指で絆創膏に触れた際に絆創膏が剥がれてしまった.
バッ
私は焦って手で頬を隠した.
私は常に頬に絆創膏を貼っている.
理由は怪我をしたからではない.
私の頬には傷痕がある.
小さい頃に父から虐待を受けたときの傷だ.
私の父はお酒を飲むと手を上げるような人だった.
今はもう会っていないけれど.
私は父のこと、嫌いだったけれどやっぱり少しだけ好きだった.
藤原くんは私の手を握って、片方の手で私の傷痕に触れた.
涙が溢れた.
ずっとこの傷がコンプレックスだった.
小学校の頃から気持ち悪いと罵られ、中学校から隠すようになった.
人に綺麗なんて言ってもらうなんて、もうずっと諦めていた.
けれど私もやっぱり女だった.
私は目を瞑った.
彼は顔を傾けて、私にキスをしようとした.
その時.
ガラッ
私は涙を溜めたまま振り返った.
ガラッ
私なにやってんだろ.
全部、藤原くんのせいだ.
藤原くんは私の絆創膏を剥がしてしまった.
なのに拒絶しなかった.
私は受け入れられる幸せを感じてしまった.
もう後戻り出来ない.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。