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第6話

はじめての朝②
結衣(ゆい)
まあ……
これが限界、かな
品数は少ないけれど、
食堂のテーブルに出来上がった料理のお皿を並べていく。
あの後、果物の缶詰とかも見つけたから、
何かと最低限の格好はついていると思う。
園子(そのこ)
わわっ、
普通の朝ご飯がありますっ!
結衣(ゆい)
あ……園子さん
入口の方から聞こえてきた声に振り向くと、
ドアを開けて一人の女子生徒さんがこちらを覗き込んでいた。
園子(そのこ)
これ全部、結衣さんが作られたんですか?
結衣(ゆい)
作ったと言えるのはホットサンドとオムレツくらいですけど……。
それよりあの、おはようございます
園子(そのこ)
あ、すみません。
おはようございます、結衣さん
__この人は、ここの寮生の園子さん。
既に昨夜のうちに自己紹介は済ませていたけれど、
僕と同じ二年生で、クラスも同じとのことだった。
言われてみれば、確かに昨日教室で挨拶したとき、
見かけたような気がしなくもない。
おっとりとした雰囲気の、けれども芯が通っていそうで、
まさにこういう女性を『大和撫子やまとなでしこ』って呼ぶのかな、とか思わせる人だ。
あと、おっぱいが大きい。
男の子としては非常に気になる。
って、今の僕は女の子なんだからあんまり見てたら変だよね。
男の子でも別の意味で駄目だろうけど。
結衣(ゆい)
朝食、簡単に用意してみたんですが……
園子さん、食べられないものとかありますか?
園子(そのこ)
大丈夫ですよ。
何でも食べますから。
朗らかに、親しげに話しかけてくれる園子さんとなら、
すぐにでも仲良く慣れそうな予感がした。
園子(そのこ)
ところで、
どうして結衣さんが朝ご飯の用意をしているんですか?
結衣(ゆい)
はあ……
菜々美先生の適当っぷりを見るに見かねて。
食パンのみとか、いつもそんな食事でご不満はなかったんですか?
園子(そのこ)
それはまあ、物足りないとは思っていましたけど。
朝は忙しいので、そんなものなのかなって
結衣(ゆい)
だからって……
いえ、今までのことはもういいです
これ以上文句をつけては、黙って我慢していた園子さん達まで非難することになりかねない。
だから、細かい事はもう気にしないようにと思った。
園子(そのこ)
ええと、私も何かお手伝いしましょうか……?
結衣さんばかり働いているのも申し訳ないですし
結衣(ゆい)
もう終わりましたから大丈夫ですよ。
なにかお飲み物でもご用意しましょうか?
園子(そのこ)
ですから、結衣さんを使用人みたいに使うつもりは。
そのくらいは自分でしますので
結衣(ゆい)
そうですか……
すみません余計なことを
園子(そのこ)
いえ、お気持ちだけでも嬉しいです。
それに……
ちらり、とテーブルに並んだ朝食に目を向ける園子さん。
園子(そのこ)
こーんなに美味しそうな朝食を用意して下さっただけで……
ああっ!もう結衣さんに足を向けて眠れないですっ!
結衣(ゆい)
そんな大げさな……
園子(そのこ)
でもでもっ、ちゃんとした朝ご飯があるなんて……!
実は私、まだ夢を見ているんでしょうか!
結衣(ゆい)
大丈夫です、現実ですよ。
先にお召し上がりになります?
園子(そのこ)
くっ、そうしたいのは山々なのですが……!
流石にお行儀が悪いです。
大人しく皆さんが揃うのを待つことにします……
こういうところは、やっぱりお嬢様なんだなと思う。
育ちの良さが滲み出している。
結衣(ゆい)
では、早く皆さんを起こしてこないとですね。
ちょっと行ってきます
園子(そのこ)
あ、私が行きましょうか?
結衣(ゆい)
いえ、園子さんは飲み物でも飲んで待っていて下さい
園子(そのこ)
いいんですか?
結衣(ゆい)
はい、丁度手持ち無沙汰ぶさたになったところですから♪
そう言って、僕は食堂を後にした。
でもって、まずは自分の部屋に戻って葵お嬢様を起こそうと思ったのだけど__
葵(あおい)
……ふぁ
その葵お嬢様が、丁度二階から降りてくるところだった。
結衣(ゆい)
おはようございます、お嬢様
葵(あおい)
……ええ。
おはよう、結衣
最初は眠そうにふらふら歩いていたけれど、
声を掛けるとしゃんと背筋を伸ばして答えてくれる。
……髪はぼさぼさのままで、寝癖が酷いけれど。
葵(あおい)
なんだか、
いい匂いがするわね
結衣(ゆい)
あ、はい。
朝食のご用意ができています。
葵(あおい)
あさごはん……
そういえば、お腹すいたわ
言葉にタイミングを合わせるみたいに、
お嬢様のお腹が鳴った。
結衣(ゆい)
……出来れば、食事の前に髪を整えて下さい。
お一人で出来ますよね?
葵(あおい)
あなた、私のことを何だと思っているの?
