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第5話

貴方さえいれば世界なんていらない(後編)
46
2019/05/02 06:02
ベルンにて黒い牙のアジトから部下や[四牙]がぞろぞろと出始める。
首領の後妻であるソーニャの命令により、それぞれの国に別れ一斉に散らばる。
ウルスラはリキア地方、ジャファルはイリア地方、リムステラはエトルリア王国、ソーニャは西方三島へ足を踏み込んだ。
ロイドが見つかれば奇跡の事だ。それは皆も承知しており、同時に死を覚悟をしていた。

同時刻、朝食を食べ終え宿屋を後にしたロイドとエリウッドは、ミスル半島への行き先を模索していた。
宿屋から離れてある大きな木陰に座り込み、地図を大きく広げた。
「ここの宿屋から出たから、ミスル半島までは当分の日が経ちそうだな…。」
「…ああ。でも、近道があれば日は早めるじゃないかい?」
ロイドは地図を指で通った道をつたい、エリウッドはメモを取り出し、仮にミスル半島に着いた時の時刻と日を予想しながら書き込む。
「…近道、か。それは考えてなかったな。あ…前に土砂崩れがあった場所が、先月やっと開かれたよな…?」
ロイドとエリウッドがアジトにいた頃、道中にて土砂崩れがあり、少なからず四人の命を落としていた。樹木が当分古かったのか、大雨により地面が流れ込む様に崩れだし、森林を巻き込む程の災害だった。
だが、先月にてボランティアや工事などの協力があったのか、復旧の予定より少し早まり、道が再び開かれのである。
「…そこが近道だとしたら、ミスル半島に着くには早まるかもしれない。」
エリウッドは考え込み、メモを閉じ鞄に入れ込み立ち上がる。
釣られたロイドは立ち上がり、頭を撫で微笑む。
「…何か分かった顔してるな、お前は。」
「…出来るだけ、無駄な時間を費やさない様にしたいが…それはいいのか?」
仮として、黒い牙の連中に見つかったとすれば二人の旅はここで途絶え、暗い闇に彷徨うだろう。
もし、エリウッドの仲間が先に見つかれば?それとも、裏をかきソーニャに見つかったとすれば?
ロイドの頭の脳内は段々と混乱し、たらりと汗を頬につたった。
そんな事させたくないし、エリウッドを悲しませたくない。護れるものが出来てから、ロイドは目標を定めた。二人で一緒に暮らしたい。誰も居ない世界で。
ロイドは少し呼吸を整え、エリウッドに目を向ける。
「…行くか。」
ロイドはエリウッドの手を握り、歩く。

