繰り返すように南ちゃんは言った。
そしてポケットの中から大量のお菓子を取り出し私に押し付けた。
私はお菓子を受け取って真剣に答える。
おろおろする南ちゃんを連れて、私は学校伝説の薔薇アーチへと向かった。
なんでも、アーチの下でキスすると両思いになって恋が叶うらしい。
遊佐くんに連絡を入れて、南ちゃんをアーチの下へとセッティングする。
私は彼女の背をぽんと押して、近くの生け垣に身を隠した。
時刻は11時55分。
そんなのわかってる。
でも拗れた関係は土壇場でどうにかするしかない。
ヒカルくんは待ち合わせ時間ピッタリに、キラッキラのオーラで現れた。
そして私が呼び出していた遊佐くんも。
スッとヒカルくんのキラキラオーラが消えた。
遊佐くんは何かを察したように周囲を見渡した。
ヒカルくんは気まずそうに、くるりと方向転換して立ち去ろうとする。
その手を南ちゃんがとっさに掴んだ。
目をまんまるにして南ちゃんは固まった。
ヒカルくんはまるで薔薇園の石像みたいに固まってしまった。
吹っきれたように南ちゃんは笑った。
ゴスッ。
なんだかふわふわとした空気が流れ、誤解も解けて一件落着!
とはならなかった。
遊佐君がヒカルくんの胸ぐらを掴み、今にも殴りかかりそうな雰囲気。
スケベアー達は野次馬のように修羅場観戦を始めた。
スケベアー達は、しかたないなぁと言う風に顔を見合わせ頷きあった。
次の瞬間、突風が吹き真っ赤な薔薇の花びらが空に舞い上がった。
足を取られた遊佐くんとヒカルくんが前へとつんのめる。
二人は薔薇アーチの下で禁断のキス。
花びらがひらひらと舞い落ち、美しい双子の唇がゆっくりと離れた。
2人は同時に口を押さえ、顔を青くして震えている。
その横で南ちゃんも震えている。
もちろん、笑いを堪えて。
すると口を押さえていた遊佐くんが、するりとヒカルくんの頬に手を添えた。
伝説は、所詮伝説。
ジンクスなんて信用ならない。
二人はお互いに、頬をギリギリとつねって牽制しあっている。
ゴスッ!!
ゴスッ!!
小さな体から繰り出された拳は、それはもうパワフルだった。
ぐいっ!!
南ちゃんに生け垣から引っ張り出されてしまった。
彼女の笑顔がなんだか怖い。
その場にしゃがみこんで落胆する遊佐くんとヒカルくん。
にっこり笑った彼女の笑顔にゾッとしたのは、きっと私だけじゃない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!