「 ねぇ、先生 」
『 なに? 』
「 死にたい 」
『 そっか 。』
『 奇遇だね 。 』
「 え ? 」
『 俺も死にたい 』
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この関係が、真実であって、確かなものなのか。
そんなの分からないけど、
死にたいのに、消えたいのに、
この人となら生きていたいって思うのは、
何故 _________ ?
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今まで生きてきた人生にいいことなんてなかった。
くだらない。
本当にしょうもないことばかり。
周り人は私の興味のないことを喋って楽しんでる。
その人たちは私のことを
お友達だと思っているみたいで
話しかけてくる。
それすらも鬱陶しい。
突き放すのもありだけど、
その後がとてつもなく面倒だからやる気なんてない。
色々、本当にもう面倒くさくなってきた。
友達関係も、家族のことも、
何もかも上手くいかないことも。
だから、いっその事死んでしまいたい。
私に何があったかなんて
言う気にならないから言わないが、
想像しているような
可愛らしいもんじゃないことだけは
伝えてあげられる。
それくらいのことがあって、
今死にたいと思うまで来てる。
『 授業始めるから、みんな座って 』
始まったのは英語の授業。
生徒にかっこいいと人気のジェヒョン先生だ。
正直そんなことどうでもいい。
かっこいいとか、
思っていても口に出す必要ってあんのかな。
なんて、変なことばかり考える。
『 教科書の69ページ開いてくれるかな 』
はいはい、開きますとも。
そこを開けば勉強してなんの得になる?と
疑問に思いたくなるほどに
意味不明な文がつらつらと書き示されていた。
あー、…何もかもなくなれ。
全部沈めばいいのに、
それと一緒に、…私も
『 起きて 』
『 あなたさん、起きて 』
脳にジェヒョン先生の声が直に届く。
聞きたいとも思わない低い声がコダマする。
「 … 、」
仕方がないからむくっと起きて
辺りを見ればもう誰もいない。
さっきの授業は6時限目。
そのまま私は眠りについて放課後までいたみたいだ。
『 起きた 』
「 …どうも 」
特に言うことなんてないから
そのまま立ち去ろうとする。
『 待って 』
「 なんですか 」
『 俺と人生の最後に恋してみない? 』
「 は? 」
『 うーん … 君がいつも思ってることを言ってみて。』
「 …先生に言っても無駄 」
『 そう思っているから何事もダメなんだ 』
言ってみて、と私を促す先生。
「 … 」
私が黙って下を向くと、先生は前の人の席に座った。
もういい。
この人はさっき変なこと言ってきた変な人だし…
関わることなんてあんまりないでしょ。
「 …ねぇ、先生 」
『 なに? 』
「 死にたい 」
『 うん。知ってた。』
「 は … 」
『 でも奇遇だね。』
「 え、…? 」
『 俺も死にたい 』
そう言って先生は笑った。
その間私と目はあってなかった。
だけどひしひしと伝わってくる負の感情。
ああ、この人も私と同じなんだ、って
なんにも知らないのに思った。
もしかしたら先生の方が大変なのかもしれないのに。
『 だからさ、死にたい者同士最後に恋してみない? 』
「 それとこれとは別でしょう。」
『 どうだろう。愛する人でも見つければ少しは変わるかなって。』
「 そんなことない 」
『 やってみないと分からないだろう。それに、俺もだから言うけど死にたいとか言ってる割には死ぬ勇気なんてないんだから、まだ少しだけでも生きてみない? 』
「 …死ぬ勇気あるかもしれないじゃん 」
『 現に君は死にたいとか言いながら生きてるよね? 』
何も言えなくなる。
そうだよ、それが正解なの。
死にたい死にたいって言っておきながら
本当に死ぬ勇気はない。
飛び降りる。
首を吊る。
刺す、切る。
溺れる。
他にもいろいろあるけど、
それら全てがやれるほどの勇気はない。
全部、怖い。
『 先生もそう。勇気なんてないんだよね。』
『 だからもう少し生きてみよう、って思ってる。1年だけでもいいから生きてみて、自分に勇気持てる日が来るかもしれないって。淡い期待だけど 』
先生は私なんかよりすごい人だ。
死にたいって思ったまんまで、
生きてみよう、なんて考え浮かばない。
『 1人じゃマイナス思考にしかならない。死にたいって思った時はいつでも僕のとこに来ていいから…一緒に過ごしてみよう? 』
先生はやっとこっちを向いた。
目と目が合った時、確信した。
先生は怯えた目で私に必死に訴えているんだ。
お願い、って何かに縋るように。
「 …そんなに悲しい顔しないでください。」
『 …してないよ、大丈夫 』
「 きっと先生の大丈夫は大丈夫なんかじゃないですよね。」
