遊佐くんを突き飛ばしたあの日から、ずっと話しかけられずにいた。
スラリと背の高い遊佐くんが門の向こうに見えて、思わず木陰に隠れてしまう。
今朝もまた虚しく木に向かって挨拶の猛特訓。
全くいい挨拶が思いつかず、頭を抱える。
でも、やっぱり謝りたいーー。
この足音……遊佐くんだ!
私はリセイウチの声を無視し、木陰から飛び出した。
無意識で閉じていた目を開けると、朝日より眩しいキラキラオーラがあった。
遊佐くんはというと、まだはるか向こうの校門で先生と会話をしている。
思い当たる節はたくさんある。
謎の胸の痛みや、違和感……。
ヒカル会長は大きく息を吐いて、ふわりと笑った。
とっさにヒカル会長の背に隠れてしまう。
通り過ぎざまに呟いた彼の声が、グサリと胸に突き刺さった。
遊佐くんは私と目も合わぜず、スタスタと足早に真横を通り過ぎていく。
邪魔
邪魔
邪魔
邪魔ーーーー
エコーする遊佐くんの言葉が、すっかり脳内にこびりついてしまった。
なんだ、おにぎりの味がしないと思ったら……。
米粒と梅干しがボトリと鼻の穴から落ちた。
話せと言わんばかりにこちらを見つめるさっちょん。
私は米粒を拾いながら、ぽつりぽつりと話す。
そしてさっちょんは軽く私のおでこをこづいた。
目の前のイケメン女子に思わず抱きついた。
放課後、さっちょんのはからいで、私達は人気のない階段の踊り場で待ち合わせた。
コツリコツリ、と遊佐くんのローファーの高い音が近づいてくる。
朝は間違えたけど、今回は遊佐くんの音だ。
私はその足音に向かって叫んだ。
ごめん、がハモってしまい互いに見つめ合う。
乱暴にメガネを外した遊佐くんは、じっとまっすぐにこちらを見つめた。
深く頭を下げる遊佐くんの声が、少し震えている。
ふわりと長い腕が背に回った。
いつもより柔らかいハグにドキリと胸が高まる。
優しく、ぎゅうっと抱きしめられた。
遊佐くんの声はなんだか泣きそう。
首筋に甘えるように頭を埋めた遊佐くんは、なんだか幼い子どもみたい。
だから、完全に油断していた。
そう答えた瞬間、首筋に何か柔らかい感触。
そして微かなリップ音とチリリと痛みが走った。
ぺろりと舌をだし笑った遊佐くんは、お茶目なのにお色気MAXだ。
キスの跡が痺れて、トクトクと脈を打つ。
その脈に合わせてポン!ポン!ポン!!とスケベ心が産まれた。
パアン!!
パアン!!
パアン!!
私は思わず脳内で叫んでいた。
リセイウチはカタリ、とライフルを落とした。
遊佐くんは幸せそうにキスした場所を優しく撫でた。
そう思うと、胸のわだかまりがすっと消え去った。
脳内で呟くリセイウチの声は、遊佐くんのお尻に胸躍らせる私には聞こえなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。