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第13話

お嬢様のペットボトル事情
__夜遅くになってからのこと。
葵(あおい)
ん……
んんぅ……
既にパジャマに着替えているというのに、
葵お嬢様はテーブルに書類を広げて何かをうなっていらした。
結衣(ゆい)
あの……
まだお休みにならないんですか?
葵(あおい)
ええ……
もうちょっとだけ……
生返事に近いような雰囲気で呟いて、
書類から顔を上げることすらしないお嬢様。
何だかちょっとだけ、
ルームメイトとしては寂しい気がしなくもない。
結衣(ゆい)
ええと……それって、何をしていらっしゃるんですか?
理事長のお仕事ですよね?
葵(あおい)
先生方から、色々と書類が上がってくるの。
部活動の計画書とか、生活指導の計画書とか……。
職員室って、意外と沢山の書類を作っているのよ?
結衣(ゆい)
はぁ……そういうのって、
全部理事長さんが目を通すものなんですね……
葵(あおい)
だって、教頭先生に任せると、
大事なことも放置して判子だけ押しちゃうのよ
結衣(ゆい)
あはは……
事なかれ主義なんですね
葵(あおい)
笑い事じゃないわ。
困っている生徒がいても放置なのよ……?
葵お嬢様は、真剣な表情だった。
結衣(ゆい)
……それって、具体的はどんな?
葵(あおい)
例えばこの報告書。
電車通学の生徒が痴漢に遭ったらしいって内容なのだけど……
これも教頭先生なら無視すると思うわ
それはつまり、
今現在も困っていらっしゃる方がいるということだ。
軽く考えていたことを反省しつつ、僕はお嬢様に向き直る。
結衣(ゆい)
痴漢……ですか。
確かにあれって、怖いですよね
葵(あおい)
……え?
結衣(ゆい)
えっ?
葵(あおい)
あなた……
痴漢に遭ったことがあるの?
……しまった。
結衣(ゆい)
あのー、
ボク男の子ですよ……?
ま、まさかー
葵(あおい)
さっきの言葉、
すごく実感がこもっていたのだけど
結衣(ゆい)
気のせいではないですか……?
葵(あおい)
そう……あるのね。
男の子なのに
結衣(ゆい)
うぅ……、
お、男だってお尻触られることくらいありますよ!
葵(あおい)
普通は無いような気がするわ。
いえ、あまり電車には乗らないからよく分からないけれど
結衣(ゆい)
ボクのことはいいんですっ!
放っておいて下さいっ!
葵(あおい)
……まあ、いいわ。
今のあなたは電車通学ではないものね
どうやら僕のことも、多少は身を案じて下さったらしい。
男子として、それはそれで微妙に屈辱的くつじょくてきではあるけれど……。
葵(あおい)
でも、これって警察に相談するべきなのかしら
結衣(ゆい)
はぁ……
無意味とまでは言いませんけど、
犯人を捕まえたりは無理じゃないでしょうか
現行犯で被害者自らが付き出せないと、
防犯といってもなかなか難しいものがありそうだ。
葵(あおい)
なら、どうしようもないの……?
結衣(ゆい)
電車の中には女性専用車両というものがありまして……。
ボクは使えないですけど
葵(あおい)
今のあなたならたぶん普通に使えるわ
結衣(ゆい)
意地でも使いません。
とにかく、こういうのは女性専用車両に乗るとか、
時間をずらして満員電車を避けるとか、自衛するしかないと思います。
葵(あおい)
……そういうものなのね。
注意喚起のプリントだけでも作ることにするわ。
結衣(ゆい)
はい、それでいいと思います。
葵(あおい)
ありがとう、結衣。
どうしようか迷っていた案件だから、助かったわ
と、書類に何かを書き込みながらお礼を言われてしまった。
結衣(ゆい)
お役に立てたなら嬉しいです。
他には、何かお手伝い出来ることってありますか?
葵(あおい)
今日はもう大丈夫……
いえ、一つあったわ
結衣(ゆい)
あ、はい。
何でしょう?
葵(あおい)
そこのペットボトル、
取ってもらえるかしら
結衣(ゆい)
…………。
あの、葵お嬢様?
葵(あおい)
なに?
結衣(ゆい)
おしっこなら、
トイレに行って下さい
葵(あおい)
残念ながら、もう間に合う気がしないの。
限界だわ……
……本当に、本当にこの人は!
結衣(ゆい)
どうして限界を迎える前に行かなかったんですかっ!
葵(あおい)
だって、仕事をしていたから……
結衣(ゆい)
普通は!
一旦中断してトイレを優先するんです!
葵(あおい)
そんな器用なことは出来ないわ。
おしっこしながら生徒の悩みに向き合えというの……?
結衣(ゆい)
別にいいじゃないですかぁっ!
葵(あおい)
んんっ……、
それより、本当に出ちゃいそうなのだけど
結衣(ゆい)
あああっ、もうっ!
好きになさって下さいっ!
ボク、外に出てますからっ!
お嬢様に空のペットボトルを押し付け、僕は背中を向けた。
葵(あおい)
別に、見ていてもいいわよ……?
結衣(ゆい)
結構ですっ!
それでも、扉を開けて外に出る瞬間、
思わず一瞬だけチラリと振り向いてしまう。
葵(あおい)
ぁ……、
んっ……
本当に尿意が限界なのか、ちょっと苦悶くもんの表情になりつつパンツを脱いでいらした。
結衣(ゆい)
あぁ……もぉ……
慌てて外に出てドアを閉め、深々とため息をつく。
でも、お嬢様がトレイに行かないのはそういう事か……って、納得しつつもあったりする。
結衣(ゆい)
お仕事に集中して、
夢中になってるから……
尿意も忘れるくらい、頑張っている結果の行為なのだ。
決して痴女なわけでも、トイレに行くのが本気で面倒な怠惰故たいだゆえというわけでもなさそうで__
結衣(ゆい)
だったら、まあ……
いや、よくはないけどっ
……本当に困った人だなって思う。
でも正直残念すぎるしドン引きだけど……
それでも生徒一人一人を案じて一生懸命な理事長さんなのだ。
そんな葵お嬢様のことを、僕は__
結衣(ゆい)
尊敬……
してもいいのかなぁ……
結果がボトラーとか、微妙にも程があるわけで。
……やっぱりどこまでも反応に困る人なのだった。

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春香かなた
春香かなた
『心温まる優しいプリ小説』を趣旨に執筆しています。 〇投稿作品 『僕のシークレット!(第20回プリコン作品)』【全51話】 『雪の降る街へ。第一部「青春編」(運営のおすすめ作品掲載)』【連載中】 作品の感想など、コメントをしてくれると嬉しいです。 〇七つのかなたルール ●『媚びない』 ●『手を抜かない』 ●『未完にしない』 ●『オリジナルのみ執筆』 ●『バッドエンドにしない』 ●『鬱・病み・グロテスク表現はNG』 ●『心温まる優しい作品を執筆する』 これら7つを厳守してプリ小説をやっています。
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