第6話

「ママ」という存在
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2020/05/15 02:05
藍沢耕作
……今まで、命生も幸も、俺達が愛し合って生まれた子だって言っていたが、本当は違う。
白石恵
…どういうこと?
藍沢耕作
考えてみろ。
幸が生まれた時、俺はトロントに行って11ヶ月が過ぎていた。
俺はトロントにいた1年間、1度も日本に帰ってきていない。普通じゃ考えられないんだよ。
白石恵
でも、幸は私達の子供なのよね?
藍沢耕作
あぁ。今から話すことは、多分信じられないと思う。
お前は、…………
白石恵
え?
藍沢耕作
偶然なんだ。幸が俺とお前の子供なのは。
藍沢耕作
2018年12月7日、20時45分。
2235gの男の子が生まれた。それが幸だ。
白石恵
…………記憶が無いのは、きっと神様からの天罰ね。
私が、幸を手放したから。
白石恵
あなたにまで、辛い思いをさせた。
本当にごめんなさい。
藍沢耕作
幸と命生には、話すか?
白石恵
…話すことで、あの子達が少しでも楽になれるのなら、話してあげたい。
私の記憶のことも、全部。
藍沢耕作
あぁ。
………
藍沢耕作
幸、命生。
藍沢命生
なぁに?
藍沢耕作
今からちょっと難しい話をする。
藍沢幸
ママの、こと?
俺は小さく頷いた。
白石恵
まず、幸がどうして生まれたか。
白石恵
これから聞くことは、凄く辛い事かもしれないけど、
話すね。
藍沢幸
うん。
白石恵
幸が言った通り、私は幸と命生のお母さんだよ。
けど、幸は…私がいけない事に巻き込まれた時に、生まれた子なの。
藍沢幸
いけない事?
白石恵
今はまだ話せないけど…。
幸、少しの間、おばさんの家で過ごしたでしょ?
沢山寂しい思いも、したでしょ?
全て私が悪いの。
白石恵
本当は幸を産んで、ちゃんと育てるつもりだった。
でも、未熟だった私には出来なくて、
おばさんのお家に預けることになってしまったの。
白石恵
お父さんがお医者さんなのは、知ってるよね?
藍沢幸
…うん。
白石恵
お父さんはとても優秀で、幸が生まれた1年前から、海外に行っていたの。
それで、幸が生まれてちょっとした後、帰ってきた。
白石恵
大人の事情で色々、精神的にも限界で、
そんな時、お父さんが、私の事好きだって、言ってくれて。
私もお父さんの事が好きだったから、
お付き合いする事にしたの。
白石恵
本当に、ごめんね。
幸がいるというのに…
藍沢幸
……お母さん、幸せになりたかったんでしょ?
しょうがないよ。
白石恵
ごめんなさい…
恵は幸を抱きしめた。
藍沢耕作
ここからは俺が話す。
藍沢耕作
俺と白石が付き合い始めて1年が経った時、
白石が事故に巻きこまれた。
藍沢耕作
幸い一命は取り留めたものの、
脳に悪いものが見つかって、手術をしたんだ。
でも治療中、急変して…
藍沢耕作
緊急手術をした。
そしたら白石は…記憶を失った。
藍沢耕作
そして、その事故の時、
白石は幸の事があったから、お腹にいた命生の事を切り出せないまま事故にあって、
一時命生も危険な状態だった。
藍沢耕作
でもな、幸。
藍沢耕作
お前は、愛されて生まれてきたんだ。
藍沢耕作
白石は、お前の命を切り捨てることも出来た。
それに一時期、お前も命が危なかったんだ。
藍沢耕作
けど、白石の痛い思いをしてでもこの子を産みたいっていう気持ちで、何とか母子共に健康に、生まれてきたんだよ。
白石恵
幸。謝ってすむことじゃないけど、本当にごめんなさい。
白石恵
記憶が無いとはいえ、私、今まで幸に沢山辛い思いさせてきた。
藍沢幸
グスッ
白石恵
幸、こんな私でも、幸や命生のお母さんに、なってもいい?
藍沢幸
…これからは、お母さんと一緒がいいっ……!
白石恵
命生は?
藍沢命生
ママっ……ウワーングスッ!!
白石恵
藍沢先生、戸籍上、私とあなたって、
結婚してるのよね?
藍沢耕作
あぁ。
白石恵
これから、一緒に住んでもいい?
藍沢耕作
喜ぶよ、皆。
白石恵
後私、あなたにも謝らなきゃ。
白石恵
今まで任せっきりでごめんなさい。
白石恵
私だって、親なのに…
藍沢耕作
いや、俺も悪かった。
ずっと事実を話さなくて。
白石恵
それは、私を守るための嘘でしょ?
藍沢耕作
でもこの5年間、子供達にも沢山辛い思いをさせた。
藍沢幸
ねぇ、お父さん!お出かけしよう!
藍沢耕作
そうだな。幸、今日誕生日だもんな。
白石恵
おめでとう。何かプレゼント、買いに行こうか?
藍沢幸
うん!
藍沢命生
パパー、抱っこして!
藍沢耕作
あぁ。
俺は、誰にも見られないように、1滴だけ涙を流した。

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