第5話

兆候②藤ヶ谷side→北山side
北山
それって、どんな匂い
藤ヶ谷
んっ?


唐突に北山が聞いた黙っていると「教えてくれたっていいじゃん」そう唇を尖らし。

藤ヶ谷
…甘い‥香りが…する
滝沢
‥‥‥


少し離れた場所にいた滝沢くんが、チラッとこっちを見る。

千賀
なんの話し?
二階堂
匂いなんかしねぇよ、なぁ宮田?
宮田
あ、うん
玉森
‥‥‥
横尾
ほら、みんな稽古しよう


横尾の一喝で、それぞれが定位置へとつき「あの時はこんな匂いなんてしていなかった」俺は、それが凄く気に掛かっていて。

藤ヶ谷
えっ、弁慶ですか!?
北山
‥‥‥


2007年「滝沢演舞城」この年、自分は思ってもみなかった大役をもらう。

滝沢
藤ヶ谷の歳で演じるのは若すぎると
違和感を覚えるスタッフやお客さん
もいるかもしれない
藤ヶ谷
滝沢くん
滝沢
けど俺は敢えてお前にした
その意味わかるよな?


ジーッと見つめる滝沢くんの瞳に、あの日の言葉が甦る。

滝沢
なんで藤ヶ谷は自分の能力を
発揮しないわけ?


「ここは力の見せどころ認めて貰えるチャンスだ」そう思った俺は。

藤ヶ谷
頑張ります有り難うございます


ペコンとおじぎをする隣で北山はギュッと唇を噛みしめていたっけ、そして負けず嫌いの闘争心に火がついたのか稽古場での気迫は凄まじく。

その姿はいつものチャラいあいつとは違い、そんな北山をジッと見つめていた滝沢くん。

横尾
どっちを見ているの?
藤ヶ谷
えっ
横尾
滝沢くん?それとも北山
藤ヶ谷
‥‥っ


俺は大好きな人や尊敬する人をガン見する癖がある

藤ヶ谷
どっちも
横尾
あの2人ある意味似ているよね
だから気が合うのかもしれない
藤ヶ谷
そうだね


滝沢くんは俺よりも北山のことを扱うのが上手い、どうすれば彼奴がヤル気を出し自分の力を発揮するのか、ちゃんと分かっていて闘争心を刺激する案の定、次の年には舞台では欠かせない重要な役を与えられ。

梶原景時、歴史上で実際にいた人物だけど滝沢くん独自のキャラ設定で完全なる悪役。

滝沢
北山が観に来てくれたお客さんに本気で嫌われたら、この役は成功だよ
北山
ですね、それくらい悪になりきって
演じるつもりです


大学を卒業し社会人となった北山、一時は両親と
同じ教師になる道も考え在学中に教員免許を取得
したという。

その北山の転機の1つともなった、この役は。

ファン
もうトッツーが可哀想よ
ファン
北山、ひっど~い冷酷すぎ
ファン
ほんと嫌いになった


滝沢くんのファンから、そんな声まで聞こえてくるくらい三郎の役をやっていたトッツーは滝沢くんが可愛がっていた後輩の中でもファンの間で断トツの人気で。

そのせいか花道で重症ながらも義経への忠義の姿勢を貫いた三郎を冷淡に斬り捨てる、そんな景時への非難が集中したんだ。

が、それとは逆に雨の中のラストシーンで義経と
対峙する景時の気迫は主役である滝沢くんに負け
ず劣らず。

その目力、眼光の鋭さに魅了されファンになる人が続出し「好きな人は好き嫌いな人は嫌い」そうハッキリと分かれるほど観客の心を鷲掴みにした北山、負けてはいられないと自分も

ファン
ねぇ藤ヶ谷、また弁慶の死に方を
変えたでしょ
ファン
私、今回の方が好き
ファン
もう感動しちゃった
ファン
凄いよねぇ
ファン
去年はさ若すぎる弁慶で一生懸命
やっているのは分かっているんだ
けど、ちょっと無理があって
ファン
そうそ
ファン
でも今年は安心して見ていられる
ファン
弁慶を自分のものにしたって感じ
ファン
もう藤ヶ谷の代表作だね


(有り難うございます本当に嬉しい)

滝沢くんのファンは、後輩である俺らにも優しい。それは常日頃から滝沢くんが「自分たちを応援してくれる思いと同じ気持ちでJr.たちも応援してあげて欲しい」と、そう言っている事からくるもので。

そして俺と北山は気がつけば兄と弟ではなく「切磋琢磨し成長し合える」そんなライバルであってライバルではない、メンバーとしてだけではなく互いに必要とし支え合える間柄。

そう掛けがえのない存在として認め合う関係となっていったんだ、滝沢くんの温かく見つめる瞳に包まれ。

北山
はぁ、ハァハァ…くっ
藤ヶ谷
北山?


北山の様子がおかしい何か苦しそうに呼吸をし、
そのとき小さな身体がグラッと揺れ。

(えっ!?)

藤ヶ谷
北山!


