ボヤっとした視界。
徐々にはっきりと見えてきた。
「あれ・・・?ここって・・・?」
自分の部屋?
「えっ!!!」
私は飛びあがるように起きた。
「えっ、えっ、夢!?今までの全部夢!?」
私は、記憶売却屋に騙されたとかじゃなく、夢を見ていたということか?
「・・・最悪じゃん・・・」
そう思ってベッドから起き上がる。
ふと目覚まし時計を見ると、いつも起きる時間帯だった。
「えっ?」
私は思わず声を上げる。
時間に驚いたわけではない。
「夢じゃ・・・なかった・・・」
その隣に置いてあった大金だ。
軽く見て50万はある。
ということは、私の辛い記憶は50個あったのか・・・
全部消えてなくなった。
辛い記憶が売れて、お金になった。
「就職しなくていいじゃん。」
こんだけお金があれば生活に困らない。
しばらくは生活できる。
「やったーーー!!!!」
就職活動という苦しいものに参加しなくていいんだ!
「幸せの連続じゃん!」
そう言えば、私って何回就職試験を受けたんだろう。
落ちたんだっけ?
忘れたや。
あっ、消されたのか。
いいや、そんなこと覚えている必要もないから。
私は、大金を貯金しに行くことにした。
人間というのは欲が深いもので、
彼女は、徐々に金を使い込んでいった。
そして、お金が底を尽きたころ、またやってきた。
次は楽しい記憶、
次は大切な記憶、
そしてそのお金も尽きたころ、
またやってきた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!