玄関の扉が閉まったのを確認すると、KOHは私の口から手を離した。
あははっと笑った彼の顔を見て、フリーズした。
柔らかそうなプラチナカラーのパーマヘア。
目尻が下がり気味の、愛嬌のあるブラウンの瞳。
すらりとした長身に、全身から発するオシャレで華やかなオーラは、モデルならではのもの。
それを聞いた途端、うれしさのあまりクラクラしてきた。
危機感のないSYOを、KOHがゴンと小突いた。
SYOに言われて、はっとなる。
そうだ、国立くんにプリント渡しに来たのに、SKY//HIGHの家と間違えるなんて……、ありえないよ!
震える声で聞いたけど、目の前のKOHは不機嫌な顔をしたまま何も答えなかった。
初めは驚きが勝っていたけど、実際にSKY//HIGHを目の前にして、ファン心理がムクムクとわいてくる。
私が熱い想いをぶちまけはじめたとたん、KOHはうんざりした顔で言った。
KOHに冷たく言い放たれて、はっとなる。
プリントを差し出しながら、本気で心配して言うと、SYOに大笑いされた。
拍子抜けしていると、国立くんはイラつきながらプリントを受け取って、SYOをにらみつけた。
そう言って、すぐに家の奥へと行ってしまった。
SYOに続いて、私はワクワクしながら奥へと進む。
けれど、そのうち廊下の床に散乱しているDMや雑誌、脱いだままの靴下が気になりだした。
そのうえ、チラリと見えた洗面所には、洗濯ものが山盛りになっている。
そして、リビングに入ったとたん、目を疑った。
テーブルにはいつ食べたかわからないコンビニ弁当やカップ麺の空き容器が転がっている。
ソファは、脱ぎかけの服や荷物の入ったバッグに読みかけの雑誌、ゲームのコントローラーで埋め尽くされて座る場所もない。
そう言いながら、ソファの荷物をざーっと隅に押しやって、私の座るスペースを確保してくれた。
なんだか嫌な予感がして、カウンター越しにキッチンをのぞいてみる。
案の定、流し台には汚れた食器が山のように積まれていた。
そしてSYOがコーヒーフィルターにたまったカスを捨てて、もう一度セットしたのを見てしまうと、もう我慢の限界だった。
ぽかんと私を見つめるSYOを差し置いて、私は流し台に積まれた食器を洗い始めた。
* * * *
三十分もたたないうちに、キッチンとリビングはピカピカになった。
SYOがガシッと私の手を取って、じっと見つめてくる。
目の前の超絶イケメンに、私はなすすべもなく固まっていた。
ドキドキしながら、口をパクパクさせていると、向こうから玄関のドアが開く音がした。
すると、私の予想通りの人物がリビングに顔をだした。
短めの黒髪に、少し古風な切れ長の瞳が印象的な、正統派イケメン。
オシャレで軽いノリのSYOとは、見た目も性格も正反対。
喜びに震えていると、RYOは私をチラリと見て、眉をひそめた。
考えてみればあたりまえだ。
アイドルの家に女の子が出入りするのを見られたらマズいよね。
私もつられて反省してしまう。
まだブツブツ言っているSYOを無視して、RYOはソファに座ると、コンビニの袋からビールと弁当を出してテレビをつけた。
その姿が、仕事を終えたお父さんと重なって見えた。
私は急いで家へと帰ると、昨日の残りものが入ったタッパーを持って、国立くんの家へと戻った。
RYOは少し驚いて、私とタッパーを交互に見ていた。
ドキドキしながらRYOの返事を待つと、
そう言って受け取ってくれたから、ほっとする。
テレビを見ながら、黙々と肉じゃがを食べるRYOの姿を見つめていると、隣にいたSYOがささやいた。
表情からはわかりにくいけど、気にいってもらえてよかった。
結局RYOは持ってきた肉じゃがをぺろりとたいらげて、私に言った。
すると、SYOがヒュウッと口笛を吹いた。
いつものように掃除や夕飯を作って、お金をもらえるなんて夢みたいだ。
ずっとバイトをしたいと思っていたけど、
こんなにおいしいバイト、他にはないよね?
二人に頭を下げると、RYOが初めて私に微笑んでくれた。