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第7話

それぞれの夢
3,123
2021/07/03 04:00
落ちつきを取り戻した国立くんは、ソファに座ると、すぐそばに立てかけてあったギターを手に取って、慣れた手つきで鳴らし始めた。

鼻歌を歌いながら、遊び半分で弾いているけれど、その腕前はかなりのものだった。
春野 小町
春野 小町
国立くん、歌がうまいことは知ってたけど……、ギターも上手なんだね
国立 煌
国立 煌
俺、昔からギターで曲を作ってきたから。
ギターがないと、何もはじまらねーんだ
春野 小町
春野 小町
へぇ……。
いつからギターを?
国立 煌
国立 煌
小4の時。
親父からこのギターをもらって、はじめはお遊び程度だったけど、だんだんはまって。
中学の頃は自分で曲を作ったりしてさ。
……このギターは、俺の相棒だよ
春野 小町
春野 小町
そっかあ。
国立くんの相棒じゃ、殺虫剤はかけられないね
国立 煌
国立 煌
ああ
春野 小町
春野 小町
(……大好きな音楽のことになると、よく話してくれるんだな)
いつもより弾む会話にうれしくなっていると、急に国立くんが手を止めて切り出した。
国立 煌
国立 煌
……前から思ってたけど、なんで俺だけ国立くんなの?
春野 小町
春野 小町
え? なんでって……、
国立くんはクラスメイトだから、そう呼ぶのが癖になってて
国立 煌
国立 煌
俺ら三人とも『国立くん』なんだけど
春野 小町
春野 小町
あっ!
言われてみればそうだ。
私がひとりで納得していると、国立くんがぼそっと付け足すように言った。
国立 煌
国立 煌
……煌でいいよ
春野 小町
春野 小町
煌……?
名前で呼んだ途端、一人で赤くなる。

これまでずっとKOHって呼んでたのに、こうして本人を目の前にして呼ぶのは、結構勇気がいる。
国立 煌
国立 煌
俺も、小町でいいよな?
兄さん達もそうしてるし
春野 小町
春野 小町
う、うん
春野 小町
春野 小町
(名前で呼ばれると、ドキッとするな……)
亮さんや翔さんには名前で呼ばれているのに、……煌に呼ばれると、ドキドキ具合が全然違うんだ。
国立 煌
国立 煌
俺、お前の名字、知らねーし
煌の言葉に、ガクッとなる。
……そういうこと?
春野 小町
春野 小町
クラスメイトなのに知らなかったの?
春野だよ! 春野小町
国立 煌
国立 煌
ふーん。
俺、あんまり学校に行かねーし、クラスメイトの名前なんて覚えてねーな
春野 小町
春野 小町
そっか……
そうして煌は、またギターを弾き始めた。
私はなんとなく聴いていたけれど、そのイントロのメロディーに、はっとなる。
春野 小町
春野 小町
(これ……、SKY//HIGHの『Tears』だ!)
『Tears』は私のいちばん好きな曲。
せつないメロディーと煌の声がよく合っていて、聴いてるだけで胸がぎゅっとなる。

そして煌が歌い始めたとたん、部屋にはSKY//HIGHの世界が広がった。
春野 小町
春野 小町
(煌の声、本当に好きだな……)
私は目を閉じて、煌の声に身を委ねる。
煌の歌声は、時にパワフルで、時にせつない。

何度も動画で見たり聴いたりした歌だけど、こうして目の前で聴くと、一つ一つの音が、歌詞が、ダイレクトに私の心に届いて、染み渡っていく。
春野 小町
春野 小町
(歌詞のひとつひとつ、その息づかいさえも、聴き逃したくない)
そうしてサビまで歌い終わったところで、煌はジャーンと曲を終わらせた。
国立 煌
国立 煌
……つい、マジで歌っちまった
少し照れながら言う姿に、私は思わず拍手を送る。
春野 小町
春野 小町
すごく、すごく良かったよ……!!
KOHの歌を生で聴けるなんて、感動だよ
にじんだ涙を拭きながら、まだ心に残る熱い感動を伝えずにはいられなかった。
春野 小町
春野 小町
……私ね、KOHの歌声と歌が大好きで、SKY//HIGHのファンになったんだ
国立 煌
国立 煌
……それ、うれしいな。
俺、自分の見た目なんかよりも、曲や歌をほめられる方が数百倍うれしい
そう言って、煌はうれしそうに目を細めた。
煌の喜んだ顔に、私もうれしくなってほほえみ返す。

すると、煌はぽつりとつぶやいた。
国立 煌
国立 煌
……俺、ホントはアイドルじゃなくて、シンガーソングライターになりたいんだ
春野 小町
春野 小町
え?
国立 煌
国立 煌
自分で曲書いて、ギター弾きながら歌いたい

