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第6話

僕には君だけ、君にも僕だけ。
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2020/06/04 23:36
ベルン王国を拠点とし、弱者を踏みにじる悪人を裁く暗殺集団であるが、義賊でもある、黒い牙。
そのアジトには、至って黒と白を統一した建物だが、殺風景である。
その集団の一人である首領の長兄、ロイドは隣に居た茶色のフードを深く覆った青年を引き寄せ、歩かせた。風が靡き、フードが風力により飛ばされた。青年の顔色はとても悪く、頬には青白い痣がはっきりと残っており、辺りを見回しては俯き、地面を見ながら歩き出した。
「…もうすぐだ。この近道を抜ければ、侵入出来る。」
ロイドの冷たく、暖かさを持つ声を聞いた青年は頷き、ふと立ち止まる。目の前にある黒い牙本拠地に、自分はどうすればいいのか、不安感に襲われた。
「…僕は、この場で暗殺されるのかい?」
ぽつりと、口を動かした言葉。ロイドは青年の表情を見て、首を振る。青年の瞳は黒く濁っており、光ですら灯していなかった。服を纏ってある黒いインナーの白い肌に、荒く描かれた赤い傷が、太陽の光に反射される。
「…いや、俺が決めつける訳ではない。それについては、向こうが判断を下すだろう。」
青年の頭を優しく撫でたロイドは、本拠地であるドアを開け、自室へ青年を招き、待機させた。
「…俺が戻るまでは、暫く此処で待ってくれ。頼んだぞ、"エリウッド"。」
そう、青年の名はエリウッドだった。橙色の髪が、カーテン越しにある窓から吹かれている風にとても靡いていく。少しだが、表情は柔らかくなり、ロイドに微笑んだ。

時計の秒針が部屋中に鳴り響き、床にしゃがみ込むエリウッドは辺りを見回す。ロイドの部屋には箪笥が連なり、本棚がある。その本棚の隣には錆びた剣が、無数に散乱していた。
「これで…こうすれば……。」
立ち上がったエリウッドは歩き出し、錆びた剣を取り出す。剣の刃が、窓から見える太陽の光に反射され、彼の濁っていた瞳に、一つの光が照らし出された。右手に持つ剣で、自分の左腕に向け刃を刺そうとした矢先だった。
「…お前、何して」
エリウッドは、視線を入り口にあるドアに切り替える。顔を青ざめ、更に冷や汗を掻き始めたロイドに、右腕を強く掴まれる。
「…何で止めるんだい?」
エリウッドの瞳に光が宿って居ない。純情な青い瞳に暗い影が混ざり合う。自分が何故ロイドに腕を掴まれているのか、理解出来ていなかった。
「何でって言われてもな。勝手に命を落とす事は絶対に駄目だ。仮にそうだとしても、依頼は失敗するんだ。」
辿々しく、言葉を繋ぎ合わせながらエリウッドに説得するロイド。吹き掛ける吐息と、言葉を紡ぎ出すその優しさ。だが、エリウッドの口は微動だにせず、ロイドの頬に氷の様に冷たい手をかざした。

「本当は、僕を殺す任務を受けられたのだろう?」

そう言われ、ロイドは黙る。だが、エリウッドの言った事は本当だ。
ロイド率いる黒い牙の内、四人に含まれる【四牙】。その【四牙】が、首領の後妻であるソーニャに、エリウッドを暗殺する任務を下されていた。だが、それを暗殺対象とされたエリウッドに、見抜かれていた。
「…あぁ、そうだ。俺達は、お前を暗殺しようとした。だが、お前は何も抵抗等せず、拐われる嵌めとなった。」
エリウッドは、人質として拐われる事は既に知っていた。ロイドが口を早く動かそうとしたが、彼の方が一枚上手となる。
「……もう、仲間に助けられる事は無いんだ。僕は、その人等に"道具"として見られ……要らなければ、その場に捨てられる身と……なってしまったんだ。」
エリウッドの口から吐き出した、本当の真実。エリウッドには、頼る仲間がもう居ない。居るとしたら、目の前に居るロイドだった。
ロイドは驚きを隠せず、エリウッドを、いや、暗殺対象を対処する方法を考えたが、頭の回転を回しても、浮かばなかった。しかし、一つだけ思い付いた事があり、言葉より、体が自然に動き出す。
エリウッドを優しく包み込む様に、抱擁し、彼の頭を撫で、肩を軽く叩く。
「辛かっただろう…。もし、お前を取り戻す奴らが居たら…例え任務が無かろうと、殺してみせる。」
ロイドの瞳に光は宿っておらず、笑わない。しかし、エリウッドの視界にはロイドの表情は映って居らず、ただ彼の背に両手を握り締めていた。
もし、エリウッドに幸せがあれば。それは、ロイドが叶えると、心に誓う。

