1番後ろの窓際の席。日当り良好。
心穏やかに日々を過ごせる。
席替えをした当初の私はそんなことを思っていた。
そう、思っていたのに。
この男によってそんな理想は砕かれた。
陽キャのチャラ男と地味な女
絶対に交わることのない世界線。
これで諦めると思ったが、
毎日飽きずに話しかけてくる。
楽しそうに笑う彼の八重歯が見えた。
その笑顔に私は負けてしまったんだ。
・
大きな身体を縮こまらせて、
分かりやすく落ち込むミンギュ君。
目を輝かせて喜んでいる。
尻尾を振る大きな犬みたいだと思った。
ニコニコと可愛いこの子は、クラスの一軍女子。
たしか、いつもミンギュ君の周りに居た人
非常階段に到着した。
嫌な予感しかしない…
振り返った彼女からは、
先程までの可愛らしさは消え去っていた。
私が口答えをしたのが気に食わなかったのか、
勢い良く肩に掴みかかってきた。
突然入ってきた声。顔を見なくても分かる。
今までに見たことない表情をしていた。
女は私から離れ、彼の腕に絡み付く。
そう言って彼は横目で私の方をチラッと見た。
あぁ、やっぱり。
最初から違う世界って分かってたはずなのに
馬鹿だな…
彼の口から直接聞くのは嫌で、
2人の側を通り抜けようとした。
後ろから抱き締められた。
私から離れ、だけど手は繋がったまま
女の方に体を向けてはっきりと言い放った。
繋がった手を、強く握られた。
彼の迫力に押され、女は逃げていった。
しばらく、沈黙が流れる。
最初に口を開いたのはミンギュ君だった。
胸がキュッと苦しくなった。
自分で言った事だし、分かってたつもりだけど
改めて彼から口に出されると…
彼はいつも輝いて見えていた。
「ミンギュ君みたいになりたい」
でも、そう思うと余計に自分を惨めに感じるから
わざと遠ざけていたのかも知れない。
そんなお願い、断れるわけがない。
むしろ居てほしいのは私の方。
ミンギュ君の大きな身体に埋もれる。
力いっぱい抱き締めてくるから、
苦しいくらいに伝わってきた
違う世界は、案外遠い場所じゃなかった。
手を取り合えば世界なんてここにしかない。
二人だけの、素敵な世界
🐶
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!