「とりあえず、今日はこれを羽織れ。」
ロイドはエリウッドの服装を厚手の服装を上から羽織らせ、牡丹を締め包み込ませた。
厚手といってもエリウッドの体温は元々温かいが、こんなの羽織ると逆に暑くなっては脱ぎたくなるだろうと、思っていたが断念。
「…我慢してくれ。もしかしたら、俺らを追っている奴らが居るだろう。」
「…分かった。」
ロイドは溜め息をつき、ざかざかと歩き草の音を重ねては足音を変える。
大分歩いたのかエリウッドはふらつき始め、それに気づいたロイドはエリウッドの肩に腕を回し、体を自分の方に寄せた。
「…あまり無理はするな。」
ロイドは体力を酷使するエリウッドを、もう見たくない。アジトで匿った時に、エリウッドはとても無理に笑っていたから、もしかしたら自分に気を遣っているんじゃないかと。
そんな事を悶々と考えた矢先、近道に辿り着こうとしたが、ロイドはエリウッドの口を塞ぎ、近くにあった森林に隠れる。
エリウッドの息が切れそうになり、ロイドはゆっくりと手を離す。
息が荒くなったエリウッドは呼吸を整え、ロイドに耳打ちをした。
「誰か、居たのかい?」
ロイドは黙っていたが、ある人物を口にした。
「…お前の親友だ。ヘクトルっていうやつ。」
ヘクトルとは、オスティア公弟でウーゼルの弟である。幼い時に両親が急逝し、兄のウーゼルがヘクトルを育てていた。ウーゼルは自由奔放なヘクトルに手を焼かれていたが、そんなヘクトルの事を大切な弟と思い込んでいた。
ヘクトル。その言葉でエリウッドに何か引っ掛かっていた。親友とロイドに言われたが、本当に親友なのだろうか。頭の中でぐちゃぐちゃになってしまい、ふりしぼり、そして弱々しく口を開いた。
「…すまない、ヘクトルって誰なんだ…?」
ロイドはエリウッドの苦味のある表情を見て、とても驚いた。
どうやらエリウッドは記憶を失っていた。
ロイドに拉致され、アジトで過ごしている間、仲間の記憶が自然と消えていた。
「…そうか。何か思い出す事はあるか?」
「それが…何も、思い出せないんだ…。」
ロイドは不安になっているエリウッドの頭を撫で、『大丈夫だ。』と励ます。
「ゆっくりでいい。思い出すまで、俺も一緒に居るから。」
ロイドに叱咤されるのかと思ったら、違った。
励まされた。記憶を失くしている自分に、応援しているロイドを見たエリウッドは、瞳から一つの雫がぽたりと芝生に落ちた。
なんで自分は泣いているんだ。応援されているのに。なんで。なんで。
嗚咽を交えながらロイドの腕の中で、鼻をすすいながら泣くエリウッドに、ロイドはエリウッドが落ち着くまで静かに抱き締める。
数分後、エリウッドはやっと落ち着きを取り出し、腰から立ち上がる。
「…ありがとう、ロイド。お陰で大分落ち着いたよ。」
笑みを零すエリウッドの瞼には赤く腫れていた。
エリウッドにとって辛い事が沢山あったと、ロイドには読み取れた。
「…行けるか?」
ロイドも立ち上がり、荷物をまた一纏めにし、肩に担ぐ。
「…ああ、行こう。半島へ!」
勇気を振り絞り、ハッキリとした声でエリウッドはロイドと再び歩みだした。
その時だった。

