「元気してた? 」
「はい。バイトに追われてます。葵月さんは? 」
「はは、そりゃ大変だ。俺はね、名字を小鳥遊に戻した。嘘じゃなくなったよ」
「日本の夏、物凄く暑いです」
「あはは、知らなかったの? 」
「よく考えたら知り尽くしていました」
「日本の食べ物が恋しいよ、俺の好きな和食屋まだある? 」
「たまに有栖川さんと行くようになりました。結構仲良くなりました。彼、酔うとちょっと面倒くさいです」
「あはは、酒入った真琴の絡み癖治ってないんだ、あいつらしいな」
「こっちは秋になりました。東京も紅葉が見れます」
「うわ、いいな。クリスマス休暇が待ち遠しい。ああでも、その頃には紅葉終わってるや」
「その頃には日本は初詣ですね。雪景色は見れますよ、東京は積もらないかもしれないですけど」
「先生は元気にしてる? 」
「はい。葵月さんに会いたがってました。金魚の皿もずっと飾ってあります」
「嬉しいよ、帰国するタイミングで顔出しに行こうかな」
「正月には姉も実家に顔を出してくるようになりました。良かったです」
「ふふ、少しずつ良くなっていくといいね」
「絵付け、誘ってくれたからです、きっと」
「日本楽しかったよ。冬でも、ロンドンより暖かい」
「和食美味しかったですよね」
「美味しすぎた。三ヶ月分くらい日本の料理向こうに送りたいよ」
「初めて出会った時のこと覚えてます? 本当は、絵のことなんて全然知らなくて。だからあれ、嘘なんです」
「あはは、真面目だな。俺も小鳥遊って名乗ったのに」
「そういえば、お互い様でしたね」
「嬉しかった。『帰雁』を見たいと言ってくれて、その感想が何も飾らない『すごかった』の一言だったのも」
「……春、来ましたか? 」
「あれを描いた時は来なかった。今はわかるよ。雨が止むことも、春が来ることも、雁がまた、戻ってくることも」












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!