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第4話

お嬢様と秘密のプロローグ④
不意に、お嬢様はスカートから手を放して、立ち上がる。
葵(あおい)
……約束したの、ばあやと
結衣(ゆい)
えっ……と、
お嬢様……?
乱れたスカートを直しながら、
突然の真面目な雰囲気に戸惑わされる。
葵(あおい)
あなたの面倒は、私が見るって……約束したの
結衣(ゆい)
おばあちゃんが頼んでいたことは、この前も聞きました
結衣(ゆい)
でも、だからって、
こんな無茶をする必要は……
いくらなんでも、無理がありすぎる……と、僕は思う。
だけど、葵お嬢様はうなずいたりしなかった。
葵(あおい)
ばあやは、私にとって大切な人だったの
葵(あおい)
小さい頃は、本当に……
いつも、側にいてくれた
葵(あおい)
忙しい両親の代わりに、
ばあやが私を育ててくれたわ
結衣(ゆい)
…………
そして始まったのは、
おばあちゃんとお嬢様との……思い出話。
葵(あおい)
上手にお絵かき出来たら、褒めてくれて。
悪いことをしたら、叱ってくれて
葵(あおい)
優しくて、時々こわくて……
けれどもそれも、私を愛してくれているからだって、疑いようもなくて
葵(あおい)
そんなばあやのこと、大好きだったわ……
結衣(ゆい)
……そういう人でしたね。おばあちゃんは
葵(あおい)
ええ……あなたなら、分かるでしょうね
葵(あおい)
あの人は、私に全てを与えてくれた……
お金や物以外の、あたたかいものを全て
葵(あおい)
私が今の私になったのは、
ばあやがそういう風に育ててくれたから
……同じなんだな、と思う。
育ててもらった時期は違っても、僕とお嬢様は、
おばあちゃんから、同じものを受け取っている。
葵(あおい)
本当に、感謝しているの……だから
葵(あおい)
ばあやが、私を頼ってくれた時……
やっと恩返しができると思ったわ
……恩返し、か。
葵(あおい)
大切な人との、最後の約束だから。
私はそれを果たしたい
葵(あおい)
ごめんなさい……。
本当は、我が儘わがままを言っているのは分かっているつもり
結衣(ゆい)
……そう、なんですか?
葵(あおい)
でも、私とばあやで交わした約束だから……。
出来れば、私自身でどうにかしたかったの
葵(あおい)
それで、その……、
実は、私が自由にできるのって、この学園のことぐらいで……
結衣(ゆい)
えっ……
あの……
葵(あおい)
お父様にお願いすれば、他にやりようはあるの。
だけど……それだと、何もできていない気がして
……ああ、そうか。
本当に、同じなんだな……この人は。
結衣(ゆい)
だから、僕を女子校に……?
そんな無茶な提案でしか、
自らの力で、約束を果たせそうになかったから?
葵(あおい)
やっぱり嫌よね……?
男の子なのに、女の子ばかりの学校に通うなんて
結衣(ゆい)
……好き嫌い以前の問題だと思います
葵(あおい)
そう……ね。
無理強いは出来ないわ、もちろん
僕の言葉に、葵お嬢様は、どこか寂し気に……
明らかに作り物の、小さな笑みを浮かべて見せる。
葵(あおい)
分かったわ……
やっぱり、お父様に相談してみるわ
……ああ、どうしよう。
変な意地を張ったばかりに、このままでは__
葵(あおい)
心配しないで。
あなたの生活は星空が保証します
お嬢様の口調が、これまでより他人行儀になった瞬間。
結衣(ゆい)
……待って、下さい
逡巡しゅんじゅんを振り払い、僕は大きく息を吸い込んだ。
結衣(ゆい)
というか、あの……ごめんなさいっ!
葵(あおい)
……結衣さん?
僕はただ、あんまりといえばあんまりな出来事に、
ツッコミを入れたかっただけなのだ。
結衣(ゆい)
……すごく、間違っているとは思います。
女子校に男が通うなんて、倫理的に大問題です。
その意見は変わりません
結衣(ゆい)
だけど……
まだお断りしたつもりはないです
葵(あおい)
……どういうこと?
