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第11話

手作り料理で歓迎会②
買い物を終えると、園子さんと手分けして荷物を抱え、寮へと戻ってくる。
男の子としてはスマートに荷物を全部持ち上げたいところだけど、園子さんは許してくれなかった。
だって、今の僕は女の子だから……むなしい。
ともあれ、まだ葵お嬢様も絵理栖さんも帰ってきていないらしく、
鍵を開けて建物に入ると園子さんと二人きりである。
結衣(ゆい)
ええと、
これとこれは冷蔵庫に……
園子さんが着替えのために部屋へと戻ってくる間に、
買いこんできた食材を冷蔵庫に入れていく。
ジャガイモとかタマネギとか、
常温保存のものはどこに収納すればいいのかな……。
使い込まれていないキッチンだけに、
その手のルールが今ひとつ見えてこない。
まあ……後回しでもいいか。
園子さんに聞いた方が早そうだし、そもそもこの後の料理でも使うだろうから。
そんなわけで、とりあえず冷蔵庫の中だけを整理していると、
園子(そのこ)
お待たせしました~♪
それじゃ、後は任せてくださいねっ
私服に着替えた園子さんが、
エプロン片手にうきうきと入ってきた。
結衣(ゆい)
はい、卵とかは冷蔵庫に入れておきましたので
園子(そのこ)
ありがとうございます♪
結衣さんってそういうところ、とっても気が利く人ですよね
結衣(ゆい)
いえ、そんな……
ちょっとだけ、照れてしまう。
園子(そのこ)
くすっ、
それじゃ、張り切ってまいりましょう~♪
調理台に向かいながら、
園子さんはエプロン姿を被って背中の紐を結んでいく。
同級生の女の子の、エプロン姿。
園子さんの母性的な雰囲気を相まって、
たったそれだけで、ただ事ではない新妻感が漂ってきた。
園子(そのこ)
ええっと、それじゃ、まずはこのロブスターから
いいなぁ……
女の子のエプロン、最高だよね。
リボンみたいに紐の結ばれた背中を見ていると、
思わず抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
いや、まあ、そういうことができる間柄ではないし、
やらねいけどね……それに包丁を持っている時は危ないし。
園子(そのこ)
……?
結衣さん、どうかしましたか?
結衣(ゆい)
えっ?
な、何がですか!?
園子(そのこ)
いえ、何だかうっとりして
こちらを眺めていらっしゃるので……
結衣(ゆい)
ええと、そのロブスター美味しそうだなって……
園子(そのこ)
ふふっ、ですよね?
ほら見て下さい、この色とつや……。
それにとっても大きくて、
ああっ、こんなのお口に入りきらないですっ
な、なんか言い方が妙にエロいような……気のせいだよね?
結衣(ゆい)
口に入らないって、
殻ごと食べるわけじゃないんですから
園子(そのこ)
くすっ、
でも茹でたロブスターを殻だけ剥いて、
特性のソースを掛けて丸ごととか、わくわくしてきませんか?
結衣(ゆい)
ああ、それはアリですね……。
そういう料理なんですか?
園子(そのこ)
いえ、今日は一匹しか買っていませんし、
切り刻んでちゃんとお料理しますよ?
結衣(ゆい)
あはは、ですよね
そもそも高級食材だし、
あんまり雑な食べ方をしたらバチが当たるというものだ。
園子(そのこ)
ふん、ふふふ~ん♪
お湯をたっぷり沸かして……と
そして、ご機嫌そうに鼻歌を歌いながら料理の準備を始める園子さん。
とても嬉しそうだ……本当に料理が好きなんだな。
家庭的な女の子って、やっぱりすごくいい。
結衣(ゆい)
園子さん、何かお手伝いすることってありますか?
園子(そのこ)
駄目ですよ、
今日は結衣さんが主賓しゅひんなんですから。
お腹を空かせて待っていて下さいね?
結衣(ゆい)
す、すみません。
でも、ええと……
微妙に手持ち無沙汰で、どうしたものかと困ってしまう。
園子(そのこ)
あら?スパイスが……
__と、首を傾げてしばし停止する園子さん。
結衣(ゆい)
どうかしましたか?
園子(そのこ)
スパイス、部屋から持ってくるつもりだったんですけど、忘れていました
結衣(ゆい)
スパイスですか?
園子さんのお部屋に?
園子(そのこ)
ええ、趣味で集めているものがあるんですけど……
何だか本格的だ。
流石に本物のお嬢様は調味料一つにも手を抜かない様子。
園子(そのこ)
今のうちに取ってこないと。
でも、こっちも手が離せないですし……
結衣(ゆい)
それでしたら、ボクが行きましょうか?
園子(そのこ)
いいんですか?
