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第5話

はじめての朝①
__朝。
星空女子学園__略称、星女に通うことになって、
初めての朝を迎えた。
結衣(ゆい)
これでよし……と
まだ一度しか着ていない真新しい制服に身を包み、
なるべく静かに立ち上がる。
身だしなみに問題がないか、部屋の隅に置かれた鏡の前でくるりと一回転。
スカートがふわりと広がって、
その下に穿いたドロワーズがちらりと顔を覗かせる。
結衣(ゆい)
やっぱり、スカートは落ち着かない……
対策はしているからめくれても平気なのだけど、
あんまり激しく運動するのは避けた方がよさそうだ。
もしかしてスカートって、
女子におしとやかさを強いるためのアイテムなのだろうか?
結衣(ゆい)
とにかく……問題なし、と
別に、何だかちょっと可愛いかも知れない自分の姿に見とれていたわけではない。
男だとバレないように、服装には細心の注意を払わないといけないから__
身だしなみのチェックは重要なのだ。
……さて、それはそうと。
これからどうすればいいのだろう?
軽く小首を傾けて、考え始めたときのこと。
葵(あおい)
んにゃ……
僕が使っていたとは別の、もう一つのベッドの上で、むくりと身体を起こす人影。
葵(あおい)
ふぇ……、
もうあしゃなの……
結衣(ゆい)
おはようございます、葵お嬢様。
びっくりするくらいだらしない寝起き顔だった。
葵(あおい)
ねみゅいわ……
結衣(ゆい)
まだ全然時間はありますから。
もう少し寝ていても大丈夫ですよ?
結衣(ゆい)
というか、すみません。
起こしてしまったみたいで
葵(あおい)
あと五分……
いえ、三十分。くぅ……
『いいえ、起きるわ』などとお嬢様は言わない。
睡眠欲のおもむくまま、再びベッドに倒れ込んでしまった。
お嬢様の睡眠をこれ以上邪魔しないように、部屋からは出ることにした。
結衣(ゆい)
とりあえず、食堂にでも行ってみようかな……
そっと出てきたばかりのドアを閉めると、
古ぼけた、けれども重厚な雰囲気の階段を歩いていく。
……それにしても立派な建物で、歩いているだけでも庶民としてはソワソワしてきてしまう。
昨日から住むことになったこの寮は、一言で言えば『洋館』。
それも今風のなんちゃって洋館ではなく、
明治か大正の時代に建てられた本物の重厚な西洋館だ。
揚げられた名称を『星空女子学園第二寮』というらしい。
何ともそっけない名前だけど、
まあ実際に使用されているとそういうものなのだろう。
それほど大きな建物ではなく、住んでいる寮生の数も、
ほんの数人に過ぎないみたいだった。
第二寮というからには第一寮もあって、
そっちはもっと規模が大きいらしいけれど……。
葵お嬢様がこちらに住んでいるから、
僕も一緒にこのお部屋で暮らすことになった次第。
……まさか、部屋まで一緒とは思わなかったけど。
でも、僕の正体を知っているのは葵お嬢様だけだから、
他の人と同室にされるよりはずっとマシというべきか。
むしろ、問題が起きないか監視するという意味では、
ほとんど必然的な判断なのかもしれなかった。
結衣(ゆい)
にしても、見れば見るほど……
手入れが大変そう
歴史があると言えば聞こえはいいけれど、
言い方を変えれば古くさい。
人手を掛けることを前提とした飾り気の多い内装は、
手間を惜しむとむしろみすぼらしくなりがちだ。
実際、最低限の設備はされているみたいだけれど、
隅々までよく見ればあまりきちんと掃除が行き届いていなかったりして__
結衣(ゆい)
……埃、気になる
入ってきたばかりの扉に掘られた彫刻を、
そっと指でなぞってみる。
菜々美先生(ななみせんせい)
……お前、どっかのしゅうとめかよ
結衣(ゆい)
わわっ!?
菜々美先生っ!?
