第6話

「好きだからだよ」
半年前まで、放課後デートなんて、私とは無縁のことだと思っていた。


傑先輩は、たくさんの遊び場所を知っていて、いつでも私を連れて行ってくれる。


遊園地や映画館のような商業施設はもちろん、景色の綺麗な落ち着ける穴場や、一般人ならなかなか立ち入れないところまで。


中でも、学校から三駅離れたところにある臨海公園は、傑先輩のお気に入りだ。


今日もそこへ向かうことになった。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
はぐれるといけないから、手繋ご
あなた

……でも

朝比奈 傑
朝比奈 傑
今日くらい、匠も許してくれるさ

今まで、一度だって手を繋いだことはなかったのに。


急にお姫様のように扱われると、調子が狂ってしまう。
あなた

(温かい……)


それでも嬉しいことには変わりなくて、ドキドキして、不思議と笑みがこぼれた。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
やっと笑った
あなた

あ……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
なんか、俺の家のことに巻き込んで、ごめんな?

私は首を横に振ったけれど、やっぱり心には何かが引っかかっている。



***



臨海公園に着くと、高台に登り、二人並んで海を見渡した。


普段ならもっと会話ができるはずなのに、今日は静かな時間が流れる。


傑先輩も、いつもの太陽のような明るさはなく、考え込んでいる様子だ。
あなた

(無理もないよね……)


何か話題はないものかと考えていると、先輩が私に向き直った。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
初めてあなたに会った時は、『なんか面白い子だな』って思ったんだ
あなた

急に、どうしたんですか?

朝比奈 傑
朝比奈 傑
まあ、聞いてよ。
単に刺激が欲しくて近づいただけだったのに、君はいつしか俺のことを信頼して、何でも一生懸命に応えようとするから。
どんどん、かわいいなって思うようになった

傑先輩の口から、やっと気持ちが聞ける。


そんな期待から、私も真っ直ぐに彼を見つめた。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
俺の影響で自然な笑顔がでてくるようになって、たまらなく嬉しかった
あなた

……! それは、私もです

朝比奈 傑
朝比奈 傑
うん。
だから、親には『心に決めた子がいる』って報告していたんだけど……

とくん、と一際大きく心臓が跳ねた。


期待しても、いいのだろうか。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
父さんにも母さんにも、『本気になりすぎないで』って注意されて、取り合ってもらえなかった
あなた

……え?

朝比奈 傑
朝比奈 傑
匠がこのタイミングで動いたのも、多分うちの親が指示してる。
まあ、君に本気だったのは想定外だったけど……利害が一致したんだろうな

そう考えれば辻褄つじつまが合う。


結局のところ、私が先輩への恋心を諦めなければならないのは、確かなようだ。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
でも、俺は諦めるつもりはない。
もっと、あなたのいろんな表情が見たい
あなた

ど、どうしてそう思うんですか?


心臓が口から飛び出そうだけれど、それだけはきちんと聞いておきたかった。


傑先輩は、寂しそうに笑い、私の頭を撫でる。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
好きだからだよ

やっと、気持ちが聞けた。
あなた

(泣いてしまいそう……)


嬉しくて、切なくて、泣きたくなる時があるなんて初めて知った。


先輩が本心を話してくれたのだから、私も本当のことを言わなければ。


都合がいいかもしれないけれど、ここで言わなかったら、ずっと後悔する。
あなた

わ、わた……し、さっき嘘を、つきました

朝比奈 傑
朝比奈 傑
……うん
あなた

瀬戸くんと付き合ってるのも嘘だし、彼が好きだと言ったのも、嘘です


感極まって声が震えるけれど、先輩はじっと待ってくれる。
あなた

私が、好きなのは……傑先輩です


下唇を噛みしめ、泣くのを堪えていると、先輩は破顔した。


これから先どうなるのかは分からないけれど、ただ今だけは、幸せでたまらなかった。


【第7話につづく】