結衣(ゆい)
はい、実はわりと暇なので
園子(そのこ)
ふふっ、それでしたら、お願いしちゃってもいいですか?
結衣(ゆい)
任せてください。
園子さんのお部屋、ボク一人で入って大丈夫ですか?
園子(そのこ)
はい♪
ちょっと散らかってますけど、気にしないで下さいね?
結衣(ゆい)
あはっ、
ジロジロ見たりしないようにします
園子(そのこ)
ありがとうございます。
ええとですね、棚の引き出しに入っているんですけど、
まとめて全部持ってきて頂けますか?
園子(そのこ)
それで、棚の場所は部屋に入って左側の__
園子さんから目的の品物の場所を教えてもらうと、
お待たせしないように、急いで取りに行くことにした。









__
……とはいえ。
結衣(ゆい)
……今さらだけど、本当にいいのかな
園子さんの部屋の前までやってきて、
ドアに手を伸ばすのを躊躇ためらってしまう。
部屋の主は知らないこととはいえ、
男である僕が一人で女の子の部屋に入ってしまうわけで……。
いや、むしろ園子さんが僕の正体を知らないからこそ、大問題だったりするのだろう。
結衣(ゆい)
でも、今さら止めておくっていうのも変だよね……?
任務を遂行するためには、園子さんの部屋に入るしかない。
そもそも今になって引き返しても、
今度は部屋に入らなかった理由を説明しなければいけなくなる。
まさか、正直に答えるわけにもいかないし……。
結衣(ゆい)
そうだよね。
むしろ秘密を守るためには、仕方のないことなのだから
そんな風に、自分に言い聞かせた。
……ごめんなさい、
もちろん本音は園子さんのお部屋に興味津々です。
結衣(ゆい)
大丈夫……
今のボクは女の子!
変なことは何もしない!
己の誇りに掛けて誓いを立てて、ようやく腹が決まった。
結衣(ゆい)
それじゃ……入りますっ
それでもやっぱり、照れくさいようなくすぐったいような、
何ともいえない気分になっていた。
園子さんの部屋……どんなのだろう?
意外と少女趣味の可愛らしい部屋なのだろうか?
やはりイメージ通りに、シックで大人っぽい感じだろうか。
密かな期待を膨らませながら、そっとドアのノブを掴んで。
ドキドキしながら、開いた隙間から部屋を覗き込んだ。
結衣(ゆい)
わぁ、ここが…………
すぐに元通り、そっと扉を閉めきった。
結衣(ゆい)
ええっと……?
もしかして、部屋を間違えちゃったのかな……?
僕も意外とうっかりさんだなぁ!
結衣(ゆい)
あれれ、合ってる……よね?
扉に掛けられたプレートを何度も確認して、
間違いなく園子さんの部屋だと納得させられる。
じゃあ、何かの見間違いだったのかな……?
慣れない生活で少し疲れているのかもしれない。
結衣(ゆい)
あはは、今日は早めに休ませて貰ったほうがいいかも
まさかあの園子さんが、
腐海みたいな部屋の住人であるわけがない。
だから変だったのは自分の目か脳だと決めつけて、
僕はもう一度園子さんの部屋のドアを開けてみる。
結衣(ゆい)
ほら、やっぱ……り……?
現実は非情だった。
ていうか、これが現実なのか。
結衣(ゆい)
これは……
酷い、酷すぎる……
僕の目の前に広がっているものは、
散らかり放題で足の踏み場もなさそうな部屋。
もう、圧倒的なまでの……汚部屋だった。
事前の予想とあまりに違い過ぎて、
思わずその場で立ち尽くし、途方に暮れてしまう。
結衣(ゆい)
うぅ……返して!
ボクの憧れを返してっ!
誰に向かって訴えているのか、自分でもよくわからない。
とはいえ、わめいたところで目の前の現実は何も変わらないわけで。
結衣(ゆい)
もしかして園子さんって、片づけできない人?
女の子の部屋は可愛らしく飾られていていい匂いがするとか、
そんなのは男の勝手な幻想に過ぎないのだろう。
大和撫子のイメージを押し付けて、それが崩れたからって文句を言う筋合いはない……
大人しく受け入れるしかない。
結衣(ゆい)
とはいえ、これはないよなぁ……
乱雑に放り出された本や雑誌や衣類を見ていると、
さっさと片づけたい衝動に駆られてくる。
結衣(ゆい)
うわっ、下着まで……!?
視界に入った瞬間、
否応いやおうなしに視線が吸い寄せられてしまった。
ま、まさか使用済みとかじゃないよね……?
洗濯したあとだよね、一部黄ばんだりしていないよね!?
結衣(ゆい)
くっ、耐えろ……
耐えるんだボクの右手っ!