「半島って何処の島に行くのかしら?」
二人は青ざめ、静かに後ろを振り向く。
黒髪で黄金色の瞳で、理の魔道書を片手に持った首領の後妻であるソーニャだった。
「ソーニャ…!俺らが此処に居るというのは、どうして分かったんだ?」
ロイドはエリウッドに後ろに下がるようにと指示し、一歩、また一歩とエリウッドは下がる。
「…あのすすり泣く声で分かったもの。可愛らしい公子のね。」
ソーニャは暗い笑みを浮かべながら、ロイドの元へ歩み寄る。
「…ロイド、何故牙を抜けた?何か理由でもあるんじゃない?」
ソーニャはロイドの顎をくいとあげ、見下す。
「俺はこいつと、一緒に旅に出る。もう牙には戻らないと、首領に伝えた。」
顎に手を置かれたソーニャの手を払い、ロイドの後ろに居たエリウッドを抱き寄せ、真剣な表情でロイドはソーニャを見た。
「…あら。それは貴方の幸せかしら?恋愛に疎い貴方が、敵であり暗殺対象であるのを。」
「…黙れ。」
未だに暗い笑みを浮かべているソーニャに苛立ちを覚えたロイドは、声のトーンを2つほど低くした。
「…そうね。貴方は、冷静だから他の人らに配慮するのはいい事よ。だけどね…?」
ソーニャがそういった瞬間だった。
ロイドの隣に居たエリウッドの両腕を掴み、そして右手に理魔法[フィンブル]をエリウッドの首筋寸前に軽く当て
「こいつを失うのはいい事かしら?」
ソーニャはエリウッドを捕らえ、ロイドを嘲笑う。
「…っ!お前…!」
ロイドは少し歯を食いしばり、エリウッドを引き剥がそうとしても無理な事だ。
仮に引き剥がしたら、エリウッドの首筋にソーニャが理魔法を繰り出すんじゃ。エリウッドは致命傷を負うのでは。
「ロイド…僕は大丈夫だから、このくらいの痛みなら、耐えてみせるから…。」
へらりとエリウッドはロイドに笑みを見せ、安心させようとした。
違う。お前が俺に見せてる無理な笑顔じゃない。本当の笑顔が見たい。やめろ。やめてくれ。
ソーニャは邪魔だ。仮にあいつに傷が付いたとしても剥ぎ取ってみせる。ソーニャが抵抗すれば殺せばいいだけだ。
ロイドは頭の中で交差していく文字を掻き消し、ソーニャに向かい、腰に付けてある剣を抜き取る。
「…エリウッドを離せ。離さなかったら、お前の首に俺の剣が刺さるだろう。」
段々とロイドの目が笑わなくなり、それを見たソーニャはエリウッドを引き離した。
「…私が簡単に離す訳無いでしょう?」
ソーニャはエリウッドをまた引き寄せ、今度は理魔法[フィンブル]では無く、[サンダー]でエリウッドの首筋に孤の描く様に掻いた。
喰らったエリウッドは、苦味のある表情でその場に蹲り、右手で首筋を抑えたが、右手の中指と薬指の間から、赤い液体が手の甲をつたっていた。
「かっ…は…」
ぽたり、ぽたりとひと粒の液体が芝生に落ちては、葉から液体が垂れたことにより、じわりと赤く染まりだす。
苦しんでいるエリウッドを見たロイドは放っておけず、ソーニャを引き剥がした。
呼吸が乱れだし、今にも息が掻き消しそうなエリウッドは、小声で『痛い、痛い』と弱気な発言をロイドに溢した。
「…辛かっただろう。後は俺がやるから、あの木陰に休め。」
ロイドはエリウッドを抱きかかえ、先程休んだ木陰にエリウッドを添え、寝かせる。
「…ソーニャ。俺はあんたを許せない。暗殺対象であるエリウッドを、致死寸前にするとは思わなかった。第一、あんたとネルガルが来てから【黒い牙】が可笑しくなった。そのせいで旧友が足早に抜け、金さえあれば、老若男女問わず暗殺を企てる。」
ジリジリとソーニャに近づくロイドは、右手に持った剣の刃をソーニャの頬に軽く当てる。
「…それが何?まぁ、【黒い牙】が簡単に崩壊するとは思わなかったわ。たかが"義賊団"が弱きを助け悪人を裁くのは、屑でも分かるぐらいだよ!」
ソーニャは自分の頬に当てていたロイドの刃を払い除け、一歩下がり、理魔法の呪文を詠唱した。
詠唱中のソーニャを計らい、ロイドは魔道書に向けて剣を振るった。
見事に当て、ソーニャが持っていた魔道書を芝生に落とし、ソーニャの手から切り傷が出来ていた。
今のうちだと、ロイドは木陰に休んでいるエリウッドの肩を軽く叩き優しい声でこう呟く。
「逃げるぞ。行き先はミスル半島だ。」
ソーニャの隙を見計らったロイドはエリウッドの手を引き、逃げた。
大分日が暮れたのか、二人はミスル半島の近くにある小さな街に一休みをした。
エリウッドは元々体力が疎かなのか、床に俯き、息切れをしながら呼吸を整える。
「…すまん。本当はお前を、こんな目に合わせたくなかったんだ。」
隣に居たエリウッドの首筋を見ては、傷を指で伝う。傷の空き具合で再び痛みが走ることもあるが、ロイドは辛そうな表情をするエリウッドを見ては、ぐしゃりと歯を食いしばった。
「…大丈夫だよ。この痛みなら、ね…。」
エリウッドはロイドの髪に触れては、ふわっとした笑みをロイドに見せた。
ロイドにとって、エリウッドの本当の笑顔がこれなんだと、心から嬉しく思った。
「…本当に大丈夫か?あまり無理するなら、肩を貸すことは出来るが。」
ロイドは立ち上がり、エリウッドの腕を肩に回させた。荷物は軽量をエリウッドに、それ以外は自分の背中に担いだ。
「…とか言って、肩借りる嵌めになってしまってるけどね。」
「俺がしたいわけでやっただけだ。暫く我慢しろ。」
ロイドはエリウッドの配分ペースに合わせながら、ゆっくりと歩んだ。