結衣(ゆい)
こんなの絶対おかしいことです。
いけないことです。
でも、それをしないとは一言も言っていないです
__脳裏によぎる、おばあちゃんの言葉。
『お嬢様の、力になってあげて』
それは、僕とおばあちゃんが交わした、最後の約束
葵(あおい)
あの、それはつまり……
結局のところ、僕と葵お嬢様は、同じことを望んでいるのだろう。
僕だって、自分の力で『約束』を果たしたと思った。
おばあちゃんの『願い』を叶えたいと思った。
……だから今、僕は女の子の姿でここにいる。
結衣(ゆい)
どのみち、他に行くあてもないんです。
ですから……お世話になっても、いいですか?
葵(あおい)
本当に……?
本当に構わないの?
結衣(ゆい)
その気がなければ、最初からスカート穿いたりしません。
髪型だって女の子っぽく変えてきたんですよ?
美容院、恥ずかしかったんですから……
葵(あおい)
そ、そうよね……
断るつもりなら、やりすぎよね
結衣(ゆい)
……はい、そういうわけですので
僕は、背筋を伸ばしてお嬢様へと向き直る。
結衣(ゆい)
その……
よろしくおねがいします!
葵(あおい)
…………
ぺこりと頭を下げると、しばしその場で固まるお嬢様。
結衣(ゆい)
あの……
葵お嬢様?
葵(あおい)
え、ええ……。
まさか、本当に了承してくるとは思わなかったから
結衣(ゆい)
今さらやっぱり駄目とか、止めて下さいよ?
こっちだって、
清水の舞台から飛び降りる気で女装しているのだから。
葵(あおい)
……大丈夫、そんなこと言わないわ
まだ少し、戸惑っている感じではあったけれど。
葵(あおい)
結衣さん
やがて、お嬢様はふんわりと微笑んで。
葵(あおい)
転入を許可します。
ようこそ、星空女子学園へ__










……そんなわけで、その日のうちに。
菜々美先生(ななみせんせい)
おーし、ちゅーもーく。
いきなりだが転校生の紹介ー
結衣(ゆい)
は、はじめまして。
結衣と申します……!
午前の授業が終わったばかりの、
とあるクラスの教室内に引っ張り出されていた。
杏子(あんず)
こりゃまた唐突な……
園子(そのこ)
こんな半端な時期に珍しいですね~。
というか、なぜ放課後に……?
葵お嬢様の意向なのだけど、たぶん僕の気が変わらないうちに……という意図かと思われる。
葵(あおい)
…………
そしてその葵お嬢様も、教室内の席の一つに座っていた。
結衣(ゆい)
(そ、それよりも……)
当たり前だけど、教室にいるのは全員が女の子で……
やっぱり少し気圧される。
ほ、本当に大丈夫かな……?
これだけの人数がいれば、誰か一人くらい男だって見抜いてしまったり……。
同級生A
ほえー、すっごい可愛い~。
お嫁さんにしたいカンジ?
同級生B
あー、わかるー。
あたしが男だったら絶対ほっとかないよー
……どうやら心配はなさそうだった。何故か複雑だ。
菜々美先生(ななみせんせい)
結衣、それだけか?
もっとなんか自己紹介しろ
結衣(ゆい)
あ、はいっ!
ええと、ボクは……
園子(そのこ)
ぼく……?
しまった、うっかり一人称を直し忘れて……!
これはバレる!?
結衣(ゆい)
わたしは……!
杏子(あんず)
あははっ、
お嬢様学校だからって、無理しなくていいよー!
園子(そのこ)
ボクっ娘なんて初めてお会いしました!
意外といけるものですねっ
同級生B
ねー?
もっと嫌味に聞こえるかと思ってたけど~
同級生A
結衣さんが言ってると、
きゅんきゅんきちゃうね♪
な、何故!?
バレなかったのはいいけど、複雑だ!すっごい複雑!
園子(そのこ)
ああ、もう……!
真っ赤になっちゃって可愛すぎぃっ!
抱きしめたいです~♪
流石にまずい。そういうスキンシップはとてもまずい!
結衣(ゆい)
とにかくっ!よろしくお願いします……!
菜々美先生(ななみせんせい)
もう終わりか?
まあ、めんどいしいいか……
自分で決めたことだけど、とんでもないことになったとおもう。
これから、本当にこの学校に通い続けるのか……?
