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第1話

面喰い
10,810
2018/10/09 09:03
九井原 夕莉
九井原 夕莉
私の大好物はイケメン
がやがやと教室が騒がしくなる昼休み。
クラスメイトたちがお弁当や惣菜を広げる中、私はいつもレモン牛乳のパック一つでお昼を済ます。
杉本 美空
杉本 美空
ゲホッゲホッ……それだけでお腹いっぱいになれるわけないでしょ
美空は三段弁当の白ごはんを頬張りながら、困ったように笑う。
美空の髪は短く切りそろえられていて、スカートの下はジャージだ。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
美空は陸上部だし~、やっぱスポーツマンタイプが好きなの?
杉本 美空
杉本 美空
ん、そんなにかな……うるさいし汗臭いなって思うことが多いし。
そりゃ遠くから見たらさわやかで汗がきらきら輝いててカッコいいって感じかもしれないけど
九井原 夕莉
九井原 夕莉
いいじゃん~! 必死で何かを追いかけてる表情とかクるものあるし、日焼けした肌も健康的なかっこよさあるし。
なによりも歯ごたえがありそうな引き締まった体がね……ふふふ。
杉本 美空
杉本 美空
夕莉……よだれよだれ
九井原 夕莉
九井原 夕莉
はっ……じゅる
杉本 美空
杉本 美空
私はもう少し優しそうな、色白で美形なタイプがいいなあ……細身で背が高い感じの
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うんうん、確かに儚げな美少年タイプも捨てがたいよ。涼しげで影がある感じがまたアンニュイで乙女心をくすぐるよね……でもあんまり肉付きがないから噛みごたえが……
杉本 美空
杉本 美空
神……? 何?
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あ、何でも無い
私は窓際の席で伏せっている男子生徒を盗み見る。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(かっこいいなぁ……春に転入してきた上嶋くん)
長いまつげに通った鼻筋、その先には薄くて整った唇が続く文句なしのイケメンなのだが。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
上嶋くんって、いつも寝てばっかりだよね。休み時間も昼休みもさらに授業中も
杉本 美空
杉本 美空
ああ、彼ってあんまり愛想もよくないし誰とも話さないで寝てばっかりだよ……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
へぇ……眠れる森の王子様って感じ
そのとき、上嶋くんの目がぱちりと開いて真っ黒な瞳と目が合った。
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(ドキッ……)
じっとこちらを見据える瞳に私は思わずどきりとして目を逸らす。
まるで黒蜜みたいに綺麗で、甘そうな瞳だった。
杉本 美空
杉本 美空
そういえば、最近行方不明になった東高の透くんって知ってる? 東高一の美少年で有名だったけど……
九井原 夕莉
九井原 夕莉
うん、小さくてあんまりお腹膨れ……こほん
私のお腹がぐぅっと鳴った。
杉本 美空
杉本 美空
も~、あんまり食べてないからお腹減るんだよ〜
九井原 夕莉
九井原 夕莉
あ、あはは……
私はイケメンが好きだ。切れ長の目や整った鼻、薄くて甘そうな唇や風になびくと艶めく髪。
そんなかっこいい男の子に触れたい、手に入れたい。












喰べたい、と思う。



放課後になったら、深くなった夜に私は紛れる。
通りかかった細身で優しそうな顔立ちをしたイケメンを私は路地裏に引き込む。
そしてすぐ裏手の林に素早く連れ込んで――
九井原 夕莉
九井原 夕莉
いただきます



がぶり
と一口、喉元を噛みちぎる。
鮮血が飛び散って私の体にどろりとした雨が降った。



九井原 夕莉
九井原 夕莉
(私は人間じゃない)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(私は人を――イケメンだけを喰べる食人鬼)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(喰べるなら、より良いものを手にしたいと思うのは当然だ)
九井原 夕莉
九井原 夕莉
(いつだって喰べる度にまるで恋に落ちるみたいにどきどきできる)

なのに、どうしてだろう。
お腹がいっぱいになっても、いつも私の胸はどこか虚しかった。

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