- 図書館 -
あまり関わらないようにしようと黙って続きを読み始めると,伊武と名乗った彼女はわざわざイスを私へ向けてキラキラした目でガン見してきた.
1分たっても続けているので流石に話すしか無くなってしまった.
もう...できる限り人と接したくないのに.
え?
べた褒めされては照れないわけがない.
独特な話し方,というか接しやすい人なんだろうな.
私の中身をまだ1ミリたりとも知らずに上部の私に触れている.
残念だね,
ふうがだって...
本当の私なんて誰も知らないけれど.
くそうける.
何言ってんの私.
めっちゃ感じ悪すぎだろ.
ごめんなさい.
こうやって人を傷付けて,ひとりになって,死んでいくんだ.
今まで草舟みたいに流されてきた私の方が,自分のペースなんてものも分からずにいるくせに.
自分を保ちながらも頑張って笑顔でいる彼女に私から説教される筋合いはない.
早く.
早く早く早く!!!!
何こいつって思ってどっか行ってよ......
はやく...お願いだから...
チラッと彼女を見てみた.
彼女は幸せそうにポッキーを食べていた.
ポッキーを片手に持ちながらもう片方の手でポッキーを差し出す彼女.
この子は,馬鹿なのか.
私がおかしいのか.
後者...なのか
小さな声で呟いて,
笑った.
その一瞬だけは,悩んでいたことがすべて一旦離れたように感じた.
3秒後にはまたべっとりくっついたけれど.
そして,思い切り心臓をナイフで切り裂きたかった.
しねばいいのに
わたしなんか,はやく.
神様,もういいだろう.
趣味の悪い悪戯はもう散々だ.
はやくころしてくれ.
___
数十分後.
私はいぶちゃんの家の前に立っていた.
祖母にはいぶちゃんがご丁寧に説明をぺらぺら話していて,祖母は喜んでいるようだった.らしい.
返事はない.
二階建ての,ごくごく普通の家.
階段を一段一段登っていく.
まず人の家に入るということが新鮮で,空気が全く違う気がした.
他人の家の温かさが,気持ち悪かった.
登ってすぐのところに,「TO-RU」とかかれたドアが目に入った.
でも意識はすぐに,隣の部屋に集中した.
目の前には扉が開いたドア.
ドアの向こうには部屋があって,真正面に窓があった.
真っ青な空と風が,私の髪を揺らす.
何故か足を踏み入れてしまった.
部屋の中は,いろんな紙で満たされていた.
絵を...描いているのだろうか.
1枚の絵を拾いあげてみると,そこには真っ白な少女が描かれていた.
絵で綺麗だと思ったのは初めてかもしれない.
またまた突如声をかけられた.
だがあまりにも予想外すぎて思い切りびくついてしまった.
たったったったったっ
軽快な階段の登る音が聞こえたと思うと,
そう言うとその女の人は私にウィンクして部屋を出ていった.
女の人はそんなことをぶつぶつ言いながら階段を降りていった.
あの人は,誰だったのだろう.
髪型はいぶちゃんと似てるが薄ピンク色で,大きめの眼鏡をかけていた.
いぶちゃんはどちらかというと可愛い妹系だが,あの人はクールなお姉さん系...とでも言えば伝わるかな.
私が混乱してる間にも,部屋に散らばっていたイラストたちはいぶちゃんによって机に重ねられていた.
なにが...一緒だったんだろう
少し気になったけれど,初めて人の部屋に入るという緊張ですぐにそのもやもやは消えてしまった.
青と白で統一された,綺麗な部屋.
所々にアニメのグッズとかが置いてあった.
いぶちゃんは机の前のイスに立ち膝で乗って本棚を漁っていた.
しばらく私がキョロキョロしてベッドにゆっくり座ろうとした時,いぶちゃんが あった!と大きな声を出したのでびっくりして床に座ってしまった.
私の前に突き出された本...ノート?には「 東ⅹ喰種 」と書いてあった.
それでも椅子に座ってくるくる回りながらお願いをしてくるのでページをめくっていく.
確かに絵は上達していて,上手くなっていた.
何枚目かめくった時,ある紙を見つけた.
真っ白な少女,お姉さんの部屋で見たあの絵と似てる__
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!