朝の教室、まだ人もまばらな教室で真っ先に目に入るのは。
朝から机に伏せっている上嶋幸寛だ。
冬眠を邪魔された熊みたいに低い声で上嶋くんは唸るように言った。
上嶋くんは身じろぎをして、顔を上げないまま追い払うように手を振った。
もじもじと落ち着かない美空に連れ出されて廊下に出る。すると、美空は私にそっと耳打ちした。
美空は真っ赤になった顔を手で覆い隠してしまった。
美空に抱きつかれながら横目で教室の中を覗く。
机に伏せた上嶋くんのつむじが見えて、私の胸にちくりと痛みが走った。
帰りのHLが終わってクラスメイトがぞろぞろと教室を出ていく。でも、上嶋くんは腕に頭を載せた居眠りスタイルのまま動かない。
私は上嶋くんを強めに揺すった。
揺さぶった上嶋くんの頭が横になって、顔が見える。汗で額に張り付いた前髪と、紅潮した頬、それから浅い呼吸。
額から離そうとした手を上嶋くんに掴まれる。熱で揺らいだ黒い瞳が、じっと私を見つめていた。
大きくて、ごつっとした手が縋るように私の指先を握る。
私の名前……?
助けを求めるように、か細く弱々しい声を絞り出して、上嶋くんは意識を失った。
ゆうかって――――誰?
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。