チチチチチチ
小鳥ちゃんがうざい.
朝が来てしまった.
昨日から今日が来てしまった.
枕に顔を埋めながら呻いた.
ピコンッ
徐にスマホを確認すると,自然と笑顔になったのを自分で分かってしまい胸がズキっとした.
「 駅で待ってるぞ~ 」
駅でふうがと待ち合わせをした.
というより,気づいたら一緒に行くということになっていた.
軽くなった髪の毛をとかし,準備を始める.
いつもの恐怖の緊張とは違う緊張のせいで,すこし気持ち悪かった.
- 登校 -
今日も肌寒かった.
脚と顔に冷たい風が刺さる.
少し先に,自転車に跨ってスマホをいじるふうがを発見した.
よく分かりもしない安心に罪悪感がちらつくのは何故だろう.
中身のない言葉のキャッチボールをした後は,曇り空の下で二人並んで歩いた.
沈黙さえも安心に塗り替えてくれるような彼の存在はどれほど私にとって大事なのだったのか,この頃の私はまだよく分かっていなかった.
私たちの学校は同じだった.
聞かなくてもわかるふうがの人気ぶりからして,彼女達にこの光景を見られたら先は簡単に見えてしまった.
笑う気にもなれず,不安定な笑を彼に向けると,彼が不安な顔を浮かべてるのが分かった.
その後,学年が違う私達はそれぞれクラスへ向かった.
今日は上履きがあった,逆に不思議に思ってしまった.
聞き慣れてしまった声に肩をビクつかせてしまった.
ゆっくりと振り向く.
何の感情もないような顔で見つめていたが,次の次に彼女がとった行動で私の予想がまるっきり的中する.
...信じきれない言葉をどう受け止めればいいのか分からなかった.
誰が誰と付き合っているだとか,そんなの分かりもしない.
風雅にも,名前は教えていないから,可能性は0ではない.
Aは好きな男の前では可愛い女の子を演じきっているらしいから,もしかしたら,本当に...
胸ぐらを掴まれ,我に返る.
彼女の次の行動だった.
彼女ポケットから出てきたのは,紛れもない風雅の姿と,Aの写真だった.
彼女がすぐに写真を視界から外したからよくは見えなかったけれど,風雅は寝ていて,ベッドにも見えた.
高鳴る心臓,迫り来る動揺と焦りで冷や汗をかく.
...何に動揺しているのだろう.
風雅は私のものじゃないし,まず風雅という人間が何をしようと私には関係ない.
人と人以上の関係にはなれない,ならない.
猛烈な吐き気が迫ってきた.
医者には,刺激的なものは避けるように言われていたのだけれど,こんなのが私の〝刺激的なもの〟なのか.
笑えてくる.
廊下に出ると,周りの生徒の何人からか視線を感じた.
いつも通り,いつも通り,唱えるようにして歩いた.
- 放課後 -
1日が,終わらないかと思った.
長かった.
なんで死ぬ前にこんなくだらないところへ通わなきゃいけないんだ.
あぁ...そうだよね,私は死ぬんだ.
風雅は顔を覗いたあとに,真剣な声で言った.
そう言って風雅は手を振りながら早足で廊下をかけていった.
...
- 家 -
ベッドの上で,今朝見せられた写真のことを考えていた.
Aと風雅...
Aは,容姿端麗でみんなの人気者だった.
でも,気に入らないやつはすぐにいじめを始める最低な女の子.
いつも横にいるBは,髪の短い子.
ヤンキーっぽくて皆近寄り難そうにしてるけど,Aとは仲良く話している.
さっきみたいに呼び出したりして単独で行動することもある.
Cは背が低く中学生と間違えるくらい幼稚で馬鹿.
でも本気になると殺されそうだから危険.
よく笑っていて,AとBを慕っている.
毎回暴力はAが指示してBがやる.
Cはひたすら笑ってる.
私は,あいつらが死んでから死にたかった.
もうやる気もないから,最後の反撃として遺書を書く.
1番可愛くてぶりっ子なAだし,風雅も落とされちゃったのかな.
でもまだこの時は,心のどこかで違うと信じていた.
ピコンッ
「 せんちゃぁぁあん!!駅前のパンケーキのお店行かない!?いまから!!」
時刻は4時.まだ大丈夫なのを確認して,待ち合わせをして家を出た.
- 駅 -
そしてあーだこーだ言いながら,初めて風雅と言ったカフェに着いた.
こんなやり取りが続くといいと思ってしまった.
でもその一瞬の幸せは倍の不幸で返ってきた.
透から目を逸らし,店内を見渡した.
息を飲んだとはこういうことを言うのだろうか.
私だけが一瞬時間の止まったような気がした
.
思考停止から,物凄い動揺が迫ってきて,思わず透の手を掴んで外へ飛び出した.
戸惑っている透の事なんて考えられなかった.
居たのは,紛れもない 彼と彼女.
風雅とAだった.
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。