先行きへの不安で胸をいっぱいにしながら__
けれどもこのとき、僕はまだ知らなかったのだ。
……こんなのは、まだまだ序の口に過ぎないということを。


















__
葵(あおい)
はふ……、
すっきり……
お嬢様の安らかな吐息で、我に返って回想という名の現実逃避から戻ってくる。
……ちなみに、教室でのクラスメイトに紹介させれたのは、ほんの数時間前のことだ。
あの後、これから住むことになる寮へと案内してもらって、
部屋が空いていないので葵お嬢様と同室だとか言われた。
普通なら。それだけで衝撃の展開と言ってもよさそうなものだけど__
結衣(ゆい)
……なんかもう、細かい事はどうでもいいかも
持参していたわずかな荷物を解いている途中で、
おもむろにお嬢様がペットボトルに放尿しはじめた。
そんな、目の前の光景があんまりすぎて、
緊張感とかドキドキ感とか、全部吹き飛んでしまった気分。
もはや、自分が女装していることなんて些細ささいな問題だ。
葵(あおい)
……結衣。
何を疲れた顔しているの?
と、ベッドから降りて立ち上がる葵お嬢様。
尿入りのペットボトルはふただけしめてベッドの脇に放置されていた。
……いや、よく考えると、それ以上の問題が。
結衣(ゆい)
ちょっ、ちょっとお嬢様っ!?
おしっこしたならちゃんと拭いてパンツ穿いて下さい!
葵(あおい)
ティッシュ、どこかしら……
僕は慌ててポケットティッシュを取り出し突きつける。
結衣(ゆい)
これ! これ使ってください!
あとそのペットボトルもどうにかして下さいよっ!
葵(あおい)
いつもは放って置いたら
いつの間にかなくなっているのだけど……
結衣(ゆい)
それは誰かが片づけているんですっ!!!
誰にやらせているんですか!?
葵(あおい)
……さあ
駄目だ。やっと分かった。
この人、完全に駄目人間だ。
結衣(ゆい)
とにかく早く拭いて下さいっ!
葵(あおい)
わかったわ……
少しかがんで、スカートをめくってティッシュで股間を拭き始めるお嬢様。
もう呆れるしかない光景だ。
結衣(ゆい)
ぅう……
放って置くのも、やだ……
自分で片づける気はなさそうなので、
仕方なく放置されたままのペットボトルを拾い上げる。
結衣(ゆい)
生温かいよぉ……
ペットボトルの中に残っているお嬢様の体温に、
完膚無かんぷなきまでに途方に暮れてしまう。
葵(あおい)
ちゃんと拭いたわ。
これ……
そして使用済みのティッシュを差し出してくるお嬢様。
結衣(ゆい)
渡されても困りますっ!
ゴミはゴミ箱にーーー!
葵(あおい)
ゴミ箱、どこだったかしら……
ああ、おばあちゃん……。
もしかしてあの遺言、こういう人だから『介護しろ』ってことだったの?
僕だって『お嬢様』という存在に対して
憧れみたいなものは持っていた。
気品に満ちた、華やかな世界__
そういうのに触れることができるかもって、少しは期待していたんだ。
なのに僕が今触れているのは、
生温かいおしっこ入りのペットボトル。
結衣(ゆい)
なんだかもう……、
ほんとにもう……
葵(あおい)
結衣?
結衣(ゆい)
返して!
僕の憧れを返してください!
葵(あおい)
……そう言われても
今日から僕は、女の子の格好で、とてもきれいなお嬢様と同じ部屋で暮らすことになった。
だけども、妖精みたいに綺麗なそのお嬢様は__
葵(あおい)
あ……
パンツ、穿いてなかったわ
……ただひたすらに、残念なお嬢様らしかった。

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春香かなた
春香かなた
『心温まる優しいプリ小説』を趣旨に執筆しています。 〇投稿作品 『僕のシークレット!(第20回プリコン作品)』【全51話】 『雪の降る街へ。第一部「青春編」(運営のおすすめ作品掲載)』【連載中】 作品の感想など、コメントをしてくれると嬉しいです。 〇七つのかなたルール ●『媚びない』 ●『手を抜かない』 ●『未完にしない』 ●『オリジナルのみ執筆』 ●『バッドエンドにしない』 ●『鬱・病み・グロテスク表現はNG』 ●『心温まる優しい作品を執筆する』 これら7つを厳守してプリ小説をやっています。
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