甘い匂いにつられて向かった先の一室の、ソファーで眠っていたミツ。
(この匂い、あのときと同じ間違いない)
嫌な暗い過去が頭をもたげて顔を出す、あれは17の誕生日を迎えた年の春、俺はいつものように学校を出て長い階段を上り権之助坂を目黒駅方面へ歩いていた。
帰宅の途についたのは、すでに陽が落ちかけていた夕方。それから自宅の最寄り駅より独りでトボトボと家に向かって、そのとき「ぷ~ん」と甘い香りが風に乗り俺の鼻腔を刺激し。
(んっ?なにこれ)
道端にうずくまっていた人影、近づいた途端に心臓がドクドクと音を立て高鳴り始め。
(えっ、えっえっ、っ…はぁはぁ、苦しい‥くっ…息‥が…でき‥な)
カァーッと全身が熱くなったのまでは覚えている、そこからの記憶がない。気がつけば…
目の前には衣服が乱れ、どこからどう見ても誰か
に襲われてしまったような女子高生が1人、視界
が自分の下半身へと向けられ驚愕の姿に膝がガク
ガクと揺れた。
そこに倒れている女子高生と自分のを交互に見つめ
下着すら身につけていない股間からは濡れた自分
のモノが滴をしたたらせ、いかにもコトを済ませ
た寸前かの如くに。
無我夢中でパンツとズボンを履き自宅まで走って
帰った、あの日。
優しく見つめるタイピーの瞳、怒鳴られたときとはうって変わり。
それまでは自分がαだなんて思いもしなかった中学で行われた検査ではβと診断されていたから、しかし東京へ戻った翌日。
「そうですか、やはり」そう言った先生はあの時の
帝劇の廊下ですれ違った高林先生だったんだ、事務所で委嘱している。
・横尾side
5月4日:大阪城ホール、その前日にホテルで俺は藤ヶ谷と一緒になり。
(勘弁して欲しい間違いだったなんて、その人にとっては一生に関わること現にタマはそれで大きな傷を負っている)
「もうミツの傍へは行けない、一緒に遊びに行ったりも出来ない」そう、涙を堪え俯いていた玉森の姿が目に浮かぶ。
「番ができれば北山に」でもデビューを目指し猛進している自分たちに、それは無理な話し。
ツアーで泊まるとき宮田と玉森・北山の3人は一緒にお風呂に入るのが定番となっていて、それがあの日以来。
「俺が、こんなんだからかなぁ」寂しそうに北山が言う。(そうじゃないって)
掛けてあげられる言葉が見つからないまま城ホールでのコンサートは開始され…が、そんな中で起きた突然のサプライズ。MCの最中にメインステへ移動する際スクリーンに映し出された大先輩の姿、俺達は驚愕した。
その言葉と共に登場したのが滝沢くんオリジナル
デザインのローラースケート基調は黒、ローラー
部分と前後にピンクを配し、くるぶし部分には、
キスマークをあしらったオリジナルロゴが入って
る。なかなか凝った一品で、まさかの豪華プレゼ
ントを前にして。
と、メンバー全員が大興奮。
で、さっそく装着し当初はローラースケートを履く予定ではなかった「雨」そして「Smile」の2曲をそのまま披露する事となり北山もすっかり上機嫌となって、その日の夜。
言い出したのは藤ヶ谷、たぶん玉森のことを心配し「俺は、さしずめ補佐役ってとこ?ふっ」
「薬を飲んでいれば大丈夫」そう藤ケ谷は言った、逆に不自然に離れてしまったら北山がネガティブになってしまうと。
滝沢くんも玉森も、抑制剤さえ飲んでいれば北山がヒートを起こしたとしても暴走を抑えることができる。しかし藤ヶ谷は…
「上手く誤魔化しているから性質を隠す香水をつけ」藤ケ谷の言葉に小さく頷く玉森「だからタマが北山の体調の変化に気づいてくれたなら」
【連携】全員で北山を護ると決めた、そのためなら自分の性質さえも利用する藤ヶ谷の決意の瞳にタマも同意して。
(ふっ、良かったね)
北山の嬉しそうな姿に藤ヶ谷も「なにニヤニヤしているんだよ」そう突っ込んだら。
(北山、みんなが傍にいるよ大丈夫けして独りには
しないから)
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!