遊佐くんとヒカルくんは南ちゃんの怪力に引っ張られて行く。
気づけば私は1人だけポツンと、薔薇アーチの下に取り残されていた。
文化祭一日目は南ちゃんという小柄な鬼によって絶望へと変わった。
魂が抜けて幽霊のような私は、クラスのお化け屋敷へと向かう。
きっと今ならお化け役だって余裕でこなせる。
私は事のいきさつを全て話した。
そういえば言ってなかったっけ……。
諸々説明したあと、
さっちょんはさらに南ちゃんに敵意をむき出し、声を荒げた。
さっちょんの目はゴウゴウと燃えたぎる。
さっちょんは何かをひらめき、ニヤリと笑った。
私たちはというと、大きなシーツの中に二人で入り、お化け屋敷のプレートを掲げ歩いていた。
きっとオバケというより、四足歩行の白い奇妙な生き物に見えてるだろう。
私達は南ちゃん率いる双子にそーっと近づき、いかにも彼女の好きそうなロリポップを落としていく。
ポトリ、ポトリと道しるべのように。
そして終着点にはお菓子のバスケットをど~~んとセットし、南ちゃんを罠にかける戦法だ。
リセイウチの言う通りかもしれない。
私の心配をよそに、彼女は盛大に引っかかった。
脳内でズコーーーとひっくり返ったリセイウチはさておき。
南ちゃんはぴょんぴょん飛び跳ね、私達の思惑どおりに2人から目を離した。
ばっとシーツの中から飛び出したさっちょんは、
ヒカルくんの手を取り走る。
振り返ってヒカルくんに笑いかけるさっちょんは、めちゃくちゃ可愛くてかっこよかった。
恋する女の子ってスゴイ。
さささっとシーツを被ったまま遊佐くんに近づき、白い布の中と引きずり込む。
ほっとしたのもつかの間、南ちゃんが辺りを見回す。
私達は南ちゃん、いや、鬼から逃げるように走った。
気づけば私は彼の腕の中にいた。
そうだった、シーツの中は二人きり。
スケベアー達が舞い踊る。
後ろからハグされているせいで、遊佐くんの声がダイレクトに耳元で響く。
バックバク……すごくスケベ!!
おまけにまだ9月はまだ上旬、シーツの中は暑くて、彼の体温も熱くて……。
息を切らした男女がシーツの中で2人きりって……!!
彼はシーツの中だからか、メガネを外した。
彼は後ろから私を抱いたまま、髪を搔き上げた。
何このアングル…スケベ……最高だ。
ふいに彼が私の首筋の一点をくるくると指でなぞる。
そう言ってツーーっと首筋をくすぐる彼。
あまりの刺激にスケベアー達は踊り狂い、私の鼻からは鼻血がこんにちは。
“りっくん” 懐かしい響き。
小学生の頃遊佐くんのことをそう呼んでいた。
ちゅううっと首筋に長いキスを落とす遊佐くん。
期待に胸ふくらませた時、ピタリと遊佐くんの動きが止まった。
遊佐くんは黙り込んでしまった。
遊佐くんは表立って言わないけど、やっぱり双子なんだ。
ヒカルくんのこと、他の兄弟と同じように大切に思ってる。
だとしたらーー
遊佐くんはまた黙り込んだ。
私はシーツの中から逃げるように飛び出した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。