舞台上に現れた一艘の大きな船、そして滝沢くん。
その滝沢くんに言われロープづたいに、上から下へ滑り降りる「いける、よし大丈夫だ」続けてタマも言われて下へとロープで滑り落ち千賀の台詞。
船へ飛び移る千賀、その身体を手で引き寄せる滝沢くん。それから塚ちゃん、トッツーと次々に名前が呼ばれ最後に長老とユキヒメ、藤ヶ谷が登場し物語りは進んでく「向こうにユウカリの木が沢山ある」と藤ヶ谷がユキヒメを誘い出し。
天井から吊り下がる3本のロープの両脇を2人が
支え、真ん中のロープは俺が掴み、そのロープを
つたって上へ上へと昇ってく滝沢くん、この舞台
の見せ場の1つ。
手だけで身体を支え両足は宙に浮きグルグルと回る滝沢くんを下で動きに合わせ俺もまたロープを回し上と下、2人の息がピッタリ合っていなければ事故にもなりかねない危険なアクション。と、その時!
心臓が煩いほどにドクドクと暴れだし足元が覚束
なくなって「なっ、くっ、何が…起き‥た!?」呼吸
は乱れ体内が火照り、自分で身体を支えることが
出来なくてよ、俺は膝から床へガクンと崩れ落ち
てしまったんだ。
塚ちゃんの声で、見上げたと同時に落ちて来る滝沢くんの姿が見え反射的に両腕を広げその身体を自分の手で受け止め。
響き渡る客席からの悲鳴を帯びた叫び声、走馬灯のごとく次から次へ沢山の風景や顔、いろんな出来事が浮かんでは消え。
そう俺は神奈川県相模原市に住む両親のもとで生まれた親が揃って教師ってだけで至って普通の家庭、名前は「広く光りを与える人になるように」という意味、とにかく幼稚園・小学生と習い事を多くさせられたっけ。お陰で、常に向上心を忘れない人間になった…つもり?
あれは中学2年のとき、母さんに呼ばれて。
「もちろん着いて行くよ」そう答えた母さんを独りにはできないから、それと平行するかのように行われたのが第二次性徴期検査だったっけ。
小学生のとき先生にこう説明された、中学に入ると血を取って自分がなんの性質なのかを調べる検査があると。
性質とは、男とか女とは別に3つの属性が人間にはあり、それは凄く大事なことで将来を左右することにもなりかねない。
でも、αやΩと診断される人は僅か数%でしかなく。
俺は、そのまんま父さんと母さんに「父さんと母さんは何かって?」「βよ安心した」
(なーんだ気にする必要なんてないか)
子供って単純だから、あまり深く物事を考えたりはしないもの当時の俺もそうだった。だから、ずっと忘れていたんだ。この時の事を…
大人になり、とんでもない事が待ち受けているだなんて思いもせず。
うっすらと目を開けたら滝沢くんの心配そうに覗き込む顔があり。
(ふっ…良かった‥無事…で‥)
そこで意識が途絶える、周囲から聞こえた様々な声を耳にしつつ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!