2009年12月━
この日、俺たちは帝国劇場に併設されている9階の稽古場で新年早々に行われる舞台:滝沢革命の稽古に勤しんでいた。
(あっ、これはそのなんていうんです合間に弟たちがゲームなんかをしちゃったりしているわけで、ハハッ)
が、そんな中で俺はなんとなく気になっているメンバーがいてさ。
元気がない様子の北山、しかし聞いても正直に答えるわけがない。
(大丈夫か?こいつ)
そのときふと感じた身近にいた奴の視線、俺はこの視線を知っている以前にも心配そうに見つめていたから、思い起こせばこの年の夏、少年隊さんの跡を継ぎ青山劇場で「PLAYZONE」の舞台を務めることになったとき。
誰の胸の内にもあった今が正念場という気持ち、
それが。
幼児の格好をすると聞いた俺は思い切った行動を
起し、これがメンバーにかなり受けたらしく稽古
場へ行ったらすぐに突っ込まれ。
ここ最近の俺達はノリに乗っていた、その前の年にはエビキスでコンサートをしたくらい。
(デビューねぇ、ふっ)
したいと思ってなかったわけじゃない、この世界に飛び込んだのは15のとき。以来ずっと、それなりに頑張って来た「Youじゃなくお兄さんが欲しかった」そんな社長の言葉を引きずりながら。
けど次から次へデビューしていく周りの連中を見ながら気落ちする日々が続き周囲でなんて言われてたかなんて知っている、売れ残りの寄せ集めの7人。
それが「PLAYZONE」の舞台をメインで務めることになり。
続けるにしろ辞めるにしろ爪痕を残すなら今しかない、そんな思いからでもあったんだ。
まだ、このときは北山にそういった兆候はなく。
賑やかな声が、稽古場いっぱいに広がっている。
そんな中、それぞれが前を見据えていたとき今でも聡明に思い出す、あのときの藤ヶ谷の顔を何故だか独り北山のことを遠巻きで見ていて。
(どうしてそんな眼で?辛そうな、それでいて切な
そうな)
俺は、どちらかというとそっちの方が気に掛かり。
そう言うと「ふっ」と笑い尚更、目が離せなくなってしまう。
遡れば藤ヶ谷が事務所に入ったのは小5のとき、当時は滝沢くんとヒロミさんがMCを務めていた「8J」という番組によく出ていたらしい。しかし、中学になった頃より事務所からの連絡がピタッと止まり入れ替わるようにして入所して来たのが、俺や宮田、二階堂ってわけ。
そんな藤ヶ谷と深夜に放送された番組「裸の少年」で顔を合わせたのは、それから約1年後のこと。
お互い初対面から肌が合わず、な~んてのは昔の話し誰にでもある子供だったからなんとやら滝沢くんと翼くんも今でこそコンビを組んではいるものの昔は不仲だったのは有名な話し。
それと同じで皆いろいろあるんだ、ただ芸能人だから言われてしまう仕方ないんだけどね藤ヶ谷と北山のことだってそう思春期から大人へと成長していく中でよくある話し。
俺は、ずっと見て来たから2人のこと1番近くにいてずっと。
(ん~それはね)
(違う違う、あははっ)
二階堂が北山のこと「みっちゃん」と呼んだのは、NHKの少クラという番組で、あのときの彼奴ったらデレ~ッとした顔しちゃって。
嬉しそうにニマニマしていたっけ、けどだからってわけじゃない年々セクシーさが増していた藤ヶ谷、ドラマ「ごくせん」に出てより意欲が沸いてきていた様子の玉森。錦織さんはそんなメンバーをちゃんと分かっていて各自それぞれの個性を把握し、その良さを舞台で生かそうと演出してくれた。
(凄い人さ)
稽古の初日から基本をみっちり仕込みダンスも、
あまりに個性的な俺達に皆で揃え綺麗に踊ること
を教えてくれ宮田は自分がアニメオタクであると
カミングアウトし。
北山は…
錦織さんがいち早く素質を見抜き、それも革命の
舞台のとき。
それが新たな北山宏光を生み出すきっかけとなり、幕が開いた「PLAYZONE」の舞台では今まで見た事がないド天然の北山がいたんだ。
そう、こいつは玉森や千賀に負けないくらい天然だったってわけ。
後になって、この時のことを二枚目でいることより三枚目を演じる楽しさを知ることができたと本人は述べている。
その、なんとも言えないキャラに客席は湧き何よりもファンの子たちを喜ばせたのが、釣りをしている藤ヶ谷のもとへ内のことを話しに北山がやって来るシーン。
それを何故だか北山は、藤ヶ谷の頭に被せ。
こんなふうに毎回アドリブを変え絡む2人にネットでは藤北の萌えシーンとして話題を呼び、こうして俺達は無事に舞台を務めあげる事ができ、いわゆる転機ともなったこの作品で更なる飛躍を遂げる事となる念願のコンサートツアーへと繋げ。
そして、今。
(いつもの北山じゃない、どうしたっていうんだろ)
けど、それは前兆だったんた。
数日後とつぜん北山は稽古中に倒れてしまい「貧血かもしれない最近、顔色が悪かったから」俺がそう言うと。
聞こえてきた声に振り向いた先にいたのは。
滝沢くんが血相を変え飛び込んで来て。
この2人だけが気づいていた北山の異変、そのあと俺も知る事となる。
それから暫くしSOSして来たとき、俺も藤ヶ谷の傍にいてさ。
苦渋に満ちた表情…
(辛かったよね、凄く)
(不安で、心配でさ)
(でもこれからは大丈夫、俺が藤ヶ谷を支えるから
一緒に護って行こう)
俺達の大切な人をー
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。