* * *
「あんっ… 蓮(レン)。もっと…」
一瞬。
部屋を間違えたのかと思って、慌てて玄関を出てドアを閉めた。
外側のドアノブ近くに付いてる傷も、右上に付いてる508のプレートも。
「合ってる」
間違えるはずがない。
だって、私が手に持ってる合鍵はこの玄関のドアしか開かないはずなんだから。
で?さっき聞こえてきた女の声は一体、何?
もう一度、そっと玄関のドアを開けた。
「蓮… あぁ… レ…ンっっ」
「もっと、声出せよ! ほら!」
蓮とは、この部屋に住んでる人だ。
ちなみに、私の彼氏だ。
もう少し言えば、私はこの時間に来てくれと蓮から呼び出されて、今ここに立ってるわけで。
「何なの、これ?」
どうやら私はとてもわかりやすい、別れの言葉を突きつけられたようだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!