第4話

損より得
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2018/12/26 13:06
亜嵐 side
今、女に追われて逃げていたところ。


まじ、しつこい。


ずっと俺に " 亜嵐 " 、" 亜嵐 " ってよ…


俺の名前を呼ぶなって…


最近、売れてきたからって寄ってきてよ…


そういう愛情は要らねぇ。
そんな時、俺は無性にイライラして


誰かにはこの気持ちをぶつけたい。


ちっ…


走っていたらある女を見つけた。
キスして追ってくる女を諦めさせたい。


そう直感で思ったんだ。
白濱亜嵐
ごめん、貸して。
そう呟けばその女をクルッ俺の方に向けて


何も言わせないままキスをしてやった。


その時、丁度追ってくる女は見ていたらしく


甲高いヒールの音を鳴らして逃げて行った。
だから、キスした女から唇を離した。


目を潤わせて俺を見つめるその目はなんとも儚く愛しい。


だが、細かいことなど気にしてられず
白濱亜嵐
ありがと!助かった!
その言葉だけ残して俺は立ち去った。


ちょっと悪いことしたかな…


初だったり…


いや、それはないか。


20代前半だろうし。


キスと一つや二つありそうな顔してたしな。
家に帰るとテレビには俺ら、GENERATIONS。


最近、仕事も増えてきてこうやってテレビに


出ることが多くなってきた。


そのおかげでスケジュールはいっぱい。


前みたいに遊ぶこともできなくなった俺は


今日みたいにぶつけたくなってしまう。
白濱亜嵐
あの女可愛かったな…
自然に頭に浮かぶのはあの女の顔。


キスした瞬間に触れた唇の柔らかさ。


そのあとの目の潤い。


男を落とす目。


今にも大きな声で泣きそうで、崩れちゃいそう。
白濱亜嵐
どうかしてんな…俺。
最近、疲れてきてるんだ。


こんな馬鹿なことしてしまってちょっと後悔。
けど、ま、損ではなかった。
.
翌朝。


今日は昼からちょっとした撮影のみの仕事。


だから、夕方には帰れるかなって感じ。


午前中に美容室行って、髪の毛整えてもらう。


俺の行きつけの美容室。


明美さんっていう俺の指名店員がいるんだけど


ほんとに上手くて俺、明美さんじゃないと


髪の毛が嫌がりそう。
バレない程度の変装をし、帽子を深く被って外に出る。
有難いことに午前中のため、人はあまりいなかった。
すんなり、美容室まで辿り着いて


チャリンチャリンとなるドアを開ける。
レジには…


は…?


嘘だろ。
あなた

今日の予…

白濱亜嵐
明美さんいる?
あなた

え?

衝動的に話を自分で逸らしていた。
白濱亜嵐
明美さん呼んで欲しいんだけど!
分かりましたっておよおよしながら


裏へ駆け込んでいく姿は可愛い。


あの夜見たまんま。


軽く内巻きの髪の毛。


茶色過ぎず黒すぎず。


俺の好きなカラー。
吉口 明美
亜嵐っ!おはよ!いらっしゃい。
白濱亜嵐
明美さん、おはようございます。


「 白濱亜嵐!?」


と、確かに俺の名前を呼んだ人がいた。
白濱亜嵐
なんですかね。
吉口 明美
さぁ?
その女が出てきて俺をなんにもない顔で見つめる。


わぁ、ちょっとこの子ヤバいかも。


気づいてねぇな。


明美さんに今日のメニューを言われ理解した。


が…俺はつい。
白濱亜嵐
あ!!!昨日の!!!
あなた

え…?

女は もしや…と察した顔見せた。


俺は " キスした人 "


って言ってやろうかと発したら誤魔化した。


面白いじゃん。


そしたら、行ってらっしゃい…ませ…って


苦笑いでそういう女の顔が笑えた。


明美さんに指示されたところに座っていつもみたいに


俺の仕事の様子とか聞くんだろうなって


けど、また違うことを考えている俺がいる。


あの子は誰なのか ────────
吉口 明美
今日はどっちもする?
白濱亜嵐
そのつもりです!
案内について行こうとした時。


俺はあの女から目が離せなかった。


ずっと見つめてしまい変に思われたかも。
白濱亜嵐
明美さん、さっきのレジの子誰?
思い切って聞くと
吉口 明美
まだ、美容室の卵ちゃん。
だけどね来週から私のアシスタントよ。
白濱亜嵐
え、凄くないっすか
吉口 明美
まぁまぁ、すごい事ね。
そんな腕前持ってんだ。
白濱亜嵐
俺もいつかやってもらいたいです。
吉口 明美
多分5年かからないと
私のようには出来ないかも。
白濱亜嵐
あの子はあの子なりの方法で
俺の髪を操ってくれるって思います。
吉口 明美
分かってるね、亜嵐は。
白濱亜嵐
やっぱりそうでしたか。
いつも通りにカットカラーを終え


会計を済ませようとしたら


あのレジの子はいなくて…


ちょっとショック
チャリンチャリンと音を鳴らして外に出た。


それか撮影。
小森隼
亜嵐くん、おかえり!
佐野玲於
遅かったね。
俺らのグループの最年少は必ず迎えてくれる。


何気に癒しだわ。
白濱亜嵐
ちょっと美容室いってた。
佐野玲於
え ~ 、なんで言ってくれなかったの。
白濱亜嵐
なんで?
佐野玲於
俺も髪切りたかった。
ボソボソ言いながら携帯のゲームを進める玲於。


でも、今日一緒に行かずが正解だったかもしれない。
白濱亜嵐
また、次な。
佐野玲於
は ~ い。
ねぇ、隼 ~ 。


ってどうせ、ゲームのことだろ。


お互いに攻略の仕方を言い合ってクリアを進めてる。


見慣れた光景だがどこか違う。
スタッフ
撮影入ります!準備お願いします!
スタッフの声がかかって鏡で髪の毛をちよっと


整えて撮影に挑んだ。
いつもより上手く撮れて上機嫌。


良かったです!って褒められたから。


滅多にない褒めはメンバーにとって


びっくりだったのか 意味わからんわぁ!って


叫んでいた。
ま、うちのヴォーカルなんだけど?
それから一人一人の撮影も終わり今日は終了。
白濱亜嵐
お疲れ様でした。
社員さんに挨拶して一番乗り。


帽子を深く被って外に出る。


早く帰って寝よっと。


それだけの一心で家に向かうはずだった。
あなた

はぁ…はぁ…

苦しむ女の姿を見つけた。
白濱亜嵐
え、あの女やん。
顔を真っ赤にして絶対熱あるような顔。


おでこに触らなくても手の熱さでわかった。
白濱亜嵐
立てるか?
返事はなく体だけ動いている。
俺の背中に乗せてとりあえず俺の家に…
白濱亜嵐
待ってろよ…もうすぐだからな。
そう言うと腕の力がキュッと強まった気がした。
やば、ある意味こえぇな…

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