「 わかりました。恋、してみましょう 」
ここから始まった私たちの関係。
本当の愛では結ばれていない、嘘の関係。
お互いが縋るための、命綱のようなもの。
ただの偽物。
これからもきっと、そのままだと思ってた。
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「 もうやだ… 」
『 何もかもが変わっていく瞬間がある。今まで嘆いていたことが、突然どうでもいいことに思えてくる。 』
「 先生? 」
『 ん?アイルランドの女性作家、アイリスマードックさんの言葉。 』
先生は最近、
私が「死にたい」関連のセリフを口にする度に
どこから集めたのかも分からない
有名な作家さんとかの言葉を私に言うようになった。
「 先生、最近そういうのばっかり言うのはどうしてですか? 」
『 うーん、…あなたに少しでも元気でいて欲しいから…かな? 』
先生の方が辛いはずなのに、
私なんかを気にして、可哀想に感じてくる。
『 先生がしたいからやってる。気にすんな 』
そう言って先生は私の頭を撫でた。
その手は暖かくて、
久しぶりに人肌に触れた感じがした。
先生が私の頭から手を離す。
暖かいものがなくなって、急に冷えていく。
遠くなっていく。
それが、なんとなく辛かった。
だから先生の手を取って、
「 もっと、撫でてください 」
そう言ってみた。
そうすれば先生は
『 変なの 』
そう言って撫でてくれる。
私がやめて、って言うまで、ずっと。
「 先生、帰る 」
『 そっか。じゃあ俺も帰る。』
「 は?仕事は… 」
『 もう終わってる。』
仕事が、はやい…
『 それに俺は基本家に持ち帰る人だから、正直関係ない。』
「 そうなんだ。」
『 うん。俺後から出るから、少し校門でしゃがんで待ってて。 』
「 うん 」
どうしてしゃがんでなのかは分からないけど、
私が考えている通りに行けばきっと
ほかの先生方にバレずらくするため、だろうな。
言われた通り先に出て、しゃがみこんでから
少し、考え事をする。
私、先生のこと好きなのだろうか。
頭を撫でられたりしかしたことが基本的にないから
好きかどうかだなんて聞かれれば答えられない。
素直にいえば、無理だ。
『 お待たせ。』
「 あ、うん 」
しゃがんだ体制から少しずつ立ち上がる。
『 ん、行こうか 』
「 はい 」
「 先生、先生は私の事好きなんですか? 」
『 急だね。あなたのことを好きかと言われればすぐには好き、って言えない。関係もまだ浅いし、始まりも好き同士ではなかったから。』
「 そうですよね。 」
『 何かあった? 』
「 こういう関係って、やはり好きって気持ちが必要なんじゃないかな、って。」
「 まぁ、当たり前に感情は必要ではあるよ。だけど仕方ないじゃん。俺らの共通点は死にたがり、それだけだから。」
そうか、そうだよね。
先生の時間を完璧に無駄にしていることに気づく。
今すぐ先生の隣を離れて
個別で帰った方がいいと思うのに
離れたくないって思うのは
仲間を失いたくないからなのかな。
ううん、今はそんなことどうでもいい。
目の前のことに、集中するだけ。
『 不安に思うかもしれない。全く関係ない年上と付き合う、とか。でもさ、俺は少なくとも君といて、生きていたいと思い始めてる。』
そう先生が言った。
なんだかそれを聞いて嬉しく思った。
『 俺は君が好きだと即答できないけど、隣にいてくれることに安心してる。こんな俺でも隣を歩いてくれる人がいるんだって、自己肯定できる。 』
でも、そう言われればそう感じてくる。
私もなんだかんだ言って
隣を歩いてくれる先生に安心感を得てる。
「 うん。私もそう思う。 」
『 今はこの関係、浅はかなものでしかないけど今後変わっていくと思う。もし、変わっていかなくても俺らはよくやって行けそう。個人の意見だけど、そう感じる。』
「 …隣、離れて欲しくない。」
『 …うん 』
「 そう思うから、今はこのままでもいい。とりあえず、崩れたくない。」
『 うん 』
自分でも何言ってるか分からない。
意味不明な言葉を先生にぶつけてる。
先生は、分かってるのか分かってないのか
それを私は分からないけど
しっかりと声に出して返事をしていた。
「 先生、仲良くしようね 」
『 あなたが望むならね。』
私たちの関係はきっと偽物。
だけど、きっとそれは傍から見たらそう思うだけ。
すぐ近くにいる私たちだけしか分からない、
ちゃんとした安心感がある。
わたしは先生の傍を離れたくない。
今は、それでいい。
「 先生、死にたい? 」
『 ううん。今は、生きていたい。 』
『 あなたは、どうかな 』
「 私?私は…、私も、生きてたいかな 」
↺ Jaehyun : 心揺らせ ー 2:14
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。