拾い上げてじっくり観察したい衝動を無理やり抑え込む。
……言い方や動作が中二病っぽくなってしまったのはきっと絵理栖さんの影響だろう。
と、とにかく、匂いも嗅がないし被ったりもしない!
今はそれどころじゃない!
でもまあ……ほとんどが服とかみたいだし、
生ゴミがないだけマシだよね……?
うん、これなら……、
布切れに包まれながら生活しているだけなのだから。
どうにか、ギリギリ……?
次に園子さんが見たとき『汚い』とか思わずに済みそうだ。
散らかって入るけど、別に悪臭が漂っているわけでは__
と、無理矢理前向きに納得しかけた瞬間。
結衣(ゆい)
ぅえ……!?
ほのかに、今まで経験したことのない謎の刺激臭が鼻孔びこうをくすぐってくる。
結衣(ゆい)
何この匂い……!?
くさっ!気持ちわるっ!
ストレートに嘔吐感おうとかんをかきたてるような、キツイ腐敗臭。
どこから?発生源は?
と、部屋の中を見回すのだけど。
結衣(ゆい)
いや、違う……
部屋の中からじゃなくて
だんだん濃くなってくるその悪臭は、僕の後ろ、
部屋を出て、階段の下から漂ってきていた。
ところで唐突だけれど、これだけ部屋を散らかし放題の人がお料理だけは上手__
ということはあり得るのだろうか?
もちろん、絶対にないとは言い切れないけれど、
結衣(ゆい)
なんだろう……
すごく、嫌な予感しかしない……
ものすごく行きたくないけれど、仕方がない。
おそるおそる、キッチンの様子を見に行くことにした。
そして、階段を下りて玄関ホールまで来たところで。
絵理栖(えりす)
あ、わ、あわわわわわわっ
絵理栖さんが、青ざめた顔つきでおろおろしていた。
結衣(ゆい)
……おかえりなさい、絵理栖さん
絵理栖(えりす)
うん、ただいまセンパイ……
って、呑気のんきに挨拶している場合じゃない!
うん、確かに……
ちょっと現実逃避したかったのかも知れない。
絵理栖(えりす)
あのあの、
なんで園田センパイが料理してるのっ?
結衣(ゆい)
キッチン、
ご覧になったんですか?
絵理栖(えりす)
ううん、帰ってきたばっかり……
見るまでもない
それはつまり、前科ありってこと?
絵理栖(えりす)
ふ、フフ……
我がしもべよ、
なんでこんな恐ろしいことを許したのぉ……
結衣(ゆい)
しもべじゃないですけど、あのぉ、
何故そんなに怯えてらっしゃるのですか……?
絵理栖(えりす)
クク、愚か者め……
この匂いでわかるよね???
混乱しているのか、魔界将軍になったり素に戻ったり、
絵理栖さんのキャラが安定しない。
絵理栖(えりす)
現実を受け入れるのだ……
はやくなんとかしないと
結衣(ゆい)
なんとかと言われましても……
絵理栖(えりす)
園子センパイを止めないと、汚染が……
ここは人の住める場所ではなくなるであろう
ますます腐臭は強くなってきていて、
『そんな大げさな』ともいえない状況だったりする。
結衣(ゆい)
でも、この匂いの発生源に突入するんですか?
絵理栖(えりす)
止めなかったセンパイの責任!
責任取ってっ!
結衣(ゆい)
何も知らなかったんです!
嫌だ行きたくないっ!
絵理栖(えりす)
我も嫌だ!
絶対に嫌だ!
だが、押しつけあっていたところで事態は悪化する一方だ。
結衣(ゆい)
う、ぐ……、
更に匂いがキツく……
絵理栖(えりす)
しょうがない。
センパイ、一緒に行こ?
結衣(ゆい)
そうですね……
行きましょう
激しい吐き気を催す悪臭の中、
僕と絵理栖さんは勇気をふりしぼる。
なるべく呼吸を止めながら、食堂へ。
そしてキッチンを覗き込むと__

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春香かなた
春香かなた
『心温まる優しいプリ小説』を趣旨に執筆しています。 〇投稿作品 『僕のシークレット!(第20回プリコン作品)』【全51話】 『雪の降る街へ。第一部「青春編」(運営のおすすめ作品掲載)』【連載中】 作品の感想など、コメントをしてくれると嬉しいです。 〇七つのかなたルール ●『媚びない』 ●『手を抜かない』 ●『未完にしない』 ●『オリジナルのみ執筆』 ●『バッドエンドにしない』 ●『鬱・病み・グロテスク表現はNG』 ●『心温まる優しい作品を執筆する』 これら7つを厳守してプリ小説をやっています。
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