半年前まで、放課後デートなんて、私とは無縁のことだと思っていた。
傑先輩は、たくさんの遊び場所を知っていて、いつでも私を連れて行ってくれる。
遊園地や映画館のような商業施設はもちろん、景色の綺麗な落ち着ける穴場や、一般人ならなかなか立ち入れないところまで。
中でも、学校から三駅離れたところにある臨海公園は、傑先輩のお気に入りだ。
今日もそこへ向かうことになった。
今まで、一度だって手を繋いだことはなかったのに。
急にお姫様のように扱われると、調子が狂ってしまう。
それでも嬉しいことには変わりなくて、ドキドキして、不思議と笑みがこぼれた。
私は首を横に振ったけれど、やっぱり心には何かが引っかかっている。
***
臨海公園に着くと、高台に登り、二人並んで海を見渡した。
普段ならもっと会話ができるはずなのに、今日は静かな時間が流れる。
傑先輩も、いつもの太陽のような明るさはなく、考え込んでいる様子だ。
何か話題はないものかと考えていると、先輩が私に向き直った。
傑先輩の口から、やっと気持ちが聞ける。
そんな期待から、私も真っ直ぐに彼を見つめた。
とくん、と一際大きく心臓が跳ねた。
期待しても、いいのだろうか。
そう考えれば辻褄が合う。
結局のところ、私が先輩への恋心を諦めなければならないのは、確かなようだ。
心臓が口から飛び出そうだけれど、それだけはきちんと聞いておきたかった。
傑先輩は、寂しそうに笑い、私の頭を撫でる。
やっと、気持ちが聞けた。
嬉しくて、切なくて、泣きたくなる時があるなんて初めて知った。
先輩が本心を話してくれたのだから、私も本当のことを言わなければ。
都合がいいかもしれないけれど、ここで言わなかったら、ずっと後悔する。
感極まって声が震えるけれど、先輩はじっと待ってくれる。
下唇を噛みしめ、泣くのを堪えていると、先輩は破顔した。
これから先どうなるのかは分からないけれど、ただ今だけは、幸せでたまらなかった。
【第7話につづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。