始まりは突然だった。
いつもの毎日、いつもの騒がしい廊下。
聞き覚えのあるその声に足を止めると、
去年同じクラスだった友達。
何気なく彼の隣にいる男の子に目を向けた。
その瞬間、時が止まったような気がした。
まるで彫刻作品かのような整ったお顔。
宝石のように輝くその瞳に、
私は一瞬で落ちた。
後先考えずに突っ走るのが私の悪い癖。
気がついた時には口が勝手に動いていた。
表情を崩さず、ぱちぱち と瞬きをした彼。
その隣のぶーちゃんは大パニックだけれど
今の私はそれ所じゃない。
手を差し出しすと、その手を受け取ってくれた。
お友達としての握手。
これが、私たちの出会いだった。
こうして “お友達” から始り、
押して押して押しまくって付き合ってから半年。
ハンソラから1度も好きと聞いたことがないのが
私の最近の悩みである。
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移動教室の帰り道。
廊下を曲がってすぐの教室に向かう途中。
曲がり角の直前で、ぶーちゃんの声が聞こえた。
へへ、びっくりさせてやろっと。
壁のすぐ側に体をくっつけ、
タイミングを見て勢いよく飛び出そうと試みた。
…… ん、あたし?
この会話…
「言い出せない」「早く言った方がいい」
どう聞いても別れ話の相談じゃん
ちょっとぶーちゃん?
私の味方だと思ってたのに。
またしても、勝手に体が動いていた。
やらかしたと気付いた時にはもう遅い。
えい、もうどうにでもなれ!
一方的に喋った私はハンソラの言葉を遮って、
自分の教室まで逃げるように走り抜けた。
放課後になって、彼が私の教室に来た。
友達と別れて、ハンソラの方を向く。
しばらくして教室には私達だけになり
後の方の席に座って二人向かい合った。
妙に気まずい空気が私たちの間を流れる。
短い沈黙を破ったのは彼だった。
やっぱりどうしてもその先を聞きたくなくて
ぎゅっと目を閉じ、両手で耳を塞いだ。
突然、耳元にあった両手が温もりに包まれた。
その手は握られたままハンソルの膝の上に。
恐る恐る目を開けると、
今までに見たこともないような優しい瞳で
私を見つめていた。
今度こそちゃんと聞こう、と覚悟を決めた。
しかし次に彼の口から出てきた言葉は
予想外のものだった。
いつもの様に顔色を変えず淡々と
だけど一言ずつ丁寧に、そう言った。
照れたように視線を逸らした。
ほんの少し、耳が赤く染まっている。
大きな口を開けて笑う彼。
その帰り道、アイスを食べに寄ったお店。
じーーっと私の事を見つめている綺麗な瞳。
素直になったこの人は最強なわけで。
つまり心臓がいくつあっても足りないわけで…
昨日は夢にも思わなかった
今日から、また新しい私たちが始まる
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。
登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。