ノートを奪い取った。
肩を竦めたアキラ先生を軽く睨みつけた。
どこがかっこよく書いてあるんだ。
ゴリラみたいなブサイクな男が、鼻の穴を広げたブタみたいな女の子と言い合いしてて。
つまり、私もブサイク。
その後ろでキラッキラの王子系キャラが "見苦しいな" なんて台詞を吐いている。
自分だけかっこよく書きやがって。
私が握りつぶすから、そんなことにはならないけどね…というのは秘密にしておこう。
蓮の思惑がハッキリわかった以上、こうしているのは時間の無駄だ。
バツが悪そうな顔をしてた蓮が「ごめん…」そう言いながら私へ背を向けた。
蓮の影がアパートの前から遠ざかる。
これで最後だ。
彼の後ろ姿が夜の闇の中へ消えるまで、これまでの8年間を思い出しながら、私はしっかりと見つめ続けた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!