ほんの少しだけ、不機嫌そうに唇を尖らせる。
結衣(ゆい)
す、すみません……。
メイドさんにやってもらうようなイメージだったので
葵(あおい)
実家にはいたけれど……メイド。
でも、今はもう自分のことは全部自分で出来るわ。
偉そうに言っているが、ペットボトルにおしっこして部屋に放置の上、他人に片づけさせていた人である。
結衣(ゆい)
あ……
今朝は、お手洗い済ませられました?
葵(あおい)
ええ、部屋で済ませたわ
結衣(ゆい)
トイレで済ませてください!
葵(あおい)
……ちゃんと拭いたし、もゴミ箱に捨てたわ
結衣(ゆい)
褒める要素はどこにもないですからね!?
葵(あおい)
むぅ……
そんなの当たり前__
いや、それ以前の問題だ。
とにかくこの人、またペットボトルを使ったらしい。
そして今、そのボトルを手に持っていない。
……後で、また処理しておかないと。
結衣(ゆい)
とにかく、お嬢様は洗面所に。
寝ぐせ、気になります
葵(あおい)
分かったわ……
また後で
結衣(ゆい)
はい。お手伝いが必要なら仰って下さいね
寝ぐせの髪を揺らしながら、
お嬢様はふらふらと洗面所の方に歩いていった。
さて、葵お嬢様が起きているということは、
残るはあと一人。
結衣(ゆい)
あの人の部屋は……
ここだよね
階段を上がったすぐ手前。
一枚のドアの前に立ち、軽く深呼吸。
ほんのちょっとだけ、心の準備が必要な相手なのだ。
結衣(ゆい)
……よしっ
覚悟を決めてから、目の前の扉をノックする。
結衣(ゆい)
絵理栖えりすさん、起きてらっしゃいますか?
少し声の音量を上げて、部屋の中に呼びかけると__
『うむ、はいるがよい!』
偉そうな口調で返事があった。
ともあれ、もう起きてらっしゃるみたいだ。
結衣(ゆい)
……失礼しますね?
思い切って、僕は初めて入るその部屋への扉を開けた。
結衣(ゆい)
ぅわ……
ある程度予想はしていたけれど、案の定だった。
天蓋てんがい付きの何だかすごい雰囲気のベッド。
部屋のあちこちに飾られた、妖しげな置物や刀剣類。
豪勢__とは少し違って、
一言で言えば中二くさい!
部屋のど真ん中には、
ネオンの電飾か何かで巨大な魔法陣まで描かれていて。
そして、その魔法陣の中にはもう一つの人影が。
絵理栖(えりす)
ククク……、
ようこそ我が魔城の館へ
結衣(ゆい)
おはようございます……
あの、何をしていらっしゃるんですか?
城なのか館なのかどっちかにしてほしい、
などと思いながら尋ねてみる
絵理栖(えりす)
ふっ……
侵入者に備えるのは当然の事であろう?
そなたが敵であったなら、この銃に込められた魔弾で見事貫かれていたところだ
軍服みたいな衣装に身を包み、魔法陣の中に膝をついて、
一丁のモデルガンを構えている女の子。
この人が、この第二寮に住んでいる、最後の一人だ。
名前を__
絵理栖(えりす)
我が名は東方将軍イースティア!
魔王軍四天王が一人にして神を殺すものなり!
うぅっ、黙って聞いてるだけでも辛い……。
色々と浅くて、痛々しすぎる……!
絵理栖(えりす)
そなた、ここを訪れたということは、
我の配下になる腹は決まったのか
結衣(ゆい)
いえ、朝なので起こしに来ただけです
絵理栖(えりす)
ならば、早く決断することだ。
世界の半分をそなたにやろうと言うのだぞ?
結衣(ゆい)
そういう台詞は支配してから言って下さい
絵理栖(えりす)
愚か者め。
アストラル面から見れば、この世界の全ては既に我が支配下にあるのだ……
ああ……意味は分からないけど、
何となく言いたいことの雰囲気だけは掴めてしまう。
そしてそんな自分が、恥ずかしくてたまらない。
結衣(ゆい)
……世界とか貰っても支配しきれませんから。
それに、どうしてボクなんかに?
絵理栖(えりす)
忠誠を誓わせるのに褒美は欠かせぬであろう。
茶器とか名馬の方が好みか?
この人の世界観、歴史シュミレーションゲームなのか?
結衣(ゆい)
僕は一般人ですので、
忠誠を誓わせたところで……
絵理栖(えりす)
ふっ……。
『気に入った』以上の理由など不要である。
我は躊躇ちゅうちょせぬ
昨日挨拶しただけなのに、気に入られているらしい。
まあ、たぶんこの人なりに、
友好的に接してくれているつもりなのだろう。
でも、だとしたらあんまり適当にあしらってしまうのは、
ちょっと申し訳ないかも知れない。
結衣(ゆい)
ええと……
絵理栖さん
絵理栖(えりす)
クク……、
そのかりそめの名で我を呼ぶな。
あんまり強そうじゃないから……
結衣(ゆい)
すみません、流石にイースティアは言いにくいので。
かりそめのお名前の方で呼ばせて頂きますね
絵理栖(えりす)
そうか。発音出来ぬなら、やむを得まい。
真名のほう覚えてくれた……ちょっと嬉しい……
__改めて、この人の名前は『絵里栖えりす』さん。
僕や葵お嬢様達から見れば一つ年下の、一年生だ。
そして何故に朝っぱらから軍服にコスプレしてポーズを決めているのかといえば、
たぶん、まあ……そういう人だから、だろう。
いわゆる、邪気眼系中二病というやつだ。
結衣(ゆい)
それでですね、絵理栖さん__
絵理栖(えりす)
うむ、如何いかがした。
我がしもべ
結衣(ゆい)
しもべになったつもりはないですけど……
その銃、いいですね。ルガーP08ですか?
