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第7話

偽りの始まり
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2020/08/21 11:43
ベルン本拠地の隅にある、一つの小屋。薄暗い部屋の中、腕に縄を縛られ、身動きが一切とれず、そして脳裏にノックされるかの様に、電流が走り出す。ひゅっと、呼吸が微かに乱れ出し、頬には冷や汗がだらりと、床に流れていた。
静寂で、恐怖が混ざるこの部屋にて、エリウッドは誰かに殴られ、意識を手放した先にあったのは、この有様だ。脱走しかねないと、彼の両脚に、黒い鎖が付けられ、行く手を阻まれた。
一体誰が、こんな事をしたのだろうか。頭の中で悶々と悩ますエリウッドだが、答えを探そうとした、その時。

重くのしかかるドアが開き、淡く紫色の、西洋風のロングコートを羽織った人物が彼を覗き込む。やっとの事、答えを見付けたエリウッドは、その人物に向け、口を開いた。
「…やはり貴方だったのか、ロイド。」
苦虫を噛み潰し、再び冷や汗が頬をつたう。エリウッドはロイドの表情はどうなっているのか、見上げた瞬間、突如不敵な笑みを浮かべた。
「そうだ。俺があんたを捕えたんだ。」
言葉が短く、それでも淡々と話すロイドにエリウッドは青ざめた。何故エリウッドが、ロイドに監禁されなくてはならないのだろうか。事の発端は、数日前に振り返る。

エリウッド率いる軍は、エルトリアの魔道士パントの妻、ルイーズからの助言により、ベルン本拠地を訪れ、炎の紋章【ファイアーエムブレム】を取り返す為と、父の死を乗り越えてネルガルを倒す事を受けられたのだ。だが、本当にその物事を進めば、エリウッドの旅は終わりを迎えていた。そう、その筈だった。
エリウッドは道中にて、【黒い牙】本拠地のアジトに潜入した際に、ふと意識を失っていた。そして、目を覚ました先にて、今に至る。

「…何故そんな事をするんだ。もしかして、僕に恨みがあるのかい?」
何かを察したエリウッドは、ロイドに質問を投げ出す。多少の時間を使い、ロイドがふと口を動かした言葉により、エリウッドは失望した。
「恨み…か。そんな事は無い。ただ、俺だけを見て欲しいだけだ。」
あぁ、もうこの人は手遅れだ。強引という訳ではなく、ただじわりじわりと獲物を捉える、肉食獣の様だ。不気味に微笑んでいるが、瞳には光が宿っておらず、濁り出す影に塗り潰されていた。
「それが…貴方の希望なのか?」
希望。それがロイドの望みなら、エリウッドは上手く出来るかどうかはさておき、受け付けようと、賭けをかけた。
「あぁ、そうだ。あんたにとっては簡単な事だ。別に抵抗をしてもいいんだぜ?ただ、痛め付ける事はないがな。」
更に助言を加え出すロイドに、エリウッドはふと、聞いた事も無い脈動が激しく鳴り響く。
何だろう、これは。何かの催眠指導なのだろうか。いや、違う。これは僕が自然と、ロイドの偽りの希望そのものに溺れているという、警告だ。やめろ、やめてくれ。この脈動を、誰か静止してくれないか。
とうとう呼吸が出来なくなったのか、エリウッドは鎖を付けられているのにも関わらず、両脚をばたつかせた。小さくひゅうひゅうと、部屋中に響き出す荒い呼吸が、ロイドの耳元を騒ぎ立てる。
「…辛そうだな。」
ロイドがそう口を零し、エリウッドの元へ歩み寄り、彼の両脚に付けられていた筈の鎖を、がしゃりと外した。粉々にロイドの足元に砕け散り、バラける鎖を見て、エリウッドは呆然とした。

何も言葉が出ず、ぎゅっと口を塞ぎこみ、黙り込むエリウッド。鎖では無く、もしや別の物で縛り付けようとするのだろうか。
「…今度は何をするつもりだい?」
エリウッドは一度瞬きをし、少し警戒し始めた。ロイドは今度何を行うのだろうか、予測し始めた。鳴り響く時計の秒針、そして漂う不穏な空気。エリウッドが持っていた剣は、懐にある。もしロイドが、何かをしたら剣で対抗出来ると、確信したエリウッドは、ひと呼吸をし、焦りを取り戻す。ロイドが動き出した。はっ、と息を吐きエリウッドは、剣を取り出そうとした刹那。
ひゅっと、風を切る様な音にエリウッドはその場で固まる。だが、静電気の様な痛みはある。ふと自分の腕に向け目を配ろうとしたが、青ざめた。剣を掴もうとした筈の右腕に、一つの掠り傷が、ぱくりとこちらを見るように開いていた。
「…はは、そうだ。俺はあんたのその表情が見たかったんだ。」
不敵に笑むロイドは、怯えるエリウッドを見つめ、体中に快感が溢れ出す。もうエリウッドはロイドの心情を恐怖としか、見えなかった。掠れる呼吸でドアに手を伸ばそうとしたが、がしりとロイドに腕を捕まれた。
「何で逃げようとしてるんだ?」
ロイドのその言葉は重くのしかかり、エリウッドを再び恐怖を押し込ませる。エリウッドは、再び脈動が走り出し、ズキズキと頭が痛み出す。ガタガタと震えだし、もう今すぐにでも此処から逃げ出したい。脳がそう反応していた。
だが、ふと頭を過ぎり出す。何故逃げるのか。理由が、何も見つからない。別に逃げなくてもいい。ただ、此処に居ればいい。

あぁ、そうか。僕は、君の希望に囚われてしまったのか。

今まで苦しんでいたのが馬鹿らしくなり、全てのものを吹っ切らせ、幸福に溢れんばかりの笑みをしたエリウッドが、ロイドの瞳に映り込んだ。だが、エリウッドの瞳は純情な青色では無く、その上を黒く塗り潰された影に酷く覆われていた。
「…逃げる訳にはいかないだろう?僕は、君の隣にずっと寄り添うよ。」
静かに、そして狂いを表情に移し自分より身体が大きいロイドに抱きついたエリウッドは、口元を緩める。ロイドは目を丸くし、ふ、と息を吐き出し、エリウッドを優しく包み込む様に抱擁した。

数日後、その小屋に他の者が入る事が無く、静寂である。ただ風が吹いており、森林の奥には、果物の実がなっていた。椅子に座り込み、本を読んでいるエリウッドは、ただ誰かを待つ。
「エリウッド、ただいま。」
そう静かにドアを開け、土産を持ち嬉しそうに微笑む彼が居た。エリウッドは本を閉じ、見上げた瞬間クスリと笑い、こう口を動かした。

「おかえり、"兄さん"。」