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第8話

なくなった腕時計
2,920
2021/07/10 04:00
春野 小町
春野 小町
今日は久しぶりに、いいお天気!
七月に入って、初めての日曜日。
まだまだ明けない梅雨の中、久しぶりの青空に心も晴れる。

私は、マンションの階段をかけ上がって、最上階にある三兄弟の家へと向かう。
春野 小町
春野 小町
今日はお布団を干して、シーツも洗おうかな
菱田さんに言われてから、ここに来る時は弟の服を着ることにした。
長い髪の毛もまとめてキャップに押し込んだし、これなら女子高生ってバレないはず。

さらに、周りに誰もいないことを確認してから、素早く煌たちの家に入った。
春野 小町
春野 小町
こんにちはー!
玄関であいさつをすると、玄関に黒光りする革靴があることに気づく。
春野 小町
春野 小町
(わ、嫌な予感……)
静かに廊下を進んでリビングをのぞくと、
春野 小町
春野 小町
(やっぱり、いた!)
予想通り、菱田さんがソファで亮さんと話しているのが見えた。
スーツをピシッと着こなした菱田さんは、マネージャーというよりエリートサラリーマンのようだ。
春野 小町
春野 小町
こ、こんにちは……
リビングに入り、こわごわ挨拶すると、菱田さんは私に気づいて冷たい視線をよこした。
菱田 将人
菱田 将人
……今日も家事をしに来たのか
春野 小町
春野 小町
はい
菱田さんは私を一瞥した後、すぐに亮さんとの会話に戻る。
春野 小町
春野 小町
(何か言われたわけじゃないけど、すごい圧を感じる……)
国立 翔
国立 翔
あっ、小町ちゃん!
久しぶりに会えたね
春野 小町
春野 小町
翔さん!
キッチンから現れた翔さんの姿に、ほっとする。
翔さんは私のところまで来ると、髪の毛を入れ込んでいた私のキャップをすっと持ち上げた。
国立 翔
国立 翔
あーあ、こんなのかぶってたら、かわいい顔がよく見えないよ?
そう言って、アイドルらしくバチッとウインクしたから、ドキッとしてしまう。
春野 小町
春野 小町
翔さん……
顔を赤くしていると、後ろから冷たい視線を感じる。
怖くなって振りかえると、菱田さんが刺すようなまなざしで私を見ていた。
春野 小町
春野 小町
(わわっ、怖い!)
菱田 将人
菱田 将人
……翔、新曲の振り付けは、
もう覚えたのか
国立 翔
国立 翔
んー、だいたいね
視線を泳がせた翔さんを、菱田さんは見逃さない。
菱田 将人
菱田 将人
その言い方では、まだ覚えてないな。
今日の夕方に振り付けの先生が来る。
それまでに完璧に覚えておけよ
国立 翔
国立 翔
えー、今日は女の子とランチの約束があるっていうのに、めんどうだなー。
オレ、振り付けを覚えるのが一番嫌いなんだよね
菱田 将人
菱田 将人
いちばんダンスが苦手な奴が、つべこべ言うな。
早く練習しろ
国立 翔
国立 翔
オレ、努力って言葉が苦手でさ
菱田 将人
菱田 将人
そんなことは知っている。
あと、振り付けを覚えたら自分の動きを動画に撮って、チェックしておくように
国立 翔
国立 翔
あーあ、やる気でないー。
そうだ、小町ちゃん、手伝って
春野 小町
春野 小町
私が?
国立 翔
国立 翔
動画撮りながら見てて。
小町ちゃんが見てくれてたら、がんばれると思うんだ
そう言って、私のほおに手を当てて顔を近づけてきたから、冗談と知りつつもドキドキしてしまう。
春野 小町
春野 小町
しょ、翔さん!?
国立 煌
国立 煌
離れろ、エロ兄貴
ちょうどリビングにやって来た煌が、翔さんにタオルを投げつけた。
国立 翔
国立 翔
また煌がいいところでジャマしてきた!
……もしかして、嫉妬?
国立 煌
国立 煌
そんなんじゃねーよ
そう言って、国立くんは好物のリンゴジュースを冷蔵庫から出して、コップに注ぐ。

昨日も歌番組の収録が遅くまであったみたいだけど、よく休めたのかな。
まだ眠そうな表情に、少し心配になる。
国立 翔
国立 翔
オレ、振り付けの手本を流すから、小町ちゃんのスマホで撮ってくれる?
春野 小町
春野 小町
いいですよ。
早く始めましょう
春野 小町
春野 小町
(菱田さんも怖いし!)
国立 翔
国立 翔
さーて、やるかぁ
翔さんは、やる気なさそうに言ったけど、お手本の動画が流れ始めると、さっと表情が変わった。
春野 小町
春野 小町
(わ……、一気にアイドルの顔になった)
私もすぐに、翔さんを動画で撮り始める。
さっきまでごねていた翔さんはどこへやら、真剣な表情でお手本の踊りをまねていく。

