人間は自分が一番大切な生き物である。
口では良しとせず、しかし本能的にそれは決定しているのだ。
だが、稀に、極稀に、これを逸する者がいる。
例えば目の前の小僧である。先程から自身の倍はある男に何度か吹き飛ばされている。
頭から血を流しながら、それでも立ち向かう姿は勇敢と言うよりもむしろ異様だ。流石の男もそんな小僧を気味悪がったのか、「引くぞ」と仲間を連れて茶店を退店した。
もう店員も客も全員が逃げ去った空っぽでぐちゃぐちゃの店内で
「お嬢ちゃん、怪我はありませんか」
あなたなどと問うて足から崩れ落ちた小僧は、どうやら私が看病しなければいけないようだった。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!