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思わず思っていることまで口に出してしまうほど,私は今緊張している.
夕立 茜羅 17歲.
余命一年にして,初めてまともにに男の人と話をしています.
彼は私の顔をキョトンとした顔でのぞきこんだ後,何故か何かを納得したように頷いた.
変な奴だと思われているに違いない.
こんな人気者のような人と,死にたがりの私が一緒にいちゃ駄目だ.
一刻でも早く戻らないと.
おかしくなる.
自分のフルネームを声に出すのは何年ぶりだろうか,少し恥ずかしい気もした.
かすかに嬉しいという気持ちが過ぎってしまったのは人間だから.
と理由を付けておく.
こんなのが,普通の人にとっては日常生活の中の一部なのだろうか.
すぐに立ち上がり頭を下げ,踵を返し戻ろうとしたその時.
ふわりと風が吹き,掴まれた腕と,身近に感じる肌.
息が止まるほどの近さに驚き,声が出ない.
目と目を合わせて初めて気づく彼の髪の色,目の色,背の高さ.
そのままの体型でそれだけ告げられ,私が恥を感じ始めた頃には彼は先に消えていた.
あいつは,私が初めて感じる驚きを何度もふっかけてくる.
嫌だ...
変だ...
頬が赤くなったのは,人と話す緊張からだということにしておく.
__10時.
特に好きでもない小説を適当に開いたまま,しばらくは窓の方を見てぼーっとしていた.
いらつくほどに,さっきの光景が頭の中を回転している.
コンコン
約束の時間だ.
どうせもうすぐ死ぬ運命が決まっている.
抗がん剤だとか,そんなのだったら秒で断る準備はしている.
予想外...というより,思い出したくもない事をよく医師の口から出してくれた.
その瞬間察した
今,医師から告げられた言葉は,余命宣告よりももっと残酷なものだ.
医師は軽く言ったつもりのわたしの“日常”,無視をされて,,,叩かれて,,蹴られて,殴られて物を壊され悪口を言われ水をかけられゴミを投げられ指を刺され笑われ上履きもなくなってジャージもなくなって先生からも見放されてn
医師の声で現実へ戻った.
あなたが思い出させたんじゃないですか,と言ってやりたかったけれど,シーツをぐしゃぐしゃに掴み,精一杯の作り笑いで嘘を吐いた.
先生の意図は目に見えていた.
日常とかなんちゃら知らんが,結構大きい病院で,もう余命が決まった人間は“邪魔”にしかならないのだ.
わたしだったらほかの入院患者を入れるだろう.
つまりは出ていけ,さよならぐっばい.
去っていく医師の背中に思いっきり中指立ててやろうかと思ったけどシーツの握りすぎて指が痛かった.
天気は晴天,心とは本当に正反対の天気だ.
目からこぼれた一滴の水は,太陽によってすぐに乾いた.
死刑囚だって,死ぬ前に好きなことをしていい.
でも私は,死ぬ前でも地獄を味わって死ななきゃいけない.
__そしてふと,彼のことが頭をよぎった.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。