はぁ……
もうヤダ。
まだ始まって2分も経ってないけどやだ!!
おまけに
「ねぇ、あの5番レーンの人たちカップルかな!?」
「めちゃくちゃ美男美女だよね!」
と5番レーンにいるひろ&美咲ペアを見て騒ぐ声まで聞こえてくる。
え……
片山上手いの?
確かにストライクだ。
私、スペアすらとれないのに。
無理。
どうやって投げればいいんだろう。
そんな迷いを持ちながら投げると、ボウルはコロコロと右へ寄っていき、ガターになってしまった。
後ろで必死に笑いをこらえている片山。
最悪。
そう言われて投げてみても、
ピンに当たる手前で曲がってしまう。
一方の片山はストライクやスペアの連発。
はぁ……
ふと横を見ると
莉子と春也は辛口のダメ出しをしている。
ひろと美咲は……
美咲の慣れない投げ方を見かねたひろが後ろからサポートし、一緒に投げていた。
ありゃ、カップルに見えるわなぁ。
そういって、片山はひろの真似をしようとする。
思わず、大きな声を出してしまい、私の手から落ちたボウルはコロコロと転がっていく。
片山は唖然としていた。
え?
片山が指を指す方向に目をやると、
さっき落として転がっていったボウルは真ん中に当たり、ストライク……になっていた。
そんなふうにみんなが笑ってても
なんか笑えない。
片山はちょっとやっぱムリかも。
そうして、私と莉子が入れ替わった。
でも……
そうじゃなかった。
春也としていてもやっぱりなんかモヤモヤする。
横を見ると美咲とひろは楽しそうにしてて、点数もどんどん上がってる。
美咲も最初は慣れてなかったのに、今はスペアとかとってる。
そうすると、2人は笑顔でハイタッチをしてて……
なんかモヤモヤする。
美咲が憎く感じる。
美咲は何も悪くないって分かってるのに。
自分でもわかんないよ。
私はそう言って、ボウリング場を飛び出した。
なんで……
なんで私は
飛び出てきたの?
なんで私は
美咲を憎いって思ったの?
なんで2人が仲良くしてると嫌だったの?
美咲が他の人と仲良くすることを願ってたはずなのに。
なんでこんな後先考えない行動しちゃったんだろう。
私……
もしかして
ひろのこと……
まさか。
いや、まさかそんなはずは……
ひろのこと……
え……?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!