ジタバタもがく私を引っ張って、彼が玄関の扉を開けると、
玄関の外には、アイスをかじりながら帰ってきた国立くんの姿があった。
この安心感、ハンパない。
国立くんが神様のように見えてくる。
国立くんの言葉に、菱田マネージャーはため息をついた。
しかたなく、玄関から出ていこうとすると、目の前に現れた人影にはっとなる。
一切接点を持たないって、かなり徹底しているけど……、人気アイドルを守るためには、しかたないよね。
そうして亮さんと菱田さんは、家を出ていった。
国立くんと二人になって、やっとはりつめていた肩の力が抜ける。
みんながいなかったら、私はあのまま菱田さんに警察に連れて行かれたあげく、ハウスキーパーをやめさせられていたにちがいない。
せっかく亮さんが、あんな風に言ってくれたんだから。
もっと、みんなの支えになれるよう、がんばりたい。
せっかく少しだけ仲良くなれた気がしたけど、誰がどこで見てるかわからない。
今日みたいに一緒に帰ったり声をかけるのはやめよう。
一人うなずいていると、国立くんがぼそっとつぶやいた。
ぼやくように言った国立くんの言葉にはっとなる。
そういえば、芸能人だからって特別扱いされるのが嫌だって言ってたっけ。
そう言って、私の額を軽くコツンとした。
見上げると、国立くんはふっと微笑んだ。
その笑顔に、私の心臓がドキッと跳ねる。
国立くんは面倒くさそうに言って、家に上がった。
そうして、私もすぐにキッチンへと向かった。
* * * *
冷蔵庫の余り物で、夕食の焼きうどんを作っていると、
家中に、国立くんの叫び声が響き渡る。
いそいで廊下に出ると、国立くんがあわててこっちに駆け込んできた。
まっ青な顔をした国立くんにおそるおそる尋ねると、
国立くんは、身震いしながら廊下に座り込んだ。
その怯えっぷりがなんだかかわいくて、思わず笑ってしまう。
国立くんはそう言って、亮さんの部屋から新聞紙を取ってきてくれた。
国立くんに続いて、私も部屋に入る。
国立くんがゴキブリを探す中、ドキドキしながら部屋を見渡す。
ソファとベッド以外は、音楽のための機材であふれている。
机には大きなパソコンとスピーカーがあって、パソコンには見たことのない黒い機械がいくつもつなげられていた。
見れば、三本置いてあるギターの奥で、壁伝いに登っていくゴキブリの姿がある。
私は丸めた新聞紙を手に力を込めると、思い切り叩いた。
一撃で仕留めると、床に落ちたゴキブリをビニール袋に入れて、殺虫剤を吹きかけた。
念のため、もう一枚袋を重ねてから、ベランダのゴミ箱に捨てておいた。
国立くんは、感嘆の声を上げた。
国立くんの言葉に、ドキッとなる。
国立くんの言葉に、ちょっとだけ期待をしていた自分にあきれて、苦笑した。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。