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第1話

エピソード0
18
2021/03/10 06:20


『』←君   「」←僕


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『ねえ、天国ってどんな所だと思う?』















「……分かんない。」















『だよね。だって、行った人が戻ってこないんだもん。』














何度も聞いたことがあるその言葉。














その言葉を、


今にも死にそうな君が言った。















これが、君と僕がした初めての会話だった。









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「……あぶないよ。

















って言ったほうがいい感じ?」












『んー、一般的には…?
だって私、柵の向こうにいるんだから。』











「そっか。」











 



君は、屋上の越えてはいけない所にいた。















『あなた、死にに来たの?』














「まあ、そうなるかな。」















『へぇー。……隣、来る?』














「遠慮しとく。順番、待つよ。」














『あ、私、死にに来てないからね?』
















「……そうなの?」

















『あ、ごめん。なんか紛らわしいね笑
こうすると、あー生きてるなーって感じるの。』














君は空を見上げて、手を広げた。














「生きてるって、感じた?」
















『んー、まだ。』




 












どの位経っただろうか。













あの雲がまだ時計の上を通り越していないから、それほど時間は経っていないと思うけど。
















『よし。』














終わったみたい。














『じゃ、帰るね。バイバイ。』
















「うん。」












変な人だな。

















さあ。








そろそろ行こうか。
















柵に手をかけ、最後の景色を見ていると、















ポツポツと、雨が降ってきた。
















「は……。なんで。晴れてるのに。」












おかしいな。

今日は降らない予報だったはず。












「今日はやめよ。
死ぬ日はキレイな空の下でって決めてるし。」














靴を履き、階段へ続く扉へと歩く。














扉の取手の部分には、赤色の折りたたみ傘が掛かっていた。













「誰かの忘れ物?
……今日だけ借ります。」












自分には似合わない傘をさして、家への帰路についた。














この色、トマトジュースみたいだな。











濃くて、グラスの先を見ることはできない。











同じように、上を見ても空を見ることはできない。














僕も死んだらこの色に侵食されていくのだろうか。














《続く》

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