ふらりと、キッチンの方向から菜々美先生が出てきた。
結衣(ゆい)
あはは……、
おはようございます
菜々美先生(ななみせんせい)
はよ
結衣(ゆい)
二文字にまで略しますか
菜々美先生(ななみせんせい)
朝の挨拶とか、めんどい。
ねみーし
教師としてどうかと思うような発言だった。
結衣(ゆい)
……やっぱり先生は朝も早いんですね
菜々美先生(ななみせんせい)
ま、一応ここの責任者だからな。
やりたくなかったけど
結衣(ゆい)
た、大変ですね……。
でもあの、改めてよろしくお願いします
昨日も挨拶はしたけれど、改めて丁寧に頭を下げてみる。
菜々美先生(ななみせんせい)
へいへい……
あんまり問題起こさないでくれよ
結衣(ゆい)
肝に銘じます
女子寮だから、
『実は男』という時点で本当は存在自体が大問題なのだけど。
菜々美先生(ななみせんせい)
んで、どうよ?
昨日はちゃんと眠れたか?
結衣(ゆい)
はい、おかげさまで。
まあ、ちょっと色々……びっくりさせられましたけど
菜々美先生(ななみせんせい)
葵に?ふひひ、
今さら部屋変えろとか言っても却下だかんなー?
なんだか、してやったりといわんばかりの悪戯っぽい笑み。
結衣(ゆい)
……先生、まさかとは思いますけど
よくよく考えてみれば、昨日部屋割りを持って来たのって、
葵お嬢様ではなくこの人だったような。
結衣(ゆい)
お嬢様のお世話、
押し付けられちゃいました?
菜々美先生(ななみせんせい)
だって理事長の下の世話まで給料に入ってねーし
……ああ、やっぱり。
尿入りのペットボトルがいつの間にかなになってるとお嬢様が言っていたけれど、
今まではこの人が片付けていたらしい。
菜々美先生(ななみせんせい)
その点、結衣は葵に拾われてきたんだろ?
結衣(ゆい)
まあ……そうですね
菜々美先生も、
僕が男だということは知らされていないはずだった。
とはいえ、転校してきた大体の理由は知っているらしい。
菜々美先生(ななみせんせい)
つまり葵に恩がある。
立場上そんくらい引き受けるかなーって
結衣(ゆい)
なるほど……。
別に構いませんけどね
菜々美先生(ななみせんせい)
おっ? 
ホントに引き受けんの?
そんなあっさり?
押し付けておきながら、ちょっと意外そうだった。
菜々美先生(ななみせんせい)
もうちょい嫌がるかと思った。
あたしにムカついたりしたりしねーの?
結衣(ゆい)
嫌われるのも覚悟の上で押しつけたんですか?
菜々美先生(ななみせんせい)
……だってションベン捨てるのとか嫌だし
結衣(ゆい)
でも、今まで嫌なこと引き受けていたんですね。
それって、むしろ尊敬しちゃいます
菜々美先生(ななみせんせい)
うわっ、やめろってそういうの。
あたしは不良教師なんだ
褒められるのは、微妙に先生の弱点らしかった。
菜々美先生(ななみせんせい)
それにあたしが世話してたのはだな、
葵が最低限理事長らしく見えねえと学園自体がナメられるからであって……
結衣(ゆい)
職場のために嫌な仕事もこなすとか、ご立派です♪
菜々美先生(ななみせんせい)
ああもう、この話やめやめっ!
それより結衣、起きてきたなら朝飯の準備手伝え!
結衣(ゆい)
あ、はい
菜々美先生(ななみせんせい)
使用人にして悪いがな。
働かざるもの食うべからずだ
菜々美先生(ななみせんせい)
……はぁ、
そうは言っても働きたくねえよな
何故余計な一言を、思うだけにしておけないのだろう。
結衣(ゆい)
ええと……とにかく、お手伝いしますね。
元々そのつもりでしたから
菜々美先生(ななみせんせい)
うっわ、お前働き者かよ?
そして何故、そんな珍獣を見るみたいな目つき?
結衣(ゆい)
とりあえず、キッチンに行きましょうか……
ちょっと疲労を感じながら、先生をうながすのだった。




__
……で、キッチンなのだけど。
古い建物の割には、最近リフォームでもされたのか近代的で使いやすそうな設備が整っている。
ただし、あまり使いこまれている形跡はなし。
結衣(ゆい)
それで、ボクは何をすればいいですか?
