よく分からない智くんの妄想が走ります
あなた 13→28
智 13→28
翔 11→26
どうぞ
あなたside
貴方は、‘’花火‘’と聞いてどんなものを思い浮かべますか?
従兄弟と使った占い付きの手持ち花火
兄妹とかき氷を食べながら見た大きな打ち上げ花火
私は、ある男の子と見た線香花火を思い出す
15年前のあの日
1人、古い神社で静かに線香花火の火をつける
遠くの方では大きなお祭りがやっている
私は明日、県外に引っ越す
でもそれが嫌でここに逃げてきた
突然聞こえた声に顔を上げる
そこには、どこから来たのか青い浴衣を着た男の子がいた
手を目の前に出してくる
自分で買った花火を初対面の人にあげたくなかったけど
何故か彼には渡してしまった
私はつけたばかりの線香花火の火種を落とさないように
ゆっくりと動いた
私と同じ歳くらいの彼は穏やかに話す
彼の花火に火をつけると、赤い玉が先っちょについた
ぱちぱちと赤い玉から火花が飛び散る
それに照らされた智の顔は輝いていた
顔を上げて海の方を見ると大きな花火が上がっている
でも智はじっと線香花火を見つめていた
私は消えかけた自分の線香花火を
水の入った瓶に落とす
すると智は顔を上げた
子どもっぽく笑ってまだ途中の線香花火を水に落とす
もったいない、と思いながらも新しい花火を出してあげた
私たちは同時に火をつける
しばらくして弾けだした花の粒たちを
私たちはじっと無言のまま見つめていた
智の花火が先に落ちる
顔を見ると拗ねたように口をとがらせていた
智は立ち上がって振り向く
そして八重歯を見せながらにっこりと笑った
赤い浴衣の男の子が走ってくる
肩で息をする彼を智は撫でてあげる
智よりしっかりしている弟さんを少し撫でる
そして立ち去ろうとする智を引き止めた
手を握ったんだかどうだか、それは忘れちゃったけど
会話は今も頭の中に残り続けている
そのまま先に行った弟さんを追いかけるように走った智の背中は
カラフルな色の提灯にぼやけていた
あれから15年
私は29歳になった
あの後私は家に帰って引越しの仕上げをして、
次の日の朝この街を旅立った
だからここに来るのは本当に15年ぶり
でも彼の顔と声は覚えていた
あと名前も
15年ぶりのお祭りに心踊り、青い浴衣を着付けた私は
彼と出会った場所に歩いた
ぱちぱちと弾ける光の花
あの時と変わらない少しじめっとした雨の匂い
時間を見るとお祭りも終盤に差し掛かっていた
買ってきた線香花火もあと4本
新しい1本に火をつけると
サンダルを床にする音が聞こえた
あの時と同じセリフで
でも声は低くて
見上げると青い浴衣を着た男性が
驚いたように私の目を見つめていた
遠くで1番大きな花火が上がる
私の手から線香花火が滑り落ちる
地面に赤い火花が落ちた時
彼は私を抱きしめた
ぎゅっと力強く抱きしめてくる智の背中を叩く
1度会ったとはいえ30分ぐらいの会話で
その後15年の時が経ってるから
コミュ障の私はあたふたする
そんな私なんかお構いなく抱きしめてくる智は
甘い香りを漂わせていた
智は耳元で囁く
抱きしめ返すと少し笑った
智は離れて私を立ち上がらせる
そして手を握って笑った
笑った顔は弾ける線香花火のようで
私はその煌めく花びらで顔が熱くなる
同じ青の浴衣がひとつに溶け合う
私たちは今日、15年かけてひとつの線香花火になれた
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どうも。お久しぶりです。
今日が花火の日ということで書かせていただきました
ゆっくり読んでください。
ではまた
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。