事故のキスだった。
怖いくらい無表情の遊佐くんは、私の上の風助くんを強引に引っ剥がす。
遊佐くんは私を立ち上がらせると、まるで自分のものだと言いたげに抱きしめる。
彼は痛いほど私を抱きしめる。
少し苦しいけど、やっぱり遊佐くんの腕の中はしっくりくる。
でも突然、遊佐くんとは別の体温が後ろから私を抱きしめた。
その正体は、対抗心むき出しの風助くん。
二人に挟まれて、まるでイケメンサンドイッチ状態。
スケベアー達もスケベシチュエーションに大興奮。
睨み合う二人の間にバチッと火花が散る。
更にバチバチと火花が散る。
まるで黒豹と虎が睨み合うように空気が張り詰める。
その間でぎゅうぎゅうと押しつぶされる私は、前にも後ろにも逃げ場はなし。
唇に触れる柔らかい彼の熱。
遊佐くんは突然私の唇を奪った。
目の前のドSがニコリと笑う。
顔に熱が集まり、鼻からは血が滝のように流れだす。
しかし、風助くんは全く動じず私の顔を強引に後ろに向かせた。
風助くんのけだるげなハスキーボイス。
反則級のスケベゼリフが耳に響く。
スケベアー達が真っピンクのスケベアーも交え、私の頭の上をクルクルと踊り狂う。
ゆっくりと近づく風助くんのギラついた瞳。
ダメだとわかっていても、スケベの本能が私の体の奥底で疼く。
キスまであと数ミリ……。
その時ーー
怒鳴り声の先にはおじいちゃんが立っていた。
気づけば私の周りには鼻血の水たまり。
くらりと貧血で目を回した私を遊佐くんが優しく抱きとめた。
ゴーーーーーーン。
リビングの古時計が18時を告げる。
すっかり鼻血の止まった私とイケメン二人は並んで正座し、おじいちゃんからのお説教タイム。
ビリビリと痺れる脚がそろそろ限界。
説教をぶった切るように叫ぶと、おじいちゃんは口を閉じた。
半分やけくそな理論だけど、本当にそうだ。
いつだって私の鼻は嘘をつかない。
そう、
今みたいに嬉しそうにはにかんだ彼の笑顔が大好き。
つられて自然と頬が緩む。
やる気を無くしたように立ち上がったのは風助くん。
急にさっきより何倍も粗雑な態度に変わった。
ひらりと手を振って足早に帰ろうとする風助くん。
立ち上がろうとしたその時、脚の痺れのせいでぐらりとバランスを崩す。
とっさに肩を支えてくれた風助くんの目を見た瞬間、はっとする。
ギラついていたはずの目は涙で潤んでいて、幼い頃に見た寂しがりやの瞳を思い出す。
苦笑するように笑った彼は、ボソリと何かつぶやいて帰っていった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。