第26話

花火《💙》
711
2020/08/01 14:13
よく分からない智くんの妄想が走ります



あなた 13→28
智 13→28
翔 11→26



どうぞ
















あなたside



貴方は、‘’花火‘’と聞いてどんなものを思い浮かべますか?





従兄弟と使った占い付きの手持ち花火


兄妹とかき氷を食べながら見た大きな打ち上げ花火




私は、ある男の子と見た線香花火を思い出す





15年前のあの日




1人、古い神社で静かに線香花火の火をつける


遠くの方では大きなお祭りがやっている




私は明日、県外に引っ越す

でもそれが嫌でここに逃げてきた
???
わぁっ、綺麗……
突然聞こえた声に顔を上げる



そこには、どこから来たのか青い浴衣を着た男の子がいた
???
俺にも1本ちょうだいっ
手を目の前に出してくる


自分で買った花火を初対面の人にあげたくなかったけど


何故か彼には渡してしまった



私はつけたばかりの線香花火の火種を落とさないように


ゆっくりと動いた
あなた

…君、どうしてここに?

???
ん〜、わからないの
あなた

わからない?

???
うん、気がついたらここにいた
私と同じ歳くらいの彼は穏やかに話す



彼の花火に火をつけると、赤い玉が先っちょについた
???
お姉さんの名前は?
あなた

私はあなたよ。あなたは?

大野智
僕は大野智、よろしくねあなた
ぱちぱちと赤い玉から火花が飛び散る


それに照らされた智の顔は輝いていた
あなた

…智は向こうのお祭り行かないの?

顔を上げて海の方を見ると大きな花火が上がっている



でも智はじっと線香花火を見つめていた
大野智
行かないっ
あなた

どうして?

大野智
楽しくないもん…
あなたちゃんと花火してる方がいい
あなた

そう、好きにしなさい

私は消えかけた自分の線香花火を


水の入った瓶に落とす



すると智は顔を上げた
あなた

…なに?

大野智
次はどっちが長くやれるかやろ?
あなた

……いいよ

子どもっぽく笑ってまだ途中の線香花火を水に落とす



もったいない、と思いながらも新しい花火を出してあげた
大野智
じゃあいくよっ?
あなた

せーの

私たちは同時に火をつける




しばらくして弾けだした花の粒たちを


私たちはじっと無言のまま見つめていた
大野智
…あっ
智の花火が先に落ちる


顔を見ると拗ねたように口をとがらせていた
あなた

もう一本やる?

大野智
んーん、もうやらないっ
智は立ち上がって振り向く



そして八重歯を見せながらにっこりと笑った
大野智
しょぉちゃん!
櫻井翔
智くん!!!?
赤い浴衣の男の子が走ってくる



肩で息をする彼を智は撫でてあげる
櫻井翔
もう…お母さんとお父さん心配してたよ?
大野智
んははっ、ごめんごめん
櫻井翔
で、そちらの方は…?
あなた

あなたです。お兄さん捕まえてごめんなさい

櫻井翔
いえいえ!こちらこそ兄の面倒を見てくださりありがとうございました
智よりしっかりしている弟さんを少し撫でる




そして立ち去ろうとする智を引き止めた



手を握ったんだかどうだか、それは忘れちゃったけど
あなた

またいつか会おう?

大野智
来年は…?
あなた

それはわからない…けど、またいつか

大野智
……わかった、またね
会話は今も頭の中に残り続けている


そのまま先に行った弟さんを追いかけるように走った智の背中は


カラフルな色の提灯にぼやけていた






あなた

うわ…懐かし

あれから15年



私は29歳になった





あの後私は家に帰って引越しの仕上げをして、


次の日の朝この街を旅立った






だからここに来るのは本当に15年ぶり



でも彼の顔と声は覚えていた

あと名前も
15年ぶりのお祭りに心踊り、青い浴衣を着付けた私は


彼と出会った場所に歩いた








ぱちぱちと弾ける光の花


あの時と変わらない少しじめっとした雨の匂い



時間を見るとお祭りも終盤に差し掛かっていた
あなた

……やっぱり会えないのかな

買ってきた線香花火もあと4本



新しい1本に火をつけると


サンダルを床にする音が聞こえた
???
綺麗…っ
あなた

え…?

???
俺にも1本ちょうだい
あの時と同じセリフで



でも声は低くて



見上げると青い浴衣を着た男性が


驚いたように私の目を見つめていた
あなた

……智っ

大野智
あなた?
遠くで1番大きな花火が上がる



私の手から線香花火が滑り落ちる





地面に赤い火花が落ちた時


彼は私を抱きしめた
あなた

っ……!

大野智
やっと見つけた…
あなた

智、ちょっと…

ぎゅっと力強く抱きしめてくる智の背中を叩く



1度会ったとはいえ30分ぐらいの会話で

その後15年の時が経ってるから


コミュ障の私はあたふたする



そんな私なんかお構いなく抱きしめてくる智は

甘い香りを漂わせていた
大野智
あの日……
あなた

ん…?

大野智
あの日からずっと、毎年ここに来てたの
あなた

え、そうなの?

大野智
うん。でもあなたちゃんが全然来ないから
あなた

それはごめん

智は耳元で囁く




抱きしめ返すと少し笑った
大野智
これからずっとここにいるの?
あなた

そのつもり

大野智
結婚した?彼氏は?
あなた

いないよ…?

大野智
じゃあ…
智は離れて私を立ち上がらせる




そして手を握って笑った
大野智
俺と付き合ってください
あなた

……!

笑った顔は弾ける線香花火のようで




私はその煌めく花びらで顔が熱くなる
大野智
ダメ…?
あなた

…ふふっ、いいよ

同じ青の浴衣がひとつに溶け合う



私たちは今日、15年かけてひとつの線香花火になれた









ーーーーー


どうも。お久しぶりです。


今日が花火の日ということで書かせていただきました





ゆっくり読んでください。




ではまた

プリ小説オーディオドラマ