第4話

「絶対に嫌だ」

あれから一晩考えて、私は結論を出した。


昨夜は、よく眠れなくて、かなりの寝不足だ。


始業前、今度は私から瀬戸くんを呼び出して、話す機会を持つことにした。
瀬戸 匠
瀬戸 匠
僕が昨日話したことについて、だよね?
あなた

……うん。
瀬戸くんが言うとおりにしようと、思う

瀬戸 匠
瀬戸 匠
よかった……。
よく決心してくれたね。
僕も事を荒立てたくなかったから、助かるよ

傑先輩と関係を絶つことに、未練はある。


でも、互いのためにその方がいいのだと、私は判断した。


私の心情を察してか、眼鏡の奥でねぎらいの表情を見せる瀬戸くんの反応に、少しだけ泣いてしまいそうになる。
あなた

傑先輩には、どうやって話したらいいかな……

瀬戸 匠
瀬戸 匠
……そうだね。
正直に理由を言っても駄目だし、かと言って中途半端な嘘だと傑は絶対に信じないから。
いざというときは、『僕と付き合うことになった』って言ってみて
あなた

つ、付き合っ……!? 瀬戸くんと?

瀬戸 匠
瀬戸 匠
僕だってずっと君の近くにいたんだから、別におかしくはないでしょ?

言われてみればそうだと、私は瞬きを繰り返しながら、最後に頷いた。



***



放課後。


今日こそは遊びに行こうと私を誘う傑先輩を前に、瀬戸くんは口実を作って、私と先輩をふたりきりにした。


今、言わなければ――そんな使命感みたいなものが込み上げる。
あなた

あのっ、傑先輩……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
ん? 行きたいところ、決まったか?
あなた

私、先輩のおかげで、だいぶ笑えるようになりましたし……もう、大丈夫です

朝比奈 傑
朝比奈 傑
えっ?

とげのないように、傷つけないように。


もう関係を絶ちたいのだと、本音と反対のことを告げた。


先輩の両目がみるみるうちに大きく開き、すぐに疑うような目つきに変わる。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
俺から離れたいってこと? どうして?
あなた

それは、今言った通りで……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
絶対に嫌だ。
好きなやつができたとか、俺が近くにいると困るとか、そういう理由ならまだしも……。
そんなことぐらいじゃ、俺は認めない
あなた

……!


先輩はそう言うけれど、どうしてそこまでかたくななのか、彼だって肝心なことは言ってくれない。
あなた

(私のこと、どう思ってるの?)


ただの暇つぶしにしては、執着しすぎている。


だから、期待してしまったのかもしれない。


もしかすると、先輩も私のことをいいなと思ってくれているかも、なんて。
あなた

私、前から瀬戸くんが好きで……

朝比奈 傑
朝比奈 傑
はっ!? 初耳なんだけど……
あなた

そ、それで……駄目元で告白したら、付き合うことになったので!


この嘘は、できればつきたくなかった。


断腸だんちょうの思いで、両目をぎゅっと瞑りながら伝える。


先輩の反応が怖くて、恐る恐る目を開くと――。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
…………

彼は両頬を膨らませ、むくれていた。


そこに見えるのは、私の勘違いでなければ……嫉妬、だ。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
嘘だ。
俺から離れたいがために、嘘を言ってるだろ?
あなた

ほ、本当です

朝比奈 傑
朝比奈 傑
そう。
じゃあ、匠をここに呼ぶからな

事実確認のためか、傑先輩はスマートフォンを取り出すと、「今すぐ用事を終わらせて戻ってこい」と瀬戸くんを呼び出した。


気まずい雰囲気で、互いに黙ったまま瀬戸くんを待つこと数分。


息を切らしながら、瀬戸くんが戻ってきた。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
匠、あなたと付き合うことになったって、本当か?
瀬戸 匠
瀬戸 匠
本当だよ

息を整えた瀬戸くんは、悪びれる様子もなく、けろっとして答えた。
朝比奈 傑
朝比奈 傑
それなら、証拠を見せてほしい。
俺の知らないところでふたりがやりとりをしてたなら、何かしら残ってるだろ?
瀬戸 匠
瀬戸 匠
証拠……。
分かった

そんなものはないはずなのに、一体どうするつもりなのか。


焦る私に、瀬戸くんは突然歩み寄った。
あなた

……え


見上げた瞬間、瀬戸くんの顔が一気に私に近づいてくる。


【第5話へつづく】