一方、アジトでは
「…ソーニャ。どうした、その怪我は。」
ソーニャが手の甲の切り傷を冷やしている隣にしゃがみ込んだのは、ソーニャ同様ネルガルから造られた[モルフ]であるリムステラだった。
ソーニャの感情移入はあるが、逆にリムステラはネルガルに忠誠心があり、それ以外は全くの無表情だった。
「…何よ、たかが[モルフ]が私の名を呼ぶんじゃないよ。これはロイドにやられたのよ。」
大量にある氷が含まれているビニール袋で手当をしているソーニャを見たリムステラは、ぽつりと何かを呟いた。
「お前は知らないのか?私達は、ネルガル様に造られた[モルフ]だぞ。」
ぼしゃりと滑り込むようにソーニャは袋を落とした。
リムステラの胸ぐらをつかみ、カタカタと体を震わせる。
「何を言っている!?私は人間…にん…げ…」
段々と手の甲の力が弱まり、ソーニャはガクリとリムステラの腕の中に崩れ落ちた。
「…牙は終わった。何もかも、そう…」
リムステラは、腕の中に呻き声をしゃくり上げているソーニャの頭を優しく撫でた。
「…[白狼]は狂っていた。あの暗殺対象の笑顔によって、かつての牙を捨て、暮らす道を選んだ…。」
リムステラは、ロイドとエリウッドの二人の幸せをただ願う。また同じ悲劇を繰り返さぬ様に。心から、かつて感情移入が無い彼から笑みを見せた。

先程の商店街にて、あの茶髪の青年から貰った紙を取り出しては見つめた。
「…はっ、もう捜索始めてるんだな。」
ロイドは嘲笑い、隣にはエリウッドが水分補給をしている。彼にその紙を見せないように、ポケットから取り出したのはライターだった。
それを親指で押すと、ぱちぱちと小さな炎がロイドを見せた。そして、紙をライターに付いてある小さな炎に添え、段々と焦げ焦げしい色になり、それと対象に燃え盛った。
「捜索はどうでもいいんだ…。それより、もうすぐだな。」
既に燃えていた紙は灰になり、千切れては風に吹かれ、そして消える。
ライターを消したロイドは再びポケットに入れ込み、エリウッドに声を掛ける。
「…行けるか?」
「…あぁ。行こう。」
ロイドはエリウッドの手を繋ぎ、ミスル半島へ向けて歩んだ。
ミスル半島まで大分時間が掛かり、辺りは暗くなっていた。
街も無ければ店も無い。辺り一面砂漠地帯だった。何せ、人が住むのに限られているであろう。
頬から汗が流れているロイドとエリウッドはぽつんとあった小屋へ入った。
小屋の中には至ってシンプルでシングルベッドに小さなタンス、入浴施設などある。
二人はタオルで汗を拭きながら、順毎に入浴をした。冷えきった体に温かいお湯によってとても体が温まり、エリウッドは少し息を吐いた。
一方ロイドは既に上がり、軽めの服装に身を包めており、鞄の中を漁っていた。
ロイドが取り出したのは白の薄いレースと2つの指輪だった。
それらを机上に置き、エリウッドが入浴から上がるまで暫く待つことにする。
「すまない、久しく長く入ってしまって…」
エリウッドは上がっては、まだ髪が少し濡れており、バスタオルで髪を拭いていた。
それを見たロイドはクスリと笑い、ぐしゃぐしゃとエリウッドの頭を撫でる。
「いや、いいんだ。お前が嬉しそうな顔をすると俺は幸せだ。」
髪を全て拭き終えたエリウッドは、前方にカーテンがあり、戸の隙間に冷たい風が吹いていた。
その冷たい風を浴び、ロイドを此方に引き寄せ、座らせた。
机上に置いてあったレースと2つの指輪を取り出し、水色の指輪はエリウッド、ロイドはオレンジ色の指輪をそれぞれの薬指をはめ、そしてレースをロイドの頭上に被せ、こう告げた。
「僕は、君を最期まで愛する事を誓います。」
ロイドはエリウッドの言葉を聞いては、ゆっくりと頷き、エリウッドを優しく抱きしめた。
「俺もここで誓おう。共に在ることを。そして、ここでずっと暮らそう。」
ロイドはエリウッドの唇にそっと甘い口づけをし、数秒程糖分の効いた味に溺れていく。

砂糖菓子の様に甘く、苦味もなく辛味もない。
これが二人による幸せである。
牙を脱退したロイドが見つけたのは、自分に依存していた公子であった。
【黒い牙】が崩壊したとかどうでもいい。
今はエリウッドを、自分の力で幸せにしたいという[白狼]の願望が心を支配されていたとは、本人も知る由もない。