彼等の幸せは、何かが間違っている。それに気づいた人物は、首領の後妻のソーニャ。
ドア越しに映り込む二人を見て、呆れた表情をし、後にした。

次の日の朝。窓越しに映る天候は、大雨。滴る雨粒は、窓ガラスに流れ出し、風が吹いているのか、不気味な音で部屋中に響き渡る。
ロイドの自室にて、ベッドに横たわっていたエリウッドは起き上がり、小さく欠伸をし、ベッドの周りを整え、降りた。その突如。
ドア越しに響き渡るノックの音。それも二回程、軽く叩かれた。
エリウッドは目を丸くし、辺りを見回す。震え出す右手を頼りにし、恐る恐るドアノブを、右回転重くのしかかる様に回し、内側に回るように開けた。
「……貴方は?」
エリウッドの瞳に映っているのは、長い黒髪に黄金色の瞳、不気味な表情を溢す。その人物は、ソーニャ。
「私はソーニャ。【黒い牙】首領の後妻よ。貴方にお願いがあるけど、いいかしら?」
言葉巧みにパーツを組み替えながら、エリウッドの目の前まで歩き出すソーニャ。彼の頬に手を触れた瞬間。
「…此処で死んでくれない?」
声を低くしたのか、ソーニャは右手に理魔法を詠唱し終えたのか、小さな雷が疎らに鳴り響いた。エリウッドの背筋が寒くなり、一歩、また一歩と下がっていたが、間に合わない。吐息と呼吸が混ざり合い、掠めながらエリウッドは、歯を食いしばる。
「どうして、そんな事を…!?」
「……貴方は囚われの身。本当は【四牙】の皆に暗殺される予定だったけれど、少し狂っていたわ。」
ソーニャは深く溜め息を付いたのか、先程まで詠唱し終えた筈の理魔法を突如、掻き消した。
焦げ臭く、小さな煙が、ソーニャと彼の位置の隙間から天井まで渦巻く。
煙が消えかかり、二人は無の空気に包まれる。
ソーニャが先に動き出し、エリウッドは剣を引き抜こうとしたが、剣は見当たらず、ベッドに放り出されてあった。恐らくだが、ソーニャに先程の理魔法で数秒の間移動させたのか。構えようとしたが、もう遅い。ソーニャの両手が、エリウッドの首に伸ばされ、絞め始めた。
「がっ……う、あぁ……!」
藻掻き苦しみながら、ソーニャの両手を引き剥がそうとするエリウッドに、ソーニャは不気味に微笑む。
「…ふふ、そんなに苦しまないで。すぐに楽にしてあげるわ…。」
更に力を強めたソーニャは、彼の表情を見ては高揚感が溢れていた。これで邪魔者は消せれる。これで自分は優秀という事になれる。
その突如。
彼女の頭上から、鈍器の様な物に殴られ、絞められた筈の両手が緩み始め、エリウッドはなだれ込む様に倒れた。掠める瞳に映ったのは、彼と共に倒れたソーニャの頭上から流れ出す、真っ赤な液体。錆びた剣に付着した返り血。
あぁ、全て分かった。いや、分かってしまった。

「……お前の感情は読めないが、ただ一つだけ分かった事がある。俺達の世界を蔑む奴を殺めればいいだろう……。なぁ、そうだろう?エリウッド。」

やっと目を開けた。だが、エリウッドの表情はふと、小さく微笑んだ。目の前には、返り血が付着した服装に、愛おしく狂い出し、そして邪悪な笑みを溢したロイドだった。

エリウッドは、ロイドと一緒なら居られると、改めて理解した。だが、ふと頭をよぎり出す。それが、本当の幸せだとしたら?それとも、偽りの幸せだとしたら?考えるのを放棄したエリウッドは、ロイドと手を繋ぎ出し、幸せいっぱいの笑顔を溢した。

【黒い牙】の首領の長兄、ロイドとフェレ侯公子エリウッド。二人が忽然と姿を消したのは数日後であった。
二人の幸せを探す旅は長い。時間を掛ければきっと、"本当の幸せ"はいつか出会えるだろう。

幸せに包まれる中、何かが狂い出したのは、二人は何も知らない。