あれから一晩考えて、私は結論を出した。
昨夜は、よく眠れなくて、かなりの寝不足だ。
始業前、今度は私から瀬戸くんを呼び出して、話す機会を持つことにした。
傑先輩と関係を絶つことに、未練はある。
でも、互いのためにその方がいいのだと、私は判断した。
私の心情を察してか、眼鏡の奥で労いの表情を見せる瀬戸くんの反応に、少しだけ泣いてしまいそうになる。
言われてみればそうだと、私は瞬きを繰り返しながら、最後に頷いた。
***
放課後。
今日こそは遊びに行こうと私を誘う傑先輩を前に、瀬戸くんは口実を作って、私と先輩をふたりきりにした。
今、言わなければ――そんな使命感みたいなものが込み上げる。
棘のないように、傷つけないように。
もう関係を絶ちたいのだと、本音と反対のことを告げた。
先輩の両目がみるみるうちに大きく開き、すぐに疑うような目つきに変わる。
先輩はそう言うけれど、どうしてそこまで頑ななのか、彼だって肝心なことは言ってくれない。
ただの暇つぶしにしては、執着しすぎている。
だから、期待してしまったのかもしれない。
もしかすると、先輩も私のことをいいなと思ってくれているかも、なんて。
この嘘は、できればつきたくなかった。
断腸の思いで、両目をぎゅっと瞑りながら伝える。
先輩の反応が怖くて、恐る恐る目を開くと――。
彼は両頬を膨らませ、むくれていた。
そこに見えるのは、私の勘違いでなければ……嫉妬、だ。
事実確認のためか、傑先輩はスマートフォンを取り出すと、「今すぐ用事を終わらせて戻ってこい」と瀬戸くんを呼び出した。
気まずい雰囲気で、互いに黙ったまま瀬戸くんを待つこと数分。
息を切らしながら、瀬戸くんが戻ってきた。
息を整えた瀬戸くんは、悪びれる様子もなく、けろっとして答えた。
そんなものはないはずなのに、一体どうするつもりなのか。
焦る私に、瀬戸くんは突然歩み寄った。
見上げた瞬間、瀬戸くんの顔が一気に私に近づいてくる。
【第5話へつづく】
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。