始めから終わりまで、数回通しで踊ると、
国立 翔
国立 翔
……さて、こんなもんかな。
チェックするから、動画見せて
春野 小町
春野 小町
あっ、はい
すごい、もう覚えちゃったんだ。
撮った動画を流すと、翔さんは食い入るような表情で、自分の動きをチェックしている。
春野 小町
春野 小町
(普段はふざけていても、やっぱりプロだよね)
翔さんを見直していると、亮さんがスーツに着替えてリビングに戻ってきた。
亮さんのスーツ姿は、今見ているドラマ『潜入捜査官・AKIRA』そのもので、思わず見とれてしまう。
菱田 将人
菱田 将人
亮、二十分後に出発しよう
国立 亮
国立 亮
ああ
国立 翔
国立 翔
兄さんは今から、なんの仕事?
国立 亮
国立 亮
メンズ雑誌のインタビューだ。
『愛用している私物』として、POREXの腕時計を紹介することになっているんだが……
国立 翔
国立 翔
ふーん
国立 亮
国立 亮
おかしいな。
昨日の夜、忘れないように時計をここに置いておいたはずなんだが
菱田 将人
菱田 将人
どうした?
国立 亮
国立 亮
……時計が、ない
菱田 将人
菱田 将人
時計がない?
本当にそこに置いたのか?
国立 亮
国立 亮
昨日、家に帰ってすぐ、キッチンのカウンターに置いたのをはっきりと覚えている
菱田 将人
菱田 将人
困ったな、もうすぐ出る時間だというのに……。
今日のインタビューは、時計がなくては話にならないだろう
菱田さんがあわてて立ち上がり、亮さんの元へと行く。
春野 小町
春野 小町
(いつもきちんとしている亮さんが、大事な時計をなくすなんて……)
国立 翔
国立 翔
オレも探すよ
翔さんに続いて、私も亮さんが置いたというキッチンのカウンターの周りを念入りに探し始めた。
しばらくみんなで探していたけれど、急に菱田さんがやって来て、
菱田 将人
菱田 将人
……小町さん、ちょっとよろしいですか
春野 小町
春野 小町
はい?
菱田 将人
菱田 将人
非常に申し上げにくいのですが
菱田 将人
菱田 将人
……なぜ、あなたのバッグにこの時計が入っているのですか?
菱田さんが私の白いトートバッグの口を開くと、なんとそこには見慣れない男物の腕時計が入っていた。
春野 小町
春野 小町
えっ……?
春野 小町
春野 小町
どうして、こんな……
訳がわからぬままバッグを見つめていると、菱田さんは時計を取り出して、亮さんに見せた。
菱田 将人
菱田 将人
亮、探していたのは、この時計だろう?
春野 小町
春野 小町
えっ!?
亮さんは差し出された時計を手に取ると、静かにうなずいた。
国立 亮
国立 亮
ああ……。
たしかに、俺のものだ。
なぜ小町のバッグに……?
亮さんは、困惑した表情で私を見つめる。
春野 小町
春野 小町
待ってください、
私にも、どうしてこんなことになったのかわからなくて……
春野 小町
春野 小町
(……もしかして私、疑われてる!?)
緊張した空気がただよう中、私は必死で訴えた。
春野 小町
春野 小町
私じゃありません!
どうして私のバッグに入っていたのか……
国立 翔
国立 翔
そうだよ、小町ちゃんが、そんなことするはずないだろ?
春野 小町
春野 小町
翔さん……!
菱田 将人
菱田 将人
疑いたくもなりますよ。
ご存知ないかもしれませんが、この腕時計、二百万円近くする代物ですから
春野 小町
春野 小町
二百万!?
腕時計らしからぬ値段に、開いた口が塞がらない。
菱田 将人
菱田 将人
ソファ付近を探そうと、あなたのバッグをどかした際、偶然目に入って驚きました
菱田 将人
菱田 将人
キッチンのカウンターからはずいぶん離れていますし、偶然あなたのバッグに落ちたとは考えにくいですよね?
菱田 将人
菱田 将人
あなたでないというのなら、この状況を、どう説明してくれるのですか
春野 小町
春野 小町
それは……
菱田 将人
菱田 将人
……だから、女子高生を雇うのは反対だったんです
菱田 将人
菱田 将人
前にも言いましたよね? 
もし次に何かあったときには、ハウスキーパーをやめてもらうと
春野 小町
春野 小町
!!
菱田 将人
菱田 将人
小町さん、あなたはクビです
菱田さんの言葉に、凍り付く。
春野 小町
春野 小町
そんな……!
私、本当になにも知らないんです!
信じてください!!
菱田 将人
菱田 将人
このようなことがあっては、また物を盗られるという不安はぬぐえません。
……それは彼らも同じでしょう
春野 小町
春野 小町
え?
驚いて亮さんと翔さんを見たけれど、二人は黙ってうつむいているだけで、菱田さんの言葉を否定しなかった。

その姿に、少なからずショックを受ける。
春野 小町
春野 小町
(まさか、二人とも、私が犯人だって思ってる……?)
全身から、血の気が引いていく。
そんな私に、菱田さんは淡々と告げた。
菱田 将人
菱田 将人
小町さん、もうお引き取り願えますか?
春野 小町
春野 小町
春野 小町
春野 小町
(私、本当にやめなくちゃいけないの……?)
すがるように亮さんたちを見たけれど、
二人とも私と目を合わせようとはしない。
ぼうぜんとしていると、菱田さんが私の腕をつかんで、強制的に玄関まで連れていく。
春野 小町
春野 小町
な、何するんですか!
菱田 将人
菱田 将人
では、これで
そう言って、荷物と一緒に私を玄関の外へと追いやると、バタンと玄関のドアを閉めた。
春野 小町
春野 小町
そんな……
家から追い出された私は、ただ、閉められた玄関のドアを見つめていた。