それは、まるでスローモーションの如く崩れるようにして自分の前で起きた。

滝沢
お前ら、そこを退け


焦ったような滝沢くんの声が稽古場いっぱいに響き渡る。




・北山side

(はぁ、ハァハァ、はぁ、なんだ?今日はいつもにも増して身体が怠い)

北山
くっ
藤ヶ谷
北山?


その瞬間、ぐらっとバランスを崩し床へ倒れ込んでしまい。

藤ヶ谷
北山!
玉森
‥‥っ
宮田
キタミツ!?
二階堂
宏光、しっかり
千賀
二階堂、揺さぶっちゃダメだ!


(ん…なに?なに‥が…起きた‥って…いうん‥だ)

横尾
貧血かもしれない最近顔色が
悪かったから


(横尾…さん?)

滝沢
お前ら、そこを退け
宮田
滝沢くん!?
二階堂
‥‥っ


と、そのときフワッといい香りがし「これは…滝沢くんの‥香水?いや…ちょっと…違うな」

滝沢
藤ヶ谷
藤ヶ谷
はい
滝沢
少し休ませるから手を貸してくれる?
藤ヶ谷
分かりました
藤ヶ谷
みんな休憩してていいよ
玉森
キタミツ!
宮田
大丈夫だよタマ、休めば
きっと元気になる


そのあと意識が薄れ気がついたときにはソファーの上へ寝かされていて傍には藤ヶ谷の姿が。

北山
あ、俺…
藤ヶ谷
目が覚めた
北山
今、何時?
藤ヶ谷
夜の9時すぎ
北山
へっ?ちょ、つあっ


ビックリして起き上がろうとした途端に頭がズキンと痛み、思わず手で後頭部を押さえたら。

藤ヶ谷
無理すんな
北山
…っ、ハァハァ、はぁ、俺
藤ヶ谷
大丈夫、ただの貧血だって
北山
んだ…か、くっ
藤ヶ谷
頭を打っているから安静に
しておいた方がいい
北山
…あぁ


にしても半端なく痛い、皆は?そう聞くと「とっくに帰った」藤ケ谷は答え。

(ふっ、だよな)

藤ヶ谷
取り合えず送ってく
北山
はっ?


(今なんとおっしゃいました?藤ヶ谷さん送ってく)

北山
誰を?
藤ヶ谷
北山


(えぇ~っ!?ちょ、ちょーっと待った藤ヶ谷が俺を?なんで)

藤ヶ谷
どうかした?
北山
いや、独りで
藤ヶ谷
帰せるわけがない、そんな状態で!
北山
うわっ


(どして?どーうしてそんなに怒るわけ帰れるよ子供じゃあるまいし)

が、立とうとした瞬間また身体のバランスを崩し。

藤ヶ谷
だぁ~だから無理するなって
言ったじゃん!


すぐさま藤ヶ谷に抱き止められ怒鳴られてしまい、シュンと項垂れる俺。

藤ヶ谷
悪い大きな声を出して
北山
…いや
藤ヶ谷
その…頼まれてるから‥さ滝沢くんに
北山
ぁ…‥
藤ヶ谷
大人しく言うことを聞いてくれる
ねっ?北山


藤ヶ谷が、なんとも言えない心配そうな表情で俺を見つめるものだから何故だか胸がキュンとして。

北山
わーった分かったから
そんな眼で見るな
藤ヶ谷
ふっ、タクシーを呼ぶね


(なんだったんだ?今の)

スタッフ
じゃ滝沢くんに連絡しておきます
藤ヶ谷
すみません遅くまで


俺達は帝劇のスタッフに礼を言いタクシーへと乗り込み。

北山
あの…
藤ヶ谷
着くまで休んでれば○○マンション
までお願いします
運転手
はい


車のエンジン音と共に、ネオン輝く夜の街を走って行く藤ヶ谷は車内では無言で、俺は再びウトウトと眠りについてしまい。

藤ヶ谷
着いたよ北山
北山
ぁ…‥
藤ヶ谷
有り難うございました


その声で目を覚まし車から降りると「歩ける」って肩に手を添えられ。

藤ヶ谷
ゆっくりでいいから


俺の身体を支えるかのように歩き労ってくれる。

藤ヶ谷
カギ
北山
おっ、おう


藤ヶ谷が優しい超がつくほど「どうしたっていうんだろう?いったい」

藤ヶ谷
はい座って
北山
ほい


(明日は絶対に豪雨だな)

藤ヶ谷
これ薬だって
北山
なんの?
藤ヶ谷
サプリメントとか言ってたかな
北山
ふーん、つまり
藤ヶ谷
鉄剤みたいなもんじゃない
北山
あぁ~なるほどね


(しかし、なんか変な感じ)

藤ヶ谷
じゃ俺、帰るわ
北山
あんがと藤ヶ谷
藤ヶ谷
今日は、ゆっくり休んで
北山
おう


「また明日」そう言って藤ヶ谷は帰って行き、何か意を含んだような表情を俺に向けながら。

北山
あいつ、なんで俺の傍に
いてくれたんだろう?


このとき俺は、自分が意識を飛ばしている間に何があったのかを知らないでいた。しかし運命の足跡は確実に近づいていたんだ、自分でも気づかぬ内に。