初めて知る煌の本音に、驚きを隠せない。
国立 煌
国立 煌
中二の頃、俺がギターで作った曲を知り合いの音楽プロデューサーに聞いてもらったんだ
国立 煌
国立 煌
そうしたら、この曲を世に出したいなら、亮兄や翔兄と一緒にアイドルとして歌えって言われて……、
そのままアイドルになった
春野 小町
春野 小町
そんなことが……
国立 煌
国立 煌
今だって自分で作曲して、好きな曲を歌ってるし、プロの人たちと一緒に仕事して、もっといい曲を作れるようになったけど……
国立 煌
国立 煌
心のどこかで、俺がやりたいのはアイドルじゃねーのに、って思ってる自分がいる
春野 小町
春野 小町
煌……
心の中の苦しみを吐き出す煌に、私も胸が痛む。
春野 小町
春野 小町
(KOHがこんな葛藤を抱えながら、曲を作ったり歌っていたなんて……、全然知らなかった)

SKY//HIGHのファンとしては、少し複雑な気持ちにもなるけれど……。

寝ても覚めても音楽のことを考えている煌のことだから、人一倍、音楽に対して強いこだわりがあるのは当然のことで。

煌になんて声をかければいいのか迷ったけど、私は正直な思いを口にした。
春野 小町
春野 小町
煌にとって、アイドルは本当にやりたいことじゃないかもしれないけど……、
私にとって、SKY//HIGHは日々の癒やしなんだ
国立 煌
国立 煌
え……?
春野 小町
春野 小町
学校と家事で忙しい毎日の中で、かっこいい三人が歌って踊る姿を見るたびに、元気をもらえた。
私だけじゃない。
KOHの曲はきっと、たくさんの人の心に届いているよ
国立 煌
国立 煌
そう、なのか?
春野 小町
春野 小町
自分の思うような形じゃなくても……、今やってることはきっと無駄じゃないよ
春野 小町
春野 小町
ほら、グループだった人が、後にソロで歌うこともあるでしょ?
春野 小町
春野 小町
うまく言えないんだけど……、
今がんばっていることは、きっと未来につながってるって、
私は信じてるよ
一生懸命紡いだ私の言葉を、煌はじっと聞いてくれていた。

そして、ひとつうなずくと、
国立 煌
国立 煌
……そう、かもしれないな
そう言って、柔らかい笑顔で微笑んだ。
春野 小町
春野 小町
……実はね、私も、同じなんだ
春野 小町
春野 小町
ハウキーパーのバイトを始めたことで、将来の夢が見つかったの
……それは、まだぼんやりとした夢。

ハウスキーパーとして三人のお世話しているうちに、将来、仕事の面でも彼らを支えたいと思うようになった。
それがマネージャーなのか、事務所のスタッフなのか、もしくはヘアメイクやスタイリストなのかはわからないけれど。
国立 煌
国立 煌
どんな夢?
不思議そうな顔をして尋ねた煌に、意味深なほほえみで返した。
春野 小町
春野 小町
それは……、まだヒミツ
国立 煌
国立 煌
なんだよ、それ
そう言って、煌は苦笑する。
春野 小町
春野 小町
(でも、煌たちの仕事を支える仕事をしたいっていう夢が見つかったのは、確かだから)
家事と学校に行くだけの毎日を送っていた私が、こんなステキな夢を持てたのは、すごいことで。
春野 小町
春野 小町
だからね、三人には感謝してるんだ。
バイトのおかげで夢が見つかったから
国立 煌
国立 煌
そっか。
……その夢、かなうといいな
春野 小町
春野 小町
……うん。ありがとう
国立 煌
国立 煌
俺も、今やってることを未来につなげていかねーとな
春野 小町
春野 小町
煌なら、きっと夢を叶えられるよ
国立 煌
国立 煌
……サンキュ
春野 小町
春野 小町
煌の心からの笑顔に、心臓が跳ねる。
春野 小町
春野 小町
(……その笑顔は、反則だってば)
ドキドキとうるさい鼓動を全身で感じながら、煌を見つめる。
そんな私をよそに、煌はまたギターを弾きだした。
春野 小町
春野 小町
(私がこんなにドキドキしてること、煌はわかってるのかな)
マイペースで、他人に無関心。
いつだって音楽のことばかり考えているけど、その情熱は本物で。
知れば知るほど、煌のこと、もっともっと知りたいって思う。
春野 小町
春野 小町
(私の頭の中は、煌のことでいっぱいだ)
ギターを弾く度に揺れる黒い髪、リズムをとる足、弦を押さえる長い指。
すべてが輝いていて……、愛しい。
春野 小町
春野 小町
(……ああ、そっか)
春野 小町
春野 小町
(私、煌が好きなんだ)
ストンと私の中に下りてきたこの想いを、私はごく自然に受け止めた。
まるで、ずっと前からこうなることがわかっていたように。
ギターを弾いて歌う煌の表情は晴れやかで、心から歌うことを楽しんでいる。
私はただ、そんな煌をいつまでも見ていたいと思った。