しばらくして私は落ち着いた。
私はもう一度、満遍なく棚の中などを確認した。
だが、それ以上は何も無かった。
扉を開けると、私は振り返らずに出て行った。
階段を降りている時、リビングの方から物音がした。
響のお母さんが帰ってきたんだ。
何か分かるかもしれない。
そう思い、バレないよう静かにリビングへ近づいた。
扉は閉まっていたが、少しの隙間はあった。
私はその小さな隙間からリビングを覗いた。
変わった様子は特に無い。
その時だ…!!
『未優ちゃん、お腹空かない?』
響のお母さんが台所の方から私を見ていた。
目が合った時、私は鳥肌がたった。
口は笑っているが、目は笑っていないことに気づいたからだ。
響のお母さんのそんな表情は初めて見る。
いや、今までは私が気付いていなかっただけなのかもしれない。
とりあえず、私は扉を開けリビングに入った。
『いえ、最近食欲が無くて……』
私はそう返事をした。
『そうなのね……。まぁソファに座って休憩してて。紅茶は飲める?』
『飲めます』
そう返事をした後、私はソファに座った。
そして、何故響の部屋には物が全然無かったのか、もう一度考えた。
さっきまでは響のお母さんに聞こうか迷っていたが、止めた。
何を企んでいるのか分からない。
数分して響のお母さんが紅茶を持ってきた。
『どうぞ。』
響のお母さんが私の前に紅茶を置いた。
その後、響のお母さんが私の隣に座った。
『未優ちゃん、大丈夫?』
『はい、大丈夫だと思います。』
私は完全に大丈夫とは言わなかった。
私が目線を下に向けた時、響のお母さんが私を抱きしめてきた。
『本当に?瞼腫れてるじゃない。』
響のお母さんが何故抱きしめてきたのか、私はよく分からなかった。
『大丈夫じゃないみたいです。すいません、今日は帰ります』
抱きしめられた時、嫌な予感がした。
私はお礼をした後、すぐに響の家を出た。
この時、鞄に盗聴器が付けられていたことに、まだ未優は気づいていなかった。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。