翌朝…
「あれは?いったい、なんだったのか」
ミツが舞台で倒れたとき、傍に行こうとして匂った甘い香り。
そしたら目の前がクラクラし急に息苦しくなって。
俺は全身が火照って、身体の奥から何かが突き上げてくるような感じがし。
あれは高校生のとき、学校の帰り道に匂った香りにも似ていた。
あの時も俺は今回と似たような症状となり、一瞬
記憶をなくしてしまい。
「客席でずっと泣いてただろ」「泣き顔がツタンカーメンで超ウケたわ、ガハハッ」
気がつけば、ボーッとしながら道路を歩いていたんだっけ。
誰にも言えない俺だけの秘密、そのとき俺は。
(で、あってたよな?千賀が言ってた言葉)
ペラペラ、ペラペラ、その場を誤魔化すかのように喋り続けた。
宮田の不安げな、心配そうな視線に堪えきれず。
でも、あれは最高に面白かった。
明けて次の年、2009年に帝劇で行われた新春:滝沢革命では滝沢くんがファンを魅了したのはもちろんだけど俺達グループのファンが狂喜したのは。
「ファンって不思議だね俺には理解できない,ハハッ」それから、何故だか俺は事務所に呼ばれ。
もともと好きで入ったわけではない事務所、母親がファンで勝手に履歴書を送った。あの日のことは、今でも聡明に覚えている。
後にも先にも、あんなに泣いたのはあの時だけ。
それは有名なドラマのオーディションで過去に亀梨くんとかも出ていた番組、そのスペシャルをやるため生徒役を募集してのことだった。
(俺達の2トップのお出ましか、なら負けてはいられないな)
普段はボーッとしていると言われている俺だけど、実はかなりの負けず嫌いときている。
俺達のグループ内でも、半端なく男気が強かった
ミツ、まぁ~サッカーをやっていたのもあるんだ
けど。
(それだったら俺だってやってきたさ、キタミツほど上手くはないにしろ)
そんな俺らのやり取りを経験豊富なタイピーは余裕の笑みで見つめていて闘争心に火がつき、結果。
(パチパチパチ!)
人には、誰にでも転機というものがある。
俺の転機は、この「ごくせん」というドラマに出れたこと続けて夏公開の映画にも出演し。
いきなり、前へと出され。
そんな俺を悔しそうに見つめていた千賀、寂しげな表情の宮田。
芸能界は競争の世界、躊躇していたら負けてしまう「好きなこと全部捨てこの世界に入って来た、だから負けるわけにはいかないんだ」
でも、どんどん才能を発揮し飛躍していくミツや
タイピーに比べ自分はいつも宮田と怒られてばか
りいて。
初めはβには無理なんだと思っていた、けど位置を奪われた千賀の鋭い視線が胸を貫き「俺だって頑張っていたんだ」そう言いたげに…
(分かっているよ分かっているダンスや歌はお前の方が上さ、でも俺はβだから無理だと甘え怠けていた自分から卒業したい見ていてくれ絶対に恥ずかしくないセンターになってみせるから)
が、その後とんでもない「どんでん返し」が待ち
受けていようとは。
センターとしての玉森裕太は、こうして誕生し今
ここにいるメンバーのいろんな想いを受け不安と
期待の中で。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。