絵理栖(えりす)
え……っ、
し、知ってるの!?
結衣(ゆい)
はい。なんて言うか……
気品があって、結構好きな形なんです
絵理栖(えりす)
わ、わっ、すごいっ!
だよね、絵理栖もそう思うっ!
結衣(ゆい)
その衣装にも、よくお似合いですよ。
どことなくドイツ軍っぽくて……
絵理栖(えりす)
でしょでしょ!?
えへへ~♪
やっぱりこの格好だとドイツ製持たないと様にならないし!
結衣(ゆい)
ポーズも意外と決まっていて、割といい感じです
絵理栖(えりす)
わぁ、わぁっ♪
センパイ分かってくれるんだ?
あのね、この銃と服、絵理栖の一番のお気に入りでねっ
嬉しそうに、
手にしたルガーP08を見せびらかしてくる絵理栖さん。
__しかし、
絵理栖(えりす)
あ……
絵理栖(えりす)
ククッ、
やはりそなたには、見所があるようだな
素に戻っていたことに気が付いたのか、
おもむろに声を低くして大仰おおぎょうな言い回しを使い出す。
絵理栖(えりす)
良いな……とても良い。
ますますそなたが欲しくなった
微妙に引きつりながら格好つけているその姿は、
ちょっぴり面白いかも知れなかった。
結衣(ゆい)
って、いけない。
本来の用事を忘れるところでした
絵理栖(えりす)
フッ……許可する、
要件を述べよ
結衣(ゆい)
朝ご飯が出来てますので、呼びに来たんです。
あと、そろそろ着替えないと遅刻しますよ?
絵理栖(えりす)
ふぇっ、ええっ!?
もうそんな時間っ?
そっと、部屋にかかっている壁時計を指した。
絵理栖(えりす)
うわ、やば……っ!
それに朝ご飯って、あんまり待たせたら叱られるっ!?
結衣(ゆい)
ボクとしても、
出来れば冷めないうちに食べてほしいです
絵理栖(えりす)
あわわ、ごめんなさいっ!
すぐ着替えるっ!
もう完全に格好つけるのは放棄して、
慌ててその場で服を脱ぎ始める絵理栖さん。
……って、
絵理栖(えりす)
はわわ、制服、制服は……!
結衣(ゆい)
ちょっ、まっ!
絵理栖さんっ!?
絵理栖(えりす)
……?
センパイどしたの?
結衣(ゆい)
いきなり脱がないで下さいっ!
着替えるならボクが出て行ってからに……
絵理栖(えりす)
なんで?
結衣(ゆい)
なんでって、そんなの__
言いかけて、はっと気がついてしまう。
そういえば、今の僕は女の子なんだった……。
絵理栖(えりす)
……???
結衣(ゆい)
いえ……
やっぱりなんでもないです
絵理栖(えりす)
センパイ大丈夫?
ちょっと顔が赤いような
結衣(ゆい)
気のせいですって、あはは……
どうにか平静を装って、
普通に絵理栖さんと向き合うふりをする。
……もちろん、微妙に目線は逸らしているけれど。
絵理栖(えりす)
そう?
って、こんなことしてる場合じゃなくてっ
う、絵理栖さんも意外と大き……揺れ……ではなくて。
いくら女の子という設定だからって、
このまま着替えを眺めているのはもはや犯罪だ。
結衣(ゆい)
ボクは先に行ってますね?
着替えが終わったら、降りてきて下さい……
絵理栖(えりす)
はーいっ、
40秒で支度するー♪
ぱたぱたと、制服を手に取り身に着け始める絵理栖さん。
結衣(ゆい)
失礼します……
心の中で土下座しながら、僕はそそくさと絵理栖さんの部屋をあとにした……。

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春香かなた
春香かなた
『心温まる優しいプリ小説』を趣旨に執筆しています。 〇投稿作品 『僕のシークレット!(第20回プリコン作品)』【全51話】 『雪の降る街へ。第一部「青春編」(運営のおすすめ作品掲載)』【連載中】 作品の感想など、コメントをしてくれると嬉しいです。 〇七つのかなたルール ●『媚びない』 ●『手を抜かない』 ●『未完にしない』 ●『オリジナルのみ執筆』 ●『バッドエンドにしない』 ●『鬱・病み・グロテスク表現はNG』 ●『心温まる優しい作品を執筆する』 これら7つを厳守してプリ小説をやっています。
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