数ヶ月前
翔は中学校にあがってすぐ、笑顔が無くなりあまり喋らなくなった。
学校で何かあったのか...?
そう思っても中々話を聞く時間が取れなかった。
そう言っていても、実際は個々の学校や蒼空の世話で忙しく、翔まで気が回っていなかった。
そして精神的にも不安定だった翔にトドメを刺したのは、俺だった。
俺が部屋で勉強していた時だ。
翔がそこまで言いかけた時、蒼空の泣き声が家中に響き渡った。
俺は迷った。
蒼空をとるか、翔をとるか...。
そしてその当時勉強でも苦戦していて、俺は焦りを感じていた。
俺の精神も少し不安定だったんだと思う。
今では考えられないような言葉を、翔に言った。
俺はその時はっきり見たんだ。
翔の目にはハイライトが入っていなかった。
翔の目をしっかり見たのは久しぶりだった。
そこから翔は変わった。
俺が後から「前の相談って何だったんだ?」とさりげなく聞いても、「もう大丈夫」と苦しそうに笑って返された。
そうやって翔は、自分の苦しみや悩みを言い出せない子になっていった。
そしてその数日後に、俺は翔の学校に呼ばれた。
翔は同級生を殴ったらしい。
原因を聞いても何も答えなかった。
家に帰って、翔に聞いても何も言わなかった。
その時初めて翔の大声を聞いた。
翔はリビングを飛び出して、自分の部屋に引きこもった。
弟達にその事を話すと、皆で様子を見に行くことになった。
樋倉が翔の部屋のドアに手をかけると、鍵はあいていた。
みんなで顔を見合わせて、中に入った。
翔は無表情で90点越えのテストを破いていた。
部屋には血が付着しているカッターや、暴言が書かれてぐしゃぐしゃになったノートが落ちていた。
樋倉が翔の手を掴んだ。
翔が破いていたテストには「94点」と書かれた横に「Excellent(素晴らしい)!!」と赤文字で書かれていた。
帝耀は床に落ちたボロボロのノートを拾った。
中を開くと、「〇ね」「ガリ勉」「陰キャは生きる価値無し」「学校くんな」「気持ち悪い」...と、沢山の文字が乱暴に書かれていた。
澄と帝耀が翔を確認しても、翔は何も反応しない。
俺が翔の肩を掴んで、少し揺さぶると、翔は生気を失った顔でこっちを見た。
その瞬間、リビングで蒼空が泣き始めた。
俺達が翔を見ると、翔は無表情のまま言った。
翔は俯いて言った。
もう遅かった。
翔は限界まで達し、もう俺達を頼ってこなかった。
俺達は顔を見合わせて、渋々部屋から出た。
それが真面目な翔とのお別れになった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。