くんへとターゲットを変えた。
変態おじさん
痛いな~
でも君も魅力的なカラダだね
パンティーはトランクス?ボクサー?
まさかブリーフとか?
心美
心美
遊佐くん!!
心美
心美
(どうしよう……このままじゃ遊佐くんが変態おじさんの餌食に! 私がなんとかしなきゃ!)
リセイウチ
リセイウチ
行ったらアカン!
嬢ちゃんが危ない!
止めるリセイウチを振り切って飛び出そうとしたけど、怖くて足がすくむ。
スケベアー1号
スケベアー1号
心美、僕たちに任せるんだ!!
スケベアー達は必殺技を繰り出そうと機会を伺う。




しかし次の瞬間、ヒカルくんが遊佐くんを庇うようにおじさんの腕をぎりぎりと締め上げた。
ヒカル
ヒカル
汚い手でこいつに触るな!!
遊佐
遊佐
……!
遊佐くんはヒカルくんの行動に目を見開いた。
心美
心美
(今だ!)
スケベアー1号
スケベアー1号
必殺★★★!!
スケベアー2号
スケベアー2号
ラッキーーースケベ!!!
スケベアー3号
スケベアー3号
変態おじさんのズボンよ
スケベアー4号
スケベアー4号
脱げろぉおおおおお!!
おじさんのズボンが呆気なくストンと落ちた。
変態おじさん
いやん!恥ずかしいいいい!!
おじさんの可愛らしいリボン付きのパンティーが露わになり、見るに堪えない光景。

そこへ騒ぎを聞きつけた店員や客が集まり、変態おじさんはあっという間に警備員に引きずられていった。








私達はそのまま、近くの喫茶店で一息つくことにーー


ヒカル
ヒカル
…ヒカルって呼ばれたの
久しぶりだったよ
遊佐
遊佐
……聞き間違えじゃね?
庇い合った双子はなんだかむず痒い雰囲気。

さっちょんと私は思わず目を見合わせた。


遊佐
遊佐
…なあ、ずっと聞きたかんたんだけど
お前なんで母さんについてったわけ?
口を開いたのは遊佐くん。
遊佐
遊佐
あんな浮気女
俺たち兄弟と親父を捨てたのに
ヒカル
ヒカル
……はぁ、もっと信じてあげなよ
母さん、浮気なんかしてない
遊佐
遊佐
だって男と親しげに会ってたの
親父が見てんだぞ?
ヒカル
ヒカル
口止めされてたから言わなかったけど
……母さん、病気なんだ
遊佐
遊佐
は?!
彼は口を開けたまま固まった。
ヒカル
ヒカル
会ってた男は母さんの古い友人で
総合病院の医者なんだ
ヒカル
ヒカル
病状が重くなってるのに、家事も
子育てもあるから入院したくない
って言い張る母さんを説得してたんだ
遊佐
遊佐
なんだよそれ……なんでもっと早く
言ってくれなかったんだよ!!
遊佐
遊佐
それで母さんは?!
ヒカル
ヒカル
今は安定してる
心美
心美
(そっか…そんな事情が……)
遊佐
遊佐
……俺ってそんなに頼りねえ?
ヒカル
ヒカル
あの時は南ちゃんのこととか色々あって
僕も意地張ってたから
遊佐
遊佐
……俺ら、言葉が足りてなかったんだな
心美
心美
遊佐くん……
心美
心美
(やっと和解できたんだ…なんか私まで嬉しいな)

じーんと目の前の光景に浸っているとヒカルくんが口を開いた。
ヒカル
ヒカル
でも心美ちゃんは諦めないから!
遊佐
遊佐
はああ!?
心美
心美
ヒカルくん!
あの、告白の返事だけど……
私はヒカルくんの気持ちにはーー
ヒカル
ヒカル
分かってるよ
だから返事はもういらない
YESの返事しかいらないから
遊佐
遊佐
おい!! 
いくらお前でも心美は譲らないからな
ヒカル
ヒカル
お前、そんなこと言ってると
すぐ心美ちゃんに見限られるよ
遊佐
遊佐
は?どーいう意味だよ!!
ヒカル
ヒカル
じゃ、紗季ちゃんいこっか!
紗季
紗季
え……どこに?
ヒカル
ヒカル
君を利用したことのお詫びに
二人きりでデート!
紗季
紗季
え!! ふ、ふふふ二人きりで?!
慌てるさっちょんの手を握りヒカルくんはスタスタと出口へと歩く。




ヒカル
ヒカル
あ、そうだ
もう学校で変装するのやめなよ
僕に気を使ってんでしょ?
ヒカル
ヒカル
でもお前ごときが素顔晒したって、
僕の人気は超えられないよ?
遊佐
遊佐
……くそ、相変わらずムカつく!
色々黙ってたのは許してねーからな!!

少し晴れやかなヒカルくんはさっちょんを引っ張り喫茶店から出ていった。

もしかしたら、この双子は喧嘩しているくらいが丁度いいのかもしれない。

心美
心美
よかった……… のかな?
遊佐
遊佐
おい心美
いつ切り替わったのか、
ドSの遊佐くんが私の頬をガッと掴み蠱惑的に笑う。
遊佐
遊佐
夏休み入って忘れてるだろうけど
お前は俺の家政婦だろ?
心美
心美
え?!あれってまだ有効なの?!
遊佐
遊佐
ばーか、お前はずっと俺の家政婦で
俺のもんなの
独占欲の強いドSは、やはり健在。

更に彼は有無を言わせない満面の笑顔で一言。

遊佐
遊佐
今日、俺んち泊まってくだろ?

ああ、スケベの神様。

なぜこの遊佐理人にここまでの色気をお与えになったのでしょう。

私は鼻血を吹き出すとともに、大きく頷いた。



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