菜々美先生(ななみせんせい)
食パン焼いてくれ
結衣(ゆい)
はい、他には__
菜々美先生(ななみせんせい)
コーヒーはあたしが飲むから準備してあるし。
ジャムとか出しておいとけば?
結衣(ゆい)
…………ええと
ぐるりとキッチンの中を見回すけれど、
コーヒー以外の何かが準備されている様子はない。
あと、菜々美先生にも何かを作ろうという気配はない。
結衣(ゆい)
朝ご飯、トーストのみですか?
菜々美先生(ななみせんせい)
もはや喋るのも面倒そうだ。
結衣(ゆい)
まさかとは思うのですが、
いつもそんな感じで……?
菜々美先生(ななみせんせい)
朝飯なんて、食えれば何でもいいだろ
ちょっと、目眩めまいがしてくる……
菜々美先生(ななみせんせい)
んだよ?
なに一人で落ち込んでるんだ?
結衣(ゆい)
もう少しこう……
上流階級に対する憧れを守って頂きたいのですが
菜々美先生(ななみせんせい)
オムレツとかサラダとか食わせろって言うのか?
結衣(ゆい)
出来れば
菜々美先生(ななみせんせい)
やだ、めんどい。
そもそも料理苦手
結衣(ゆい)
この寮、家政婦さんとか寮母さんとか……
菜々美先生(ななみせんせい)
そこまでの予算はねえよ
そういえば、昨日の夕食も出前だったな……お寿司の。
僕が住むことになったから歓迎会なのかと思っていたけど、
もしかしていつも出前なのか?
菜々美先生(ななみせんせい)
むー、文句があるなら葵が作れよー
結衣(ゆい)
はぁ……、分かりました。
ボクがやります
粗末な食事に付き合うのも哀しいので、
大人しく引き受けることにした。
菜々美先生(ななみせんせい)
お、おお……
お前、料理できるのか?
結衣(ゆい)
ええまあ、祖母に仕込まれましたので……ある程度は。
冷蔵庫、開けますね
覚悟はしていたけれど、冷蔵庫の中はスカスカだった。
ほとんどが飲み物とか、プリンとかそういうの。
結衣(ゆい)
野菜は皆無、卵はかろうじて……
菜々美先生(ななみせんせい)
袋のラーメンに落とすからな。卵
結衣(ゆい)
あ、なんか高そうなハムが
菜々美先生(ななみせんせい)
葵がどっかから貰ってきたやつだな
結衣(ゆい)
あと使えそうなのは……
チーズくらい
菜々美先生(ななみせんせい)
それ、あたしの酒のつまみだから使用禁止
結衣(ゆい)
コンビニで売ってますよね?
また買ってください
菜々美先生(ななみせんせい)
って、おいこらっ!
野菜がないのは痛いけれど、
オムレツとか、ホットサンドくらいならなんとかなりそう……かな。
結衣(ゆい)
よし……、じゃあ作ります
菜々美先生(ななみせんせい)
ったく……しゃあないか。
それじゃ任せた。
もう全部勝手に使っていいから、あとよろしくー
結衣(ゆい)
あ、はい。
先生はどちらに?
菜々美先生(ななみせんせい)
授業の準備。
はぁ、今日は自習とか駄目かなぁ……
駄目でしょう。偉い人に怒られますよ?
キッチンを出ていく先生を見送りながら、
心の中でツッコミを入れた。
結衣(ゆい)
でも、いい加減っていうより……
忙しいだけなのかも?
いや、やっぱりいい加減なだけのような気もするけど。
結衣(ゆい)
っと、それより準備準備
材料の数に不満はあるけれど、さっさと料理に取りかかることにした。

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春香かなた
春香かなた
『心温まる優しいプリ小説』を趣旨に執筆しています。 〇投稿作品 『僕のシークレット!(第20回プリコン作品)』【全51話】 『雪の降る街へ。第一部「青春編」(運営のおすすめ作品掲載)』【連載中】 作品の感想など、コメントをしてくれると嬉しいです。 〇七つのかなたルール ●『媚びない』 ●『手を抜かない』 ●『未完にしない』 ●『オリジナルのみ執筆』 ●『バッドエンドにしない』 ●『鬱・病み・グロテスク表現はNG』 ●『心温まる優しい作品を執筆する』 これら7つを厳